赤ん坊の師匠選び
こいつはメイド兼ボディーガードを務めているバケモノだ。
なにも、メイド兼ボディーガードをこなすのがバケモノじみている訳ではない。
エリナ・ローヴェル、俺は彼女の動きを見たことがある。とある日、俺が窓を覗きながら管トレしている時に、敷地内に植物のような魔族が現れ、目から魔法を打とうとした瞬間、彼女は目にも見えない動きで目をそこら辺に落ちている枝で叩き潰したのだ。
他にも逸話はある。
俺が寝ている時はいつもそばにいて、ようやくエリナが眠ったと思って書庫に行こうとしたら、すぐに彼女は目を開ける。その後にトイレだの目が覚めちゃった、など言い訳を繰り返し続けている。
これのおかしいところが、動いて音を立ててしまった訳ではなく、むしろ体なんて一切動かしていないのに、動こうと決めた途端彼女は目を開ける。
流石にこれはおかしい、何かの魔法を使っているのが妥当だろうが、それでも十分過ぎるほど異常だ。
そいつが、俺を危険な場所に行かせないように管理をしている。本が読みたいと言ってそれとなく書庫に行こうとしたら、適当に絵本を数冊とってこられたりと、徹底的に俺を部屋からあまり出さない。これは流石に管理しすぎだと思うが、エリシアかカシウスがキツく言ってるのだろう。
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ついに、俺は管が見えなくなった。
俺の推測はあっていたらしい、転生してから2年と約3ヶ月が経過した
管トレは、もうできない。見えないだけで、やれるかもと思ったが、やってみてもあの圧迫感は無くなった。つまりは鍛えられていないのだろう。
一応、管は10倍くらいにはなったが、どこまでできるだろうか……
俺はもう軽く話しても怪しまれないところまできた。1人で特に不自由なく歩けるし、これならいけるかもしれない。
翌日
俺は食卓の上でスプーンを小さな手に握りながら、
「……お母様、お父様、お願いがあります」
重々しい雰囲気で尋ねた。
エリシアが柔らかく微笑む。
「どうしたの?アルト」
俺は目を真っ直ぐに見開き、言葉を選ぶように慎重に話す。
「僕、魔法を学びたいんです」
「え、魔法を学びたいの?」
すぐにエリシアが反応した。
カシウスは眉をひそめる。
俺が問題視しているのは、カシウスだ。
こいつはとにかく厳格で、どんな物事にも覚悟を問うような、そんな頑固なやつだ。カシウスの部下がよく叱られているのを家で見ている。
俺が魔法を学ぶことも、快く良いとは言わないだろう。
「……まだお前には早くないか?」
俺は小さく首を振った。
「僕はまだ未熟ですけど、魔術の理屈は理解できます。
だから、正しいやり方で、エリナさんに教えてほしいです」
エリシアがが驚きの色を浮かべる。
「……なるほど」
俺は軽く頷いた。やはりエリシアはどうとでもなりそうだ。
「はい。僕はただ、魔法が気になるんです。興味があるんです。僕は、お母様が呼んでくれた本の魔法をずっと使ってみたかったんです。絵本でしかみたことのない、あの魔法を見たいんです」
カシウスの顔を少し見るが、眉をしかめたままだ。
「無理に全部を一度に覚えようとは思っていません。段階を踏んで、少しずつ学びたいんです」
「うん、そうかぁアルトがもう魔法ねぇ……なるほどぉあの時読んであげた本ねぇ……少し早いけど良いんじゃない?エリナになら安心して任せられるし……」
エリシアはもう完全に学ばせる気満々と言った感じだ。こういうタイプは理論より感情論だ。
それで、カシウスは……どうだ?
「……だめだ」
クソ!頑固ジジイが!エリシアが賛成してくれても、家主のこいつが賛成しないと、絶対に学べないだろう。
「なぜですか?」
カシウスは俺に向け、指を3つ立てた
「まずは単純に、魔法は危険だ。暴発し怪我を負うこともある、または死ぬことだってありえる。他にも自分に向けて打ってしまったり、遊び半分に使い怪我をするのも、私は何度も見てきた。それが一つ」
管の練習をしているから滅多なことでは怪我は負わないと言っても、信頼されないだろうし、赤ん坊の頃から意識があったのか?と突っ込まれたら終わりだ。反論できない。
「次に金だ。エリナは一時期伝説の冒険者として名をはせ、私から見ても素晴らしい実力者だった。雇うために必要な金は多い、さらにリディアとサフィアも雇っている。エリナにやらせている家事や書類仕事を削り、お前にあてることはできない。かと言って家に魔法使いを雇い、お前に教えさせてやることも無理だ。そんな余裕はない」
おい、ちょっとは情けなくないのか?つまりは金がないからできませーんってことだろ?親なら無理してでも通わせてあげるもんじゃないのか?
「最後に、魔法には夢がない」
「は?」
何を言っているんだ、このジジイ
「親に向かってその態度は気になるが、不問にしてやろう。話を戻すが、魔法は弱い。近年では剣で切り裂いたり、鎧に魔法防護陣を仕込むなど、魔法を無力化させる手段は無数にある。鍛えたとしても魔法は何ら意味をなさない以上の三つからお前に魔法は覚えさせられない」
いや、なんだよそれ!可愛い息子のおねだりに対してそんなこと言うか!?俺が本当に子供だったら間違いなくグレてるぞ。
「いや、趣味のような感じで魔法を……」
「そうよ、あなた。それは流石に……」
お、言ってやれ!エリシア。
「悪いが、俺はお前の目を見て、1人の志願兵として扱うと決めた。志願兵に趣味で魔法を覚えさせるつもりはない」
「え、ちょ……」
何だよ目って、もしかして……俺の中身バレかけてるのか?くっそ……それならあんまり突っ込むべきではないか……
あぁ失敗か。
もうしばらく、後一年くらい待つとか、エリシアに頼んでこっそり誰かに教えてもらうしかないか……
「すみません、口を挟んでもよろしいでしょうか?」
いきなりエリナが話し始めた。
「許可する」
「はい、私はアルト様が魔法を学ぶことに賛成いたします」
な、なんと!?俺の味方が現れたのか?
「理由は何だ?」
「はい、まずは一つ目の理由ですが、私が面倒を見ます。私の誇りにかけ、アルト様をお守りいたします」
「ふむ……」
他の誰かが言えば口約束だが、この頑固ジジイが褒めるくらいの実力者の誇りを賭けるなら、それ相応の意味を持つらしい。
「二つ目の金の問題は、ご安心ください、変わらずに仕事を成し遂げてみせます。今まで手を抜いていた訳ではありませんが、その日の間までに残業になったとしても資料類は完成させますし、資料の仕事に当てている時間をアルト様にあてるので、家事も問題ありません」
「ほぅ」
え、エリナ姉さん!
「三つ目の魔術の問題ですが、私は魔法には価値があるとは思います。アルト様はカシウス様が言う通り、良い目をしています。私の予想では、カシウス様や、私を超えうる方だと思われます」
エリナ姉さんも目……か。
というか、カシウスの強さはわからないが、伝説の冒険者と言われているエリナ姉さんを超えるか?流石に言い過ぎじゃないか?それに、これに関しては完全に予想だし、論理的でも何にもないが……
「……それも、お前の、エリナ・ローヴァルの誇りにかけての発言か?」
「はい」
即答したぞ?だ、大丈夫か?こういうのって、もっとためてから
はい、誓います。
みたいな感じじゃないと軽く捉えられたりするんじゃないか?
「わかった」
わかるのか!?
「だが条件がある、アルト、お前は10日以内に中級魔術師になれ」
流石に条件付きか、抜き目ないな。まぁ中級ならなんとかなるのか?なんか中くらいって大したことなさそうだし。見た目は2歳だが、心は中年だ。管だって鍛えてきたんだ。
何とかなるだろう。
「え?その、あなた?中級魔術師になるのは、無理があるんじゃないかしら?アルトはまだ2歳ですよ?」
え?さっきまで黙ってたエリシアが反論するくらい難しいのか?
「わかりました」
おぉ、まぁとにかく俺は今日から、エリナさんから魔法を覚えられるようになるみたいだ。
「あのぉエリナさん、どれだけ中級魔術師になるのは難しいんですか?」
「そうですね、昔話になるんですけど、先ほどカシウス様が言われた通り、4年ほど前、伝説の冒険者と言われており、そんな私は、剣も魔法も同じくらいの実力を持っていました」
ほぅ、エリナさんは両方使えのか。魔法剣士というやつだな、両刀より特化した方が強いと思うが、この世界ではまぁそういう問題ではないんだろう。
「それで、エリナさんの級はどれくらいだったんですか?」
「中級です」
「ん?…………冗談ですか?」
「本当です」
えーっと、俺はつまり、2歳でエリナさんがぶいぶい言わせた頃の級と並べと?
……想像よりも大変そうだ。
いきなり書いちゃいました!かなり高頻度に投稿できる自信あるので!ぜひ見ててください!!




