てけり!
公式ダンジョンの一つに潜ってみたところ、そこは森林をそのままダンジョンとして扱ったエリアだった。
こう……潜ってみて思うのは殺意が高い。
ジャングルに行ったことがないからわからないが、富士の樹海なら何度か調査に出向いたことがある。
あそこは磁場が狂っているから方位磁石が効かないという都市伝説があるが、それ以上に木の並びのせいで迷いやすい。
あるいは気の迷いかもしれんけれど、とにかく正しい道筋なんてものは無い。
このダンジョンも同様、道なき道を進むという事になるわけだが。
「はいそこ」
発砲、弾丸は木の上にいた毒蛇に当たる。
まったく……チュートリアルにしてはなかなか意地の悪いステージだ。
幸いというか、パートナーのスライムは不定形だからこそ悪路に悩まされていないようだが三佐のユニコーンなんかは歩きにくくて仕方ないだろう。
彼女がここをどう評価するか気になる所だが……いやおい待て。
「……カエンタケじゃねえか」
木の根元に生えていた真っ赤なキノコ、触れるだけで皮膚が爛れるという危険な代物が目についた。
もしかして数日かけて攻略するような場所なのか?
食料や水も自前で用意してなければクリアは難しいとか?
あるいはただ単にオブジェクトとして置かれて……あぁ、いや、試す方法あったな。
ナイフで中ほどで切ってからスライムに差し出す。
餌と思いゆっくりとカエンタケを包み込むと同時にビクンと跳ねてからHPバーが0になってべしゃりと地面のシミになった。
……本物と遜色ないかそれ以上にヤバいキノコだなこれ。
ナイフを見れば毒を塗った短剣と名前が書き替えられ、細かいステータスを見てみれば耐久度が3割程落ちている。
フレーバーテキストも猛毒を塗られたことで耐久力が減少し続ける代わりに、敵に猛毒ダメージを与えることができる短剣と書き換えられていた。
……マジでヤバイな。
とか思っていたらパートナーのスライムが復活した。
ゲームシステムではパートナーは弱ければ弱いほど、そして知性が低ければ低いほど復活が早いという。
スライムやスケルトンはその中でも最速というが……十秒くらいしか経ってないぞ?
本格的に愛玩用か趣味だな、こりゃ。
それから数分して、胸元のホルスターに入れていたナイフが砕け散った。
……マジもんの猛毒だけど、それはそれとして何故かスライムはカエンタケもどきを見つけるたびに飛びついては死ぬという謎の行動を繰り返し始めた。
どころか、見るからに毒々しい紫色のキノコやら、とげとげの葉っぱに喰いついては死ぬという行為を繰り返している。
何がしたいんだこいつは。
「あ?」
ポーンという電子音と共に眼前にウィンドウが現れる。
ゲームのアナウンス……【スライムが進化可能です】だと?
確かにゲームの説明欄にはそんな事が書いてあったが、私はまだ戦闘もろくにしていない。
毒をしこたま食っただけだぞこいつ。
「まぁいい」
(スタッフ、私だけじゃなくパートナーのスライムも監視対象に)
(とっくにですよ。しかし内部パラメーターに変化はないはずなんですがね……マスクデータまではもうちょい潜らないといけないんですが)
(それは私がログ解析と共に進める。これから進化させるからモニタリングを継続しろ)
了解、という短い返答と共に私は進化をするかという文字列の下に並んでいるyesのボタンを押した。
同時に足元で受益を舐めていたスライムがブルリと震え、ボコボコと形状を変えていく。
そして数秒、徐々に色が玉虫色に変化していき、目玉らしきものが複数。
口と呼んでいいのかわからない器官も生えてきているが……これ心臓弱い奴見たらその場で死ぬんじゃないか?
「テケリ・リ! テケリ・リ!」
「種族名ショゴス……ラヴクラフトか。しかし……」
ステータスを見るととんでもない数値だ。
好感度というか、ゲーム内じゃなつき度となっているがその数値が文字化けしている。
(どうだ)
(マスクデータどころか内部パラメーターすら見えなくなったんですが……というか2課の連中が離席しました。上に報告するとかなんとか)
(2課だと? あいつらは超常現象観測課だろ、確かにこいつは神話生物だがゲーム内だぞ?)
(理由はさっぱりですが、何かあるかもしれません。注意してください)
(わかった。それと三佐の方はどうだ)
(あちらは何事も無いようで。ユニコーンに乗りながら洞窟内爆走してますよ)
……余程広い場所なのだろう。
多分初心者でも問題なくクリアできる、いわゆるレベリングポイントを引いたのかもしれん。
洞窟内だと言っていたが馬に乗れるくらい広いという事は長剣とかの部類でも問題なく振り回せるし、炎の魔法だってある程度加減すれば使えるだろう。
そっちが本命の初心者ダンジョンで、こっちは初見殺しのチュートリアルダンジョンってことか。
残りの一つは……オーソドックスに考えるならボスラッシュに似た雑魚的を倒していく系か?
まぁいい、とりあえずこいつの処遇だが……。
「ショゴス、ここから私の指差した方角の動植物を全て喰え」
「てけり!」
……なんだろう、少し可愛いと思ってしまった私の感性は壊れているのかもしれない。
不定形の触手が敬礼する姿がこんなに愛らしいものなのか?
そう思いながら太陽の位置から見て南側を指さすと……。
「り!」
ゾッという音と共に草も木も、そして動物やモンスターらしき存在も抉られたように消えた。
……なんだこの強さ、初期段階で手に入れていいものじゃないだろ。
というか毒はどうな……HPバーがミリ単位で減ったと思ったら回復を繰り返している。
全然問題なさそうだな。
継続回復能力持ちとは……。
「なんというか、頼もしいんだがなぁ」
内部データが全部不明となると妙な不安に駆られる。
こいつが敵対したら勝てるのかどうか……絶対無理だわ、殴って殺せる相手ならともかく無理だ、うん。
「まぁいいか……行こうかショゴス」
「り!」
妙に愛くるしい動きするのはなんなんだろうなあ……。
見た目は不気味通り越しているのに愛嬌があるから憎めないというか。
まぁいいや。




