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グレイブクリエイトオンライン~VRMMO嫌いがてけり・り~  作者: 蒼井茜


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4/10

雌ゴリラ

「……普通だな」


 一歩、ゲームの世界に降り立った私は感想を漏らす。

 ありきたりともいえる光景、VRMMOから離れて1年が経つが当時の物と変わりはない。

 グラフィックだの何だのはもちろんの事、RFBを使用した感覚も大して変わらない。

 完全にもう一つの世界として機能している。

 いや、既に路線周りをAIに任せて人間はVR空間で仕事や学業をこなすようになった今こっちが現実という見方さえできる。

 だからか、作り物という感覚がどうしても薄まるのだろうか。

 オブジェクトの一つとっても膨大な演算の末に造られているこの世界はいったいどれほどの容量なのか。

 逆に、私達が現実だと思っている世界はどの程度の容量なのかが気になってくる。


「クレナイさん……一佐ですよね」


 少し感傷に耽っていると背後から声をかけられた。

 幼い声の持ち主、その頭上にはブルーという名を体で表すかのような青色の文字、プレイヤーだ。

 一般的なプレイヤーネームは青で表示され、なにかしらのゲーム内で許されている犯罪行為を犯した場合は黄色、PKと言われるプレイヤーキル、つまり殺人を犯した場合は赤で名前が表記される。

 いつから始まったのかは知らないが、少なくともVRなんてものが普及する前からの慣習らしい。


「三佐か」


「はい! 無事合流できてよかったです!」


(私達に何か違いはあるか)


(何もないですね。データも見た限りじゃRFBの有無くらいしかないです)


(そうか……)


 外部でモニタリングしているスタッフの言葉に納得する。


「プランの違いは特に大きなものじゃないらしいな」


「みたいですね。けどこれって……」


「何か気になる事でもあるのか?」


「いえ、い……クレナイさんのアバターなんですが、随分と勇ましいと言いますか」


「あぁ、これか。昔のゲームで手に入れたアバターでな。思い入れがあるから使ってるんだ」


 勇ましいというのはその通りだろう。

 とあるゲームがアニメとコラボして、その際に軍人女性のキャラクターアバターをゲーム内大会の商品にした。

 その時運よく手に入れて、それがVRMMO沼への一歩となったからだ。

 今じゃ似たような物を再現する事も容易いし、何ならアニメ公式から類似品をダウンロードする事もできる。

 違いがあるとすれば私は自分の素顔をもとに髪の色を名に合わせて紅くしており、衣類だけはそのキャラの物という事。

 ボディスーツのような見た目、ハイヒールで腰と胸部に軍人がつけるようなポケットがいくつもついた防弾ジャケットだ。


「それに初期装備も」


「あぁ、銃があったからな。ナイフと銃を合わせれば大抵の状況は乗り越えられる」


「もっとファンタジーしましょうよ……」


「そういう三佐……いやブルーは随分可愛らしい姿だな」


 彼女の姿は魔法少女というか、魔女というか……。

 なんといえばいいのだろう。

 古風な魔女のローブ姿にとんがり帽子、樫の木の杖といった見た目なのだがローブはドレスのように広がりフリルが見える。

 色合いも黒に近いのだが、よく見れば飾り糸でところどころに青や赤の線が走っている。


「ウィザードを超えたとか言われてますからね。このアバターも自作してみました! もちろん魔法使いですよ」


「それじゃウィッチだろうに……」


「まぁ肩書とかは気にしませんから。それに魔法使いとそれ以外の情報も欲しいですからね」


「まぁ、確かに私は物理特化だが」


 初期装備は複数あったが銃の項目を見つけた瞬間迷わずそれを選んだ。

 メイン武器とサブ武器の二つを選べたのでもう一つは頑丈そうな見た目のナイフを選んだのだが、見た目がそうというだけで実際の耐久力や攻撃力は変わらないらしい。

 RFBを使っているという事もあって魔法は基本的に使えない。

 いや、使えなくもないんだけど、各種ゲームに応じた扱い方があるからそれを学習するまでは使いこなせないというべきか。

 ……まったくもって、本当にもう一つの世界があるみたいだ。


「それでパートナーは……えぇ、趣味悪くないですか?」


 足元からもぞもぞと出てきたスライム。

 それを見て顔をしかめる三佐。


「不人気だから選んだ。不人気ってのは開拓者が少なく、情報の鉱脈だ」


「私は無難に馬にしましたよ。騎乗可能で見た目もカッコよくしたユニコーンです!」


「処女信仰の駄馬だろ」


「……一佐、夢がないですね」


「寝て見る夢も起きて見る夢も、結局後に残るのは現実だけだ。だったら最初から変な幻想は持たない方がいい」


「リアリストとも違いますね、ペシミスト……?」


「なんとでも言え」


「でも一つだけ聞いておかなければいけない事があります」


 三佐の声色が変わる。

 表情も真面目な物になり、緊張すら見せている。

 よほど重要な内容なのだろうか。


「一佐ってユニコーン乗れます? あ、もちろん処女か非処女かって意味で」


 ゴチンと、三佐の頭を殴って黙らせた。

 いや別に隠してる情報じゃないけれど乗れる。

 高校生という多感な時期に公安にハッキング仕掛けて、捕まって以来まともな人間を見てきていない。

 というかまともな精神じゃ公安なんて所にはいられないからな。

 一応国の後ろ盾ありきで大学課程も取得して経歴上は大卒入局ということになっているが、これと言って興味を惹かれる相手は男女問わずいなかった。

 結果的に私のラストキスは子供の頃父親の頬にしたのが最後だと記憶している。

 ……たしか父の日の贈り物が思いつかなくて、その場しのぎでやったらすごくお小遣いくれたんだったな。

 今にして思えば小学生に万札出して涙流す父親ってのはどうなんだろうか。

 まぁいいや。


「よし、まず一定の情報が集まるまではパーティを組むぞ。その後は情報次第で決めるとしよう」


「い、いえっさー……っつぅ、クレナイさんRFB使ってるのになんて威力を……紙装甲キャラにしたとは言え体力8割持っていかれたんですけど!?」


「そんな設定ができたのか」


「えぇえぇ、初期設定でパラメーターの割り振りできるんですよ。クレナイさんはやらなかったみたいですけどね!」


「してないな。パートナーと種族、あと初期装備の武器を選んだだけだ」


 ちなみに防具の選択もできたが、その分武器の性能に回してくれないかと交渉したらすんなり通った。

 私はゲーム内じゃアタッカー、あるいは回避盾と呼ばれる先方が基本だから防具は飾りか重りなんだよな。

 そういう意味じゃ紙装甲なのは私も同じだが……。


「しかしセーフティエリアの中でもダメージは発生すると……PKの不安が付きまとうわけか」


「あ、いえ、セーフティエリアはHPが0にならない、アバターに傷がつかないというルールみたいです。ここに来るまでに調べたんですが、例え致死毒でもセーフティエリア内じゃ摂取しても問題ありません。ただ解毒しなかったらエリアを出た瞬間に死ぬらしいですけど」


「そうなのか」


「だからさっきのげんこつによる8割ダメージも実際は致死ダメージと変わらないですよ。あれ本気じゃなかったですよね」


「まぁ3割ってところだ」


「……雌ゴリラ」


 もう一発拳を、今度は5割の力で叩きこんで黙らせる。

 ぴくぴくと痙攣しているが指先がコミカルに握られているので無視して大丈夫だろう。

 とはいえ、ある程度の痛みも感じるか……。


(三佐のバイタル情報、ダメージのフィードバックはどうなっている)


(1割と言った所です。まぁ一佐の拳ならそのくらいは当然かなと思いますけどね)


(どういう意味だおい)


(レベル1プレイヤーっていうのは一般人、成人男性の平均的な能力値と変わらないようです。三佐の設定だと成人女性の平均位でしょうか。そんな相手をげんこつ一発で殺せる人の拳が凶器じゃなければなんだと?)


 ……反論できないのが悔しい所だ。

 ちょっとした特殊体質で昔から身体が頑丈で、腕力も常人を超えている。

 100㎏まで測れる握力刑を握り潰して驚かれて以来加減を覚えたけれど、この体質のせいでVRゲームをすると身体が重くなって酔うからRFB様様というわけだ。

 どうにも親戚筋が妙ないわれがあるという話だけど、その手の付き合いが無くなって久しい今じゃ両親しか知らないだろうな。

 捕まってから勘当同然の扱いだったから聞くに聞けないけど。


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