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赤ん坊の覚醒


 長い、長すぎる。

 赤ん坊の一日はとにかく長かった。

 動けない、話せない、選べない。泣くか、眠るか、抱かれるか、その三択しかない生活だ。スマホも本も何もないこの世界は、あまりに窮屈で退屈だ。

 刺激が全くないわけじゃないんだけどな。

 時間の感覚が曖昧で、昼と夜の区別もはっきりしない。

 眠って、起きて、聞いて、また眠る。その繰り返しの中で、唯一はっきりしているのが「音」だった。


 暇すぎるせいか、俺は次第に、意識的に耳を澄ますようになっていた。

 誰かが話すたび、その声を追う。

 抑揚、語尾、間の取り方。感情が乗る時と、事務的になる時の違い。意味はまだ分からない。

 それでも、同じ音が同じ場面で使われることには気づく。食事の前。風呂の後。俺を抱き上げる時。決まって聞こえる音の並びがある。

 それを、頭の中で何度もなぞる。再生する。比べる。重ねる。まるで、何百回も同じ録音を聞かされているようだった。


 努力しているという感覚はない。

 だが、放っておいても頭が止まらない。覚えようとしなくても、覚えてしまう。ある日、ふと気づく。声が「音」じゃなくなっている。

 意味はまだ言語化できない。それでも、聞いた瞬間に状況が浮かぶ。叱られている。心配されている。喜ばれている。そういう感情が、言葉と結びついている。

 ——理解、できている。前世では考えられなかった速度だ。辞書も、参考書も、努力もいらない。ただ聞くだけで、世界が組み上がっていく。

 気づけば、親の会話の内容がほぼ分かるようになっていた。難しい話はまだ曖昧だが、日常会話なら問題ない。

 半年も経たないうちに、俺はこの世界の言葉を、ほぼ完全に理解していた。

 言葉は、まだ口に出せない。喉と舌が、思考に追いついていないのだ。

 今度は文字の練習だ、母親がよく読んでくれる本が、ベットに落ちていたから読み進め、今まで何度も読んでくれて内容もわかっているから、どんどん文字の意味を合わせていく。

 そんな様子を母親が見て、うちの子は天才だわ!とでも思ったのか、文字を簡単にだが、夜の読み聞かせの時に教えてくれるようになった。

 そうやって教わっていくうちに、両親の名前はなんとか覚えることができた。

 父親の名前は、カシウス・ハルフォード

 母親の名前はエリシア・ハルフォードだ。

 それで、俺のこの世界においての名前……要はこの子につけられるはずだった名前は、アルト。

 アルト・ハルフォード

 



 

 そんなある日。いつものように、ぼんやりと天井を眺めていた時だった。

 胸の奥に、違和感がある。熱とも、重さとも違う。脈打つような、流れるような感覚。呼吸に合わせて、微かに揺れる何か。意識を向けると、確かに、ある。

 俺の中——これ、なんだ?

 集中すると、その感覚ははっきりする。広がり、縮み、また戻る。血流とは違う。筋肉でもない。説明できないが、直感で分かる。

 これは、この世界特有のものだ。魔力、というやつだろう。まだ使い方も、扱い方も分からない。だが、確かに存在している。

 退屈で仕方なかった赤ん坊の時間に、ようやく一つ、やるべきことが見つかったのか?

 俺は静かに、その感覚を忘れないよう、何度もなぞった。今はまだ、動かせなくていい。感じられるだけで十分だ。

 言語の練習の次は、俺が密かに楽しみにしていた、魔法の練習だ。

 これから毎日魔法の流れに触れた。なぞることに慣れたら、今度は軽く握ってみよう、とすると頭にどんどん情報が流れ始めて咄嗟に手を離してしまった。


 なんだ?この感覚……一気に、来た。

 頭の奥を、濁流が叩きつけるような感覚。

 映像でも、言葉でもない。概念の塊が、無理やり流し込まれる。熱い。痛い。思考が追いつかない。

 反射的に、俺は“それ”から意識を逸らした。

 ぶつり、と。

 さっきまで確かに感じていた流れが、途切れる。

 肺がひくりと痙攣して、短い息を吸い込む。

 視界が一瞬、白く滲んだ。

 ……今の、なんだ。

 怖さよりも、困惑が勝っていた。

 触れただけだ。握ろうとしただけで、何かが“返ってきた”。まるで、この世界そのものが、俺に語りかけてきたみたいに。

 もう一度、慎重に意識を向ける。

 さっきより、ずっと浅く。指先で水面を撫でるような感覚で。

 ——ある。

 確かに、そこにある。

 さっきほどの暴走は起きない。

 どうやら、力を込めすぎたのが原因らしい。赤ん坊の身体に、前世の感覚で触れたのが間違いだった。

 理解した瞬間、妙に納得してしまった。

 俺は大人の思考を持っているが、器はまだ赤ん坊だ。無理に注げば、溢れるし、壊れる。

 ……つまり。

 これは、練習できる。

 俺は自分の中でルールを作った。

 触れるのは一日数回まで。

 握らない。引き寄せない。ただ、感じるだけ。

 異変を感じたら、即やめる。

 それからの日々は、以前よりずっと早く過ぎた。

 言葉を聞く。意味を確認する。眠る。

 起きて、魔力を感じる。

 その繰り返し。

 魔力は、最初より少しだけ、輪郭を持ち始めていた。

 曖昧な“何か”だった感覚が、だんだんと「流れ」として認識できるようになる。自分の内側を巡って、また戻る、穏やかな循環。まるで、管のようなものが、俺の体内にある。実態があるかまではわからないが。

 そして、ある時気づいた。

 ——これ、外とも繋がってるな。

 自分の中だけじゃない。

 周囲にも、同じ質のものが、薄く、広く存在している。空気に溶けて、部屋を満たしている感覚。

 鳥肌が立つような高揚が、背中を走る。

 この世界は、思っていた以上に、面白い。

 俺は泣きもせず、喚きもせず、ただ天井を見つめながら、静かに確信していた。

 ——時間はかかる。

 だが、間違いなく俺は、ここで強くなる。

 赤ん坊の一日は、相変わらず長い。

 けれどもう、退屈ではなかった。

――――――――――――――――――――――

 転生してから、一年が経った。

 赤ん坊だった俺は、もう完全に「何もできない存在」ではなくなっていた。

 家具に手を添えれば立てるし、短い距離なら、転びそうになりながらも歩ける。

 親に手を引いてもらって練習をした甲斐があったな。

 世界は相変わらず広くて、時間も長い。だが、手を伸ばせば触れられるものが増えた分だけ、退屈は薄れていた。

 言葉は、まだ口に出せない。喉も舌も、思考に追いついていない。

 それでも、理解は進み続けている。


 最初は、音と一緒に聞くだけだった。

 次に、音と文字の形が、なんとなく結びついた。

 そして、いつの間にか——文字を見ると、音が浮かぶようになっていた。

 ある時、ふと気づいた。

 途中で止まらず、最後まで話の流れを追えている。母の声がなくても、頭の中で物語が続いている。

 ……ああ。

 静かな納得が、胸に落ちた。

 読めるようになってきている。

 完璧じゃない。だが、もう「絵だけを見ている」段階は終わっていた。

 嬉しさは、じわじわ来た、爆発するような感動じゃない。

 積み重ねが、ちゃんと形になったことへの、穏やかな実感。

 前世で文字を覚えた頃を思い出す。

 何度も書いて、間違えて、時間をかけて、ようやく身についたものだった。

 なのに今は、聞いて、見て、繰り返すだけで、ここまで来ている。

 ……悪くない。

 絵本を閉じた。もう内容は、ほとんど分かっている。

 次に読むものは決めている。


 

 俺は夜、少しずつ歩き、椅子を使って、扉を開けた。

 昼間、父親が使っているのを何度も見ていた。鍵はかけられていないので、俺は書庫にたどり着くことができた。

 

 ここには数多の本があるが、俺が探す本は、魔法の使い方が書かれている本だ。

 本棚にあるのは、小説のような物語の書かれた本、歴史について色々と書かれている本、世界の情勢やらもろもろ大事なことが書かれていそうな本など、こんなに本がたくさんあるなら、需要が高い魔法の使い方が書いている本なんてあるはずだが……

 お、これだこれだ。

 魔法の使い方なんかだけじゃなく、種類や歴史まで描かれた本だ。

 まずは、使い方からだよな。



 ……ふむふむ、なるほどなるほど。

 1時間かけて読破できたが、とりあえず使い方はこんな感じか。

――――――――――――――――――――――――

 魔法の基本操作

この世界における魔法の行使は、以下の四段階で成立する。


① 必要な分の魔力を用意する

魔法は「持っている魔力を全部使う」ものでは決してない。

•魔術ごとに必要量が決まっている

•足りなければ不発

•多すぎると制御不能になり、体に危機が訪れることもある。

熟練者ほど必要最低限を正確に切り出せる

 

② 発動する魔術を選択する

魔法は「なんとなく」では発動しない。

•火を出すのか

•風を動かすのか

•形を保つのか

必ず一つの魔術を明確に選ぶ必要がある。

複数を同時に選ぶと、基本は失敗か暴発。

 

③ 発動する魔法を頭の中で想像する

ここが一番重要だ。

想像とは

•映像を思い浮かべることではない

•「起きる結果」だけを考えることでもない

魔法が成立するまでの過程を、感覚として再現すること

例:

 •火魔法なら

 「温度が上がり、空気が膨張し、光が生まれる」

細かく想像できるほど、魔法は安定する。

 神がかった魔法の調整を行うと、稀に新しい魔法が生まれるそうだ。


④ 集中して打ち出す

最後に必要なのは集中。

•意識が散ると霧散

•感情が乱れると歪む

打ち出すとは

世界に向けて「今だ」と合図を送ること

魔法を唱える。


 

補足:詠唱・魔法陣との関係

 詠唱と魔法陣はこの世界の補助輪のようなものである。

•詠唱→想像と集中を一定水準に保つためのガイド文

•魔法陣→ 魔力配分と術式選択を自動化する安全装置、要は魔力を注ぐだけで魔法を使うことが可能になる


 

 基本四属性コア

 火属性|【加速・放出】

干渉方向:エネルギーを外に逃がす

•熱

•光

•爆発

特徴:

•想像が簡単

•出力が上がりやすい

•失敗すると暴発しやすい


 水属性|【流動・変換】

干渉方向:状態を変え、流れを作る

•水

•氷

•霧

•血液操作(激ムズ)

特徴:

•精度が重要

•安定性が高い

•防御・補助向き

 

 風属性|【移動・圧力】

干渉方向:位置と速度を操作する

•風

•音

•飛翔(激ムズ)

特徴:

•見えにくい

•操作が難しい

•感覚派が強い


 土属性|【固定・構築】

干渉方向:形と位置を維持する

•岩

•金属

•壁

•重力補助(激ムズ)

特徴:

•魔力消費が大きい

•持続型が多い

――――――――――――――――――――――――

 と、いうことか、なるほど。

 魔力に触れることは特に書かれていなかったな、魔力の流れみたいなのに触れるのは無意味だったのか?

 はぁそれだとやる気無くすなー、まぁここで少し魔法を出してみるか。もしできたらやる気少し出しちゃうかだぞ?頼むぞ、神様。……いや、あの神に願うのは癪だな。

 頼むぞ、マコト以外の神様……

 ①使う魔力はほんの少し、1%くらい

 ②風を出す

 ③イメージはそよかぜ、扇風機、手からほんの少しだけ魔力を打ち出す

 ④あとは……集中……出すのは、本に書かれていた初級魔術

「ウィンド」

 唱えると、微風が流れ始め、本の紙が揺れ始めた。

 よし!成功だ!成功だ!

 俺は、成功したんだ!よし、よし!!

 あぁ努力は素晴らしい、やはり前世は俺のスペックが悪いだけで、俺自身は、何も悪くなかったんだ!

 ザマァ見ろ!俺はなんでもできるんだ!なんでも、そうなんでもだ!

 フッこれから始まるんだ、俺の英雄譚が!!!

 うっ、なんだこれ…………は?

 俺の赤ん坊の手のひらを見ると、表面から血が滲んでいた。

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