筋トレ
翌朝、出勤してすぐに筋トレをする。
まぁ出勤と言っても寮生活、ほとんど囚人の私達に自由は無い。
筋トレはVRMMOを遊ぶ上で欠かせないものであり、既存のゲームと違い指先すら使わないため筋肉が衰えやすい分運動は必要になってくる。
手始めにダンベルを軽めに200㎏、ランニングを42㎞1時間、バーベル2000㎏を担いでスクワットを終えてからプロテインを飲んでいると三佐がやってきた。
私の足元に置かれているバーベルを見て顔をしかめる。
「……それ、持ち上げるんですか?」
「担いでスクワットしてたが?」
「……メスゴリラ」
「お? 今喧嘩売ったか? お?」
「いや、常人には無理ですからねそれ。普通に潰れます」
そうは言われてもできるんだから仕方あるまいて。
両親の血筋どっちも超常現象対策課が乗り出すくらいの家系だったって話聞いた時は眉唾だったが、妖怪とかそういう人外の血が混ざっているのは事実らしい。
精密検査でその辺詳らかにされてしまった以上私からの反論は無意味だから開き直って受け入れた。
むしろ便利でいいわこれ。
太りにくいし、運動が苦じゃない。
むしろ筋肉で体重ついてしまったくらいだけど、このくらいなら許容範囲内だ。
なんなら下地になる胸筋が鍛えられたから胸も大きく見えるようになったし、ボディラインのメリハリがわかりやすくなったともいえる。
一方でその辺のいわれが特にない三佐は……なんというか、お子様ボディそのままなんだよな。
メリハリはもちろん凹凸がない。
寸胴みたいな体型してるなこいつ。
「なんか視線がムカついたんで一佐の部屋、機銃斉射していいですか?」
「謝るからやめろ」
「謝るような事考えたんですね、ペイント弾ぶちまけておきます」
「それやったらお前の部屋の映像全世界に大公開な」
「ぐぬぬ」
ハッカーとクラッカーの喧嘩は割と不毛である。
どちらも悲しい思いをするだけなのだ……。
「まぁいい、詫びと言ってはなんだが補助をしてやる」
「待ってください、その耐久性ガッチガチに固めた床にもめり込んでるバーベルを持ってにじり寄るのやめてください」
「重量は半分にするぞ」
「それでも1tありますからね!? 一般人の私は潰れますからね!? 背骨が面白おかしい方向に曲がって前衛的なアートになりますよ!」
「大丈夫だ、人間はそんなに脆弱じゃない。私はね、人間の可能性を信じているんだよ」
「悪役みたいな事言いながらラスボスみたいなことしないでください! やめて乗せないであー!」
やればできる、そう思っていたのだが補助をしながらでも三佐は一度もバーベルを持ち上げる事は出来なかった。
安全バーに引っかかったままのバーベルはピクリともせず、持ち上がることがなかったので徐々に重りを外していき……。
「流石にこれは筋力なさすぎるだろ」
「バーだけでも20㎏ありますからね、幼稚園児を持ち上げているくらいの感覚ですよ」
「そんなんじゃお母さんになれないぞ」
「私結婚するなら石油王のハーレムの末端で数十年お手付きの無い立場を選びますから」
どんな高望みだ……?
いや、私達別に金には困ってないし、今後も困る予定もないからいいんだけどさ。
私はハッキングがメインだけど、やろうと思えばクラッキングもできる。
三佐に教わった分そこら辺の奴らよりも巧妙に、捕まらない形で金を手に入れる事は容易だ。
それに犯罪に頼らなくても力仕事でどうにかなる。
その三佐はクラッカーとしては私を片手で超えてくるタイプなので、痕跡残しても足取りを追えない形で金を引っ張ってこられるであろう三佐なら石油王なんかと結婚しなくても食うに困ることは無いだろう。
まぁそんな事すれば私達纏めて処刑されるんだけどさ。
「そう言えばスタッフから話は聞いたか」
「あぁ、今日から投資コースに切り替えるってやつですね。何人か追加人員用意してそっちも投資コースから始めるって聞きましたよ」
「それは私も初耳だな。けど母数を増やすこと自体は賛成だ。あのゲームは得体が知れない」
「そうですかね。いたって普通のゲームだと思いますけど」
「私のパートナーになってるショゴスを見ればわかる」
なんというか見るだけで内臓と脳味噌引っ掻き回されてるような気分になるんだよな。
狂気を直接脳髄に叩きこまれているような……まぁ慣れた物だけど。
如何せん狂気だ悪意だという話がよく出てくるが、悪魔だの幽霊だのよりも人間の悪意と狂気に勝るものに出会ったことは無い。
特に日本人、言うなればマンチキンの極みと言っていい。
抜け穴があればすぐに突きだすからな……おかげで六法全書が鈍器になってる。
隙を見せたら負けだ、隙を見せた方が悪いと言われる世の中だからな。
とはいえ、調査をするにしても今後の方針は決めておいた方がいいだろう。
上の階級が出張ってこないといいけど……。
ストック切れました!
更新不安定になります!




