第二十九話 力、そして敵
今回も遅くなりました。待たせてすみません。
(6/16追記)文章の修正を行いました。
真っ暗だった。周りを見渡しても誰もいない。何もない。しかし不思議と何も感じなかった。突然こんな場所にいることに恐怖を感じなかった。
(僕、なんでこんな所に……?)
そう思いながらとりあえず歩こうとした時だった。
「竜一」
自分の名を呼ばれて振り向く竜一。そこにいたのは一人の少女。外見的に竜一と同じぐらいの年だろう。おとなしめな少女はただ微笑んでいるだけだった。
「えっ……誰……?」
そういったものの、実はどこかで会ったような感覚があった。しかももっと身近に。
竜一が動かないでいると少女はゆっくりと竜一のもとに歩む。そしてすぐ近くまで来ると、竜一の胸あたりに手を添えた。
「えっ、ええっ!?」
「大丈夫、大丈夫だから」
状況を理解できていない竜一に対し、あくまでも優しく声をかける少女。すると少女の手が光りだす。
「何をするの!?」
「……竜一」
少女と目が合う。その眼は真剣な目。その真剣な眼から逃げてはいけない。そんな感じをさせるその眼を見て、竜一は少女の声に耳を傾けるしかなかった。
「あの子を助けてあげて。あの子は苦しんでいる。誰かに助けを求めている」
「あの子って……如月さんのこと?」
「……今からあなたに力をわけてあげる。だけどこの力は必要なとき以外は使ってはダメ。あの子にとっても、あなたにとっても、大きすぎる力。だから……」
少女が何か言おうとした瞬間、周りの景色が白く染まっていく。
少女が最後に言った言葉が聞こえた。
「……竜一。あなたは、私の……」
「……まさか君は!!!」
竜一の言葉が少女に伝える前に、竜一の視界が真っ白に染まり、別の声が響いた。
――竜一!!!!!
オールが竜一の意識を呼び覚ます。
ついさっきまで力なく倒れていた竜一が立ち上がる。その雰囲気は今までとは違うものと感じた光は警戒する。
「どういう事だ……なぜあいつは立ち上がれる……?」
光が驚いている中で、竜一はゆっくりと銃を構える。そして二発ほど弾を放った。
「ふん! この程度!」
光は最初に飛んできた弾を右に避ける。しかし避けた先にはすでに別の弾があった。
「なっ……!」
剣でとっさにガードする。今のは光が避けたのを見てからでは遅い。つまりあらかじめそこに撃っていたことになる。
(私が右へ行くことを知っていた? いやそんなはずは……!)
実は竜一は一発目をまっすぐには撃っていなかったのだ。一発目は光から見て少し左に撃った。ここで左に避けたら弾に当たる可能性が高い。だから大体の人はこの場合、右に避けるだろう。
つまり、光は避ける方向を誘導させられていたのだ。
竜一は再び銃で攻撃する。今度は弾を連発して撃ってくる。しかも今度は距離を縮めながら攻撃しているため、光は思うように動けなかった。
(くっ! 反撃できない!!)
そう思っている間に竜一が距離をつめてきた。そして左手に持っているセイバーで薙ぎ払う。
光は竜一の攻撃で隙ができており、避けようとしても満足には動けなかった。そのため、左腕を少し切りつけられる。
その傷に光は戦慄した。
(なんだこの魔力の密度は!)
さっきまでの竜一のセイバーとは明らかに違った。さっきまでは竜一がまだ未熟であったために、魔力の密度が低く、威力もあまりなかった。そのためかすってもほぼ無傷ですんだ。しかし今回は光に傷をつけられる程威力があったという事だ。
啓太達は竜一達が戦っているところから離れたところで見ていた。そして竜一の変わりように驚いていた。
「竜一は一体どうしたんだ!?」
そのとき、スレイが思い出したかのように呟いた言葉が、啓太とかすみの頭に響く。
(リべレーション……)
「リべレーション? なんか聞いたことあるような……」
その言葉にかすみが反応する。
「スレイが前に言っていた、強くなるってやつ?」
(うん……でもこんな時に見れるなんて……)
「……そういえばその言葉、その前にも聞いたことがあると思ったら……」
「なによ啓太?」
「リべレーションっていう言葉、ゲームでその意味を説明してたぞ。日本語で言えば……解放」
解放。それはまさに自身の力を最大限まで解放する事だった。今まさに、竜一は自身の力を引き出して光に対抗しているのだった。
「やあぁぁぁぁ!」
竜一は攻撃の手を休めず、次々と剣を振るう。光の服には防ぎきれなかった攻撃によってできた、小さな切り口が何か所もあった。光はこの猛攻にただ守るしかなかった。
「くっ! この……!」
光はこの状況にいら立っていた。さっきまで圧倒的な展開だったのに、いきなり自分が追い込まれている状況になっていたからだ。
光はそんな状況に冷静を保てず、感情に任せて攻撃し始める。
「いい加減に……しろぉぉぉぉぉ!!!!!」
大剣を大きく横に薙ぎ払い、竜一を強制的に退かせる。竜一は間一髪で後ろに避けた。
「お前なんか……お前なんかー!!!」
光は竜一に向けて突き出す。竜一は危険を察知してとっさに避けようとする。
「ホーリーカノン!!!!!」
手が光りだし、それが塊となって大きくなっていく。そして放たれたそれは、今までよりも大きな力だった。
竜一がいた場所に撃ちこまれたホーリーカノンは、着弾と同時に大きな爆風を巻き起こした。竜一は思わず巻き込まれそうになったが、何とか避けることに成功する。
しかし光はホーリーカノンを撃つのをやめなかった。何発も撃つそれは、地面をえぐり、建物を壊す。乱発して撃つそれは周りの被害を大きくしていた。
啓太達もその爆風やらにさらされる。
「何やってんだよあいつ!」
「ここを壊すつもり!?」
狙われている竜一は避け続けるが、そこでとあるミスをする。なんと着地した後ろに啓太達がいたのだ。
「しまった……!」
「なっ……!」
「これやばくない!?」
啓太達はさっきの戦いでまともには動けない。このまま竜一が避けてしまうと、光が放ったホーリーカノンは啓太達に直撃してしまう。その状況で竜一は逃げずに踏みとどまった。
「竜一!? 俺たちのことは気にするな! 早く逃げろー!!」
光はそんなことを気にせず、ホーリーカノンを放った。
「三人まとめて消えろ!!!」
ホーリーカノンが竜一に向かってくる。しかしそれでも竜一は避けようとせず、エナジーセイバーを構えた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
叫びとともに輝きだすエナジーセイバー。ホーリーカノンがすぐ近くまで来たとき、竜一はそれを狙ってセイバーをまっすぐ振り下ろした。
大きな音と閃光。啓太とかすみは思わず目をつぶる。しばらくして目を開けると、そこに竜一が立っていた。
「竜一すげぇや!!」
「まって! 様子がおかしい!」
竜一はしばらくすると苦しそうにしながらしゃがみこむ。そしてそのまま地面に倒れこんだ。
「はぁ……はぁ……!」
「竜一!? 大丈夫か!」
竜一の様子を見てかすみは青ざめた顔で言った。
「やっぱり……あの力を使って無事で済むわけがなかったんだわ!」
「な、なんでだよ!?」
「わからないの!? さっきまで如月さんには歯が立たなかったほど力の差があったわ! だけど今の戦いではほぼ互角の戦いだった! つまり、それほど大きな力を竜一君はいきなり使ってたのよ! それで何にもない方がおかしいわよ!」
「……っ!」
かすみの言うとおり、竜一は今までよりも大きな力をいきなり使った。そのため竜一の体に負担がかかり、限界が来てしまったのだ。
その竜一に近づく姿があった。それは光だった。
「き、如月さん……」
「これで、終わりだー!!!!!」
手が光りだし、魔力が集まっていく。もう竜一には体を動かす力がなかった。そんな竜一に
「ちくしょう! 竜一ー!!!!!」
「まちたまえ」
「「っ!!」」
その場にいた全員が聞き覚えのない、男の声に驚く。いや、この中にはこの声を知っている人がいた。
「この声……!」
「まさかキング!?」
光とセレンの声に竜一達は何か様子がおかしいことに気付く。
「キング? 誰だそれ?」
「皆! あそこを見て!!」
かすみが指差す先を見る。そこに人影が一つあった。その人影が喋りだす。
「焦ってはいけないよキサラギヒカリ。まだその時ではない」
光の名を出したその男は、明らかに日本人ではなかった。いや、この地球に住む人の雰囲気でもなかった。
ナイフのように鋭い眼。整えられた金髪。それらが目を引く中で、竜一はとある印象を持っていた。
「……オール?」