いい商人
街に戻って路地裏を転々とすること1時間、スリングショットに黒マントといういかにも変態ですという姿の露天商を見つけた。
「チェリーブロッサムだな」
「クレナイ……懐かしい名だが、さて本人かどうか」
「ふんっ!」
本気の拳を鳩尾に叩きこむ。
一般人相手なら胸部陥没に心臓破裂くらいの衝撃だが……。
「こふっ……ふふっ、ふはは! この拳! この衝撃! 本物だ! 久しぶりだなクレナイ! VRMMOは引退したと聞いていたが!」
「訳あって戻ってきた。全面復帰じゃないけどな」
「構わん! いやお前にこんな場末で出会えるとは僥倖! 仲間にも報告しておこう!」
「それは構わんが、わざわざ足を運んだ理由を聞いてもらいたいね」
「あぁそうだな、君はいつも理由がなければ来なかったからな」
誰が好き好んで変態の所に来たがるか。
こいつRFB使ってるからゲームのアシストなしで最高級の武器防具仕上げているんだよ。
それこそリアルで鍛冶やらせたら後世に名を遺すんじゃないかというレベルだ。
ついでに心臓破裂並の痛みを笑顔で受け止める狂人でもある。
「それで、今日はどんな注文だ?」
「10フィート棒、と言いたいところだがお前相手なら遠慮はいらんな。如意棒が欲しい」
「ほほう、察するに罠察知と攻撃ができる武器という事だな? 如意棒という固有名詞を出したという事は伸縮自在な武器という事だ。それも相当な長さまで、短さの制限もかけず威力を出すために重量もそれなりにあった方がいいが、罠探知に使って疲れない程度。どうだ?」
「相変わらずだな。おおむねその通りだ。強いて言うなら重量は500㎏くらいが望ましい」
「ふむ、それならば簡単だが面白みに欠けるな。重量の変化も付けられるようにしてみようか」
「確かにそれができれば武器としても探索用としても使いやすいが……」
「なに、持っている素材で十分どうにかできる範疇だ。最後に見た目の方をどうするかだが」
「見た目か……イメージしてる赤と金だと目立ちすぎる。普通の鉄の棒と変わらないようなのでいいんだ」
「それこそ面白みがない。六角棒はどうだ、握りやすく殴りやすく力を分散させるも集中させるもある程度自由が利く。色は素材の味を生かした黒になるが」
「ならそれで、値段は?」
「昔なじみの復帰も兼ねて割引しよう。こんなもんだな」
指を4本立てたチェリーブロッサム。
400万か……まぁ妥当だな。
しかし所持金から換算すると全然足りない。
なのでメニューを開き、投資コースにさらに金をつぎ込む。
リアルマネーでぶん殴る手法だ。
そのまま換金した400万を送金するとチェリーブロッサムはニヤリと笑みを作った。
「まいどあり」
こいつは金の出所を聞いて来ない、いい商売人だ。
黒もしろも関係ない、それが金なら問題ないとしているタイプだから話も早い。
逆に言ってしまえば別のゲームだと禁止されているリアルマネートレードにも手を出すので、ゲームの運営会社からしたら困った奴に見えるかもしれないが、それでも足取りを掴み切れないのだから大したものだ。
まぁ個人的に調査依頼が届いて、公安監視の下で調べたからリアル情報知ってたわけだけど。
VOTの普及で外出が極端に減った社会だからこそ、外出の記録も残りやすいのだ。
だからこそ状況証拠だけなら揃えるのも容易いのだ。
具体的に言うとこいつが外に出ていた時間にいくらの金が動いたよというデータがとれた。
その事も踏まえて運営に報告したものの、状況証拠だけでは薄いと厳重注意で収まった。
無論、その後もリアルマネートレードを繰り返していたが、尻尾を掴ませることは無かったので立ち回りもなかなか周到である。
そんな変態でも有益なら使い倒すのが私の方針だからな、せいぜい利用させてもらおう。




