任務
化け物になろうオンラインのスピンオフですが、読んでなくても大丈夫な造りにしてあります。
私はVRMMOが大嫌いだ。
いや、大嫌いになったというのが正しいかもしれない。
うん、今にして思えばVR系のゲームはオンオフ問わず結構遊んでいた記憶がある。
けどこの一年は仕事以外じゃVRに繋がろうともしなかった。
その理由ははっきりしているのだが……。
「なんで私がこの件を?」
「君のVR嫌いはうちでも有名だ。だからこそ忌憚のない意見を聞けると思ったのだよ」
「ですが課長」
「上司命令という奴だ。私ではなく更に上からのな」
「……それは、どなたかお尋ねしても?」
私の言葉に課長は指を振ってテレビをつけた。
そこに映し出されているのはアダルトビデオ……。
「間違えた、こっちだ」
すいっと指を動かせばチャンネルが切り替わり、国会議事堂が映し出される。
そこでは総理大臣が討論の渦中で神妙そうな顔をしていた。
「わかったかね? 私達は国家公安局、つまりは公僕であり国家の忠実な犬だ。この命令が聞けないというなら君の拘束も視野に入れなければならない」
「……わかりました」
そこまで言われてしまえば私と手首を盾に振るしかない。
「では鶴巻紅一佐、国家公安局国防委員会の一員として本件、終末医療向けVRMMOの調査を開始せよ。必要な設備はこちらで整える。優秀なスタッフもサポートにつくことになっている。安心して挑みたまえ」
「受領、いたします」
震える手で敬礼しながら、私は胸の内で課長をカービンライフルで蜂の巣にした。
「ねぇねぇ、紅一佐。VRMMO嫌いって聞きますけどなんでですか?」
「嫌煙家の成り立ちを知っているか、沙良三佐」
「んん? 煙草が嫌いな人の事ですよね。最初から嫌いとか、周囲の影響とかじゃないですか?」
今回同じ任務に当たる事になった青木沙良一佐。
私達は便宜上自衛隊の階級を持たされているが、本職は国家公安局の一員だ。
そして普段は国防長などの意見を士官に通達する程度の、いわば給料泥棒のはずだった。
だというのに厄介な仕事を、厄介なパートナー連れてという事になってしまった。
あと数年もすれば出世して、軍籍を返上して、後は椅子を尻で磨くだけの仕事になると思っていたのに……。
「もちろんそれもある。だが私の知る限り愛煙家が禁煙した後嫌煙家になる事が多い」
「その理論だと紅一佐はVRMMOが好きだったという事になりますよね?」
「そうだな、好きだったよ。だがオンラインゲームというのは良くも悪くも人の集まり、そして運営する側も選ばれた人間の集まり。言うなれば小さな国家だ」
当然、トラブルも発生する。
「そこで発生する問題を取り締まるのがAIであり、そのAIがアウトと判定した者のみをゲームマスター。通称GMが取り締まる。私達の国をよりシステマチックにしたらこうなるだろう」
「そういわれてみれば確かに……けどそれがなにか?」
「つまりだ、私達の国家は法に殉じていれば凡その事は許されるし、酷い言い方をするならばバレなければ犯罪ではないのだよ」
「それは……まぁ私達も似たようなものですしね。国のお墨付きを得て見えないところで結構やらかしてますし」
暴徒やテロ組織の鎮圧のための殺人やがさ入れなど、警察では対処しきれない所をカバーする事もあるがそれは専門の部署が行っている。
私達の犯罪とは過去の経歴、つまりはハッカーやクラッカーをしていたという事実をもみ消す代わりに、国家公安局でその手腕をという物だった。
事実私も沙良三佐も元ハッカーとクラッカーだ。
私の場合は高校生の頃に公安のデータを覗き見したのがバレて、沙羅三佐は去年大手銀行から数十億円を適当な議員に送金した事で今の立場についている。
それからも似たような覗き見や、破壊工作を裏でやらされてきたわけだが……。
「VRMMOはもっと、悪い意味で法治的だ。あらゆるデータ、例えばプレイヤーの独り言ですら記録され裁判にかけられる。もちろんNGワードを口にしたからと言って全員がGMと面談する事になるわけではないがな」
「まぁそうですね。監視社会とか言いますけどその極地だと思います」
「だがゲームのルールに殉じている限り、法治国家同様マナー違反程度であれば凡そ許される」
思い出しただけで腸が煮えくり返りそうだ。
あの惨劇の事を……。
「血液味噌汁事件というのを調べるといい。私はその渦中で真っ先に吸血されたプレイヤーだ」
「えーと……あぁ、VRMMO史に残る伝説の炎上事件四天王とか言われてるこれですか」
血液味噌汁事件とは、とあるVRMMOにて吸血鬼という種族がいた。
プレイヤーでも選択できる種族であり、エルフより魔法が上手く、ドワーフよりも力が強い代わりに夜間以外は能力値が大幅に減少。
更に定期的に吸血を行わなければ能力減少というピーキーな仕様のモノだった。
当然プレイ人数は少なかったが、この種族の特性として他者を観戦させて吸血鬼にすることができるという物である。
もちろんデメリットが増えるばかりで治療法も限られてくるとなれば、それを望むプレイヤーは少なく少数のクランで細々と遊んでいたそうだ。
だがとある新規プレイヤーがそれを滅茶苦茶にした。
運営は何を血迷ったのか……いや実際血迷っていたのだろうけれど、ある意味では正しい回答だったのかもしれないが、NPCの血液に対して味覚エンジンを改竄して味噌汁の味に仕立てたのだ。
それもランダムに設定したため、家族という設定のNPCですら異なる味の味噌汁が提供されると聞いてとある街が一つ吸血鬼プレイヤーや、その冗談のような設定に便乗したプレイヤーによって壊滅する事になった。
NPCの吸血鬼は太陽光で死ぬ。
たった数日で廃墟となった街は、後に公式からの謝罪文と共にダンジョンへと変貌した。
私が必死に好感度を稼いでようやくユニーククエストにありつけるという所で、クエスト諸共街が消滅した。
その理不尽な出来事から私はVRMMOという水物を嫌うようになったのである。
「んー確かに運営からのお詫びとかそういうのは少ないですね」
「覗き見までは許していないぞ」
「いえ、運営の過去ログの方で先輩のは見てないですよ」
「ならいい」
とはいえ、実際私の所にユニーククエスト破棄のお詫びとして届いたのはそのクエストをクリアする事で手に入る聖剣だった。
既に吸血鬼となり、聖なる物に莫大な弱点を持った私はそれを扱う事ができず抗議のメールをぶん投げまくったところBANされたのである。
流石にキレてハッキングしそうになったのを同僚に抑えられ、以後VR界隈にはかかわってこなかった。
「でも今回の仕事って終末医療関係ですよね。そこまで肩ひじ張らなくてもいいんじゃないですか? 久しぶりにちょっと遊んでみようくらいな感覚で」
「……そうだな。だが国防関係というのが気になるが」
「最近VRMMO関係がきな臭いって聞きますからね。MMO経由でハッキングなんて手法も出てきてますし、電脳的に国家を護るという事じゃないですか?」
「その程度だといいんだけどな……」
なんとなく、物凄く嫌な予感がしたのは気のせいだと思いたい。
あの事件を思い出したからか、それとも嫌いになった物に触れるからか、さもなくば第六感ともいうべき何かが働いたのか……。
4作品連載だとなんかキリも縁起もよくないので5作品連載にします。
これも毎週水曜日更新予定。




