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少年の戦闘

今回は筆が乗って早めにできました!感想やブックマークをぜひお願いします!


 ――ほんの、数十秒。


 それだけの時間が、やけに長く感じられた。

 夜の裏路地に、誰も動かない沈黙が落ちる。

 敵は残り1人とはいえ、状況が有利になったとは、まったく思えない。


 男は少女の首元に腕を回し、盾として固定したまま動かない。

 力は入れていない――ように見える。

 こいつも剣士だ。よく見れば、腰元に剣を携えている。


 少女の小さな肩が、かすかに震えているのがわかる。

 その様子を見ているだけで、胸の奥がざわついた。

 ……くそ。


 風に意識を向ける。

 ウィンドサーチはまだ生きている。

 裏路地の外――広場の奥で、規則正しい足音が遠くにある。

 大声を出したとしても、同様に少女は首を切られるだろう。

 

 


「……お互い、少し冷静になろうじゃないか」

 沈黙を破ったのは、男の方だった。

 低く、落ち着いた声。

 さっきまでの軽薄さは消え、妙に現実的な響きだけが残っている。

「俺も、これ以上事を荒立てたいわけじゃない」

「……その割には、随分な真似をしてますね」


 俺は魔法を構えたまま、一歩も動かない。

 視線は、男の腕と、少女の首元から逸らさない。

「はは、言ってくれる。だがな、こうでもしないと話にならないだろ?」

「……」


 男は肩をすくめるような仕草をしながら、ゆっくりと言葉を続けた。

「取引をしよう」

「取引、ですか」

「ああ。簡単な話だ」

 男は一瞬だけ、こちらを値踏みするような目で見てから、はっきりと言った。

 

「俺はこのガキを連れて、ここを離れる。代わりにお前は、その二人組を連れてけ、衛兵に受け渡せば勲章でも貰えるんじゃないか?その代わり、俺の情報は知らせるな。そうだな、市場の窃盗犯ってのでどうだ?」

「……!てめぇ!!ふざけんじゃねぇ!」

「そうだ!さっさとこんなガキぶった斬れ!!」

 戦闘不能にした男達が、売られそうになってると気づき、喚いてきた。

「うるせぇな。次話したら、お前らを殺すぞ」

「「ひっ……!」」

 男達二人組はすぐに推し黙ってしまった。

 ぶっちゃけ、俺もだいぶブルってしまっていた。

 前の世界の不良とかが言う殺すとはまるで違う、まさに殺気が声から溢れていた。

「もし俺の情報が漏れたなら、必ずお前を殺しに戻る。無論、お前ら2人がゲロっても必ず殺しにいってやる」

 二人組はずっと震えっぱなしだ。こいつ、そんなにやばいやつなのか。

「……悪いが、そんな覚悟だったら、こんなことしないんでな」

 それに、状況は、こっちが有利なはずだ。だって――

「有利だとでも思ってんのか?」

 男は見透かしたように俺に問いかけてきた。

「さっきから大声で話してるから衛兵でも来ると思ってるんだろうが、魔道具でこっからのある程度の範囲の音を漏らさない、要は衛兵達に俺たちの声は聞こえない」

 は!?

 そんな、馬鹿な。

 魔道具を仕掛けるタイミングなんかなかったはずだ。

「う、嘘――」

「そんなタイミングがないと思ってるんだろうが、この吸音石の力で、元々音を消したままお前と話してるんだ」

 そいつは俺に見せびらかすように透明な宝石を取り出した。

 ……この二人組が死ぬほど怯えるほどの男が、わざわざ大声で話して自分の居場所を教えるはずがない……よな。

 俺とこいつが話せてる時点で、範囲はそこまでじゃないんだろうが。恐らく、本当だろう。

「なぁ、お前も折れてくれよ。俺だって、中級魔術師の天才児ってだけでもやりたくねーのに、まさか無詠唱を使えるときた」

 中級魔術師だってことがバレてる……俺も無駄に有名になったもんだな。

「しかも、なんかお前、剣で切れない魔法使ってるだろ。そいつらは魔法を切る技術は人並み以上だ。間違いなく、普通なら切れてたはずだ」

 ……まずいな。

 ショット岩の1番の魅力は初見殺しってところなんだが、手の内がかなりばれてしまっている。

 

 だが、この発言は全て無駄な発言だ。

 そんなのわかってるなら、俺に教えることはない。わかっていない風にし、俺に襲い掛かればいい。

 それだけ戦いたくないということだろう。

 こいつは抜け目ないやつだが、実力はそこまでじゃないとみた。

 後はどうやって少女を盾にするのをやめさせるかだが……

「……なるほど、そういうつもりか。じゃあ、もう邪魔なだけだ」

 そう男が呟くと、とんだ暴挙に出た。

「……っ!」

 少女は声にならない音を漏らし、膝から力が抜けた。

「お前……!」

 俺は目を疑った。

 

 こいつ、女の子のアキレス腱を切りやがった。

 

 そして、端に少女を投げ飛ばした。

 盾にするのをやめるならやることは決まってる。

「《ウィンドスピア》!!!」

 俺はすぐに後ろへ距離を取りながら足元を狙う。

 が、すぐにあいつもバックステップをし、攻撃を回避する。

 距離をとってくれるなら好都合だ。

「おい、待て!」

 と、あいつは女の子に剣を向けて話しかけてくる。どこまでいってもこいつは小物だな。

「なんだ!」

「お前、俺と戦うつもりだよな?」

「それがどうした!!」

 威勢を崩すな。恐怖したら、それだけで魔力の精度が落ちる。

「なら、ちゃんと名乗らねーとな」

「あ?」

 な、名乗る?犯罪者のくせに何言ってんだ?

 あいつは一息つき、宣誓を始めた。

「ヴァルド・レイン。上級剣士だ」

「……いきなり何紳士ぶってんだよ、きめーな」

「これはお前への礼儀じゃない。お前を必ず殺すという俺への縛りであり、ケジメだ」

 ……だめだ、気圧されるな。

「ガキを殺すのは初めてなんでな」

 上級剣士とか、俺をビビらせようとする嘘だ。

 名乗るだけなら、誰でもできる。

 男は……レインは構える。



「いくぞ、クソガキ!!!」

「っ、こい!クソ野郎!!!」

「ガアアアア!!!!」

 男は遠吠えのように叫びながら、俺に向かってくる。

 距離はおよそ、6メートル。

「《ウィンドスピア》!!」

 この距離感ならずっとウィンドスピアを連発するべきと判断する。

 狙うのはレインの体じゃない、足元だ。

「……チッ!」

 剣士は足元が悪いと、元の半分の実力も出せない。

 レグナが言ってたことの一つだ。

 それに、体に当てようとして、魔法を切られたら一気に間合いを詰めるチャンスを与えることになる。

 それでもし、ショット岩をかわされたら、俺の命運は尽きる。

 とにかく足場を潰し、2回連続で魔法を撃つ準備を整える。

 距離もさらに取れ始めている。

 もし逃げようとするなら、その隙も見逃さないよう、俺はレインの動きから目を離さない。

 俺はウィンドスピアを撃ち続ける。

 足場はどんどん悪くなってる。隙を見せるのはあいつのはずだ。

 レインは魔力切りを狙ってるのかもしれんが、長年練習したおかげか、風魔法の出費は少ない。

 まだ90%以上魔力は残ってるぞ。

 と、俺がほくそ笑んでると、レインはただ避けるだけから、パターンが変わった。

「ハァ!!!!」

 嘘だろ……

 ついに、レインは普通なら見えないはずの風魔法を切り出し始めた。

 石畳はぐちゃぐちゃだが、軽快なステップで少しずつ前に詰めてくる。

 基本7メートル前後の距離感を保っているが、徐々に詰めてくる。

 流石に早すぎる……1分くらいしか経ってないぞ。

 魔力感知がかなり上手い……!

 それに、俺はあいつの足元に基本撃ってるのに、傷が一つもない。普通にレインを狙っても、かわされるか切られるだろう。

 そう考えながら撃っていても、どんどん詰められる。もう4メートルくらいだ。

 だが、まだ俺の想定内だ。

 プラン1、足場潰し作戦は失敗。

 プラン2に移行だ。

「《スプラッシュ》!」

 俺は右手の水路の水を操り、あいつに向かってぶつける。

「ハァ!!」

 切られるのも読めてる。

 本当の目的は、お前に攻撃を当てることじゃない。

 足元はずぶ濡れ、これで……俺の勝ちだ。


――――――――――――――――――――――――

 <レイン視点>

 スプラッシュか、このガキ、随分と剣士の嫌がることを熟知してやがる。

 さっきまでので何となくわかってたが、聡いガキだ。

 だが、やっぱりガキはガキ。

 足元を崩されるのはともかく、氷雪地帯でも立ち回ってきたんでな。

 何の根拠もないのに手を変えるのは、悪手中の悪手だ。

 このまま一気に――

 

 詰めさせてもらうぞ。

 

「っ、しまっ――」

 焦ったのか、ガキは無駄に言葉を発した。

 遅い、1秒もあればもう詰められる。

 終わりだ、クソガキ。

 俺の間合いに入った、その時だった。

 あいつの滝のように汗を流しながらも、にやけた面。その顔を見た瞬間、俺は罠にハマったと気づいた。


 ゴォッッ

 足が、いや俺の左半身に、一気に炎が回った。

「――あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああッ!!」

 声にならない叫びが迸った。

 痛てぇ、あっちぃ!!!

 左半身が燃え、爆ぜ、逃げ場のない熱が全身を侵していく。

 俺は、水路に飛び込んだ。

  

――――――――――――――――――――――――

 <アルト視点>

 よし、決まった!

 炎・水・風三重魔法バーンフロウ。

 水を飛び散らさせたのはカモフラージュ。

 いちいち大声で魔法を使ってたのはこっそり魔法を使った時にわかりにくくさせるため。

 バーンフロウは、水をニトログリセリンのような液体に変え、操ることができる。

 俺の作戦は見事にハマったわけだ。

 レインは水路に落ちていったが、あいつは判断が遅かった。目まではわからんが、少なくとも片足はまる焦げ、戦闘不能だ。

 ……にしても、三重魔法は魔力をとにかく食うな。

 ずっと張り巡らせてたせいなのもあるが、残り魔力が75%ほどあったのが、30%くらいまで減ってしまった。

 あいつが詰めてくるのがもう少し遅かったら、負けまであり得たな。

 できれば、雷魔法で追撃したいが、強力な雷魔法って、使ったら火傷じゃ済まないんだよなぁ。

 それに、俺はあいつを殺したいわけじゃない。普通に罪を償い、少女を渡して欲しいだけだ。

 

 ……ま、いいだろう。

 とりあえず、あの子に治癒魔法をかけよう。

 そう思った瞬間だった。

 

 ズル……ベチャ。

 

 何かが、水路から這い出てきた。

 俺はその正体を知ってるはずだったが、俺の頭は、一瞬理解を拒んだ。

 そいつは、左半身が焼き焦げ、正視できない状態で、姿を現した。

「……まじか」

 俺が絶句していると、その男は顔まで火傷をしており、うまく唇を動かせず。話し始める。

「……やる、じゃ……ねぇか。……クソ……ガキ」

「もう……やめとけよ。マジで死ぬぞ」

 素人目からもわかる、重症だ。後遺症も残るだろう。

 だが、そいつは睨みつけながら言葉を紡ぐ。

「……今、度は……っ。……俺、が……せめ……る。……ばん、だ」

 俺は、確固たる覚悟を決めていた。

 少女を助け、笑顔にさせてあげたいと思った。

 この体に相応しい行動をしようとした。

 だが、今、俺の覚悟をこいつは軽々と超えているのを、自覚した。

 失神するほどの痛みを耐え、こいつは俺に刃を向ける。

 俺は、はっきり言って恐怖した。萎縮した。

 俺は、魔法の手を止めてしまっていた。


 

 だが、あいつは止めない。


 

「――……もえ、ろ。……くう、きに……やど、る……ねつ、よ。……せい、じゃくを……やぶ、り……」

 

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