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少年のスリ

すみません!用事とかで昨日投稿できませんでした!それに量も少なめですが、次からはしっかり描いていくので、見守っていてください!


 結局、良い杖に出会えずに終わってしまった。

 手応えのないまま時間だけが過ぎ、大市場の喧騒も、いつの間にか背後へ遠ざかっている。

 今は帰路の途中。空は夕暮れに染まり、石畳の上に長い影が伸びていた。

「……すみません、こんなに付き合わせて何も決めれず」

エリナさんは笑いながら答えた。

「いえいえ、むしろアルト様と初めて出かけられて、私は幸運ですよ」

 こう言ってもらえると助かるな。

 今日は何も買えなかった。けれど、代わりに次に考えるべきものだけは、はっきりした気がする。

 それは――奴隷だ。

 ずっと悩んだが、やはり結果が出ない。買ってもいいのか、そうではないかと。

 そんなことを考えながら、俺は沈みゆく夕日を背に、屋敷への道を歩き続けた。

 その時だ。

 どん、と肩に衝撃が走る。

「……っ」

 反射的に足を止めると、人波に紛れて小柄な人影がすり抜けていくのが見えた。

 フードを深く被り、こちらを一切振り返らない。

 次の瞬間。

「アルト様」

 低く、鋭い声。

 エリナさんが、俺のすぐ横で立ち止まっていた。

 視線はすでに人混みの一点を捉えている。

「今の、ですね」

「……はい」

 確認するまでもない。

 腰の小袋に触れると、軽い。

 すられた。

「追います」

 それだけ言って、エリナさんは人の流れを縫うように走り出した。

 迷いがない。判断が早い。

 俺も遅れないように後を追う。

 逃げた先は――やはり、露店の隙間に伸びる細い道。

 裏通り。

 兵の巡回はなく、喧騒も一気に薄れる。

 夕暮れの影が、路地に長く伸びていた。

「……速い」

 逃げるスリは慣れている。

 だが、エリナさんの距離は確実に詰まっていた。

 このままでも捕まるだろうが、このままだと裏路地に入ってしまう。

 わざわざ裏路地に逃げるんだ、罠があるかもしれない。

 俺は一瞬だけ、足元の石畳に意識を向けた。

 詠唱はしない。

 魔力を、ほんのわずかに流すだけ。

 進むルートはわかっている。

 土初級魔法

『アースブレイク』

 小声で魔法を発動させた。

「っ!?」

 スリの足がもつれ、体勢が崩れる。

 その隙を逃さず、エリナさんが一気に踏み込んだ。

「――終わりです」

 腕を取られ、地面に押さえつけられる。

 人が集まってきた。遠巻きに、スリを捕まえたエリナさんを見ている。

 周囲から見れば、完全にエリナさんの手柄だ。

 俺は、何事もなかったかのように息を整えた。

「離せ……っ!」

「大人しくしなさい」

 短く、冷たい声。

 その時。

 

「……あー、あいつか」

 路地の奥から、しわがれた男の声がした。

 振り返ると、店の軒先に立つ中年の男。

 粗末だが手入れされた服。目つきが鋭く、体格はあまり良くないが、身長はかなり高い。

 その男が、エリナさんに近づいていった。

「すみませんねぇ、この馬鹿が」

「……知り合いですか?」

「知り合いってほどじゃありません。ただの厄介者ですよ」

 男はそう言って、捕まったスリを一瞥し、舌打ちした。

「こいつ昔もやってましてねー。もう2度とやらないって言ってたから優しく許してやったのに」

 絶対に嘘だろう、スリがその男を見てから震えが止まらない。

 視線が、俺に向く。

 ――一瞬だけ。

「……坊ちゃん」

 ちょいちょいと俺をこちらに呼んでいる。

 すぐ近くまで行き、俺は聞いた。

「なんですか?」

「さっき、詠唱……してなかったよな?」

 空気が、ぴんと張り詰めた。

 俺とエリナさんにしか聞こえないギリギリの声で言い放った。

 スリの手足を結び終わったエリナさんが、静かに一歩前に出る。

 その目は、さっきよりも冷たい。

「その話、続ける必要はありません」

 と敵意たっぷりの目でエリナさんが威嚇すると、即座にその男は返事をした。

「待ってください、違う!」

 男は慌てて両手を上げた。

「脅すつもりはねぇ。敵に回す気もない」

「……なら、何の用ですか」

「礼がしたいだけです」

 男は、深く頭を下げた。

「本当に助かりました。あんたらが来なきゃ、あいつは逃げ切ってた。メンツ丸潰れってやつですよ」

 一拍置いて、続ける。


「噂を流す気はもちろんありません」

 男ははっきり言った。

「そんな面倒、俺の商売に何の得もねぇ」

 そして、少しだけ姿勢を低くする。

「だから……何か、世話焼かせてください、何か欲しいものとかありませんか?」

「あなたはアルト様が中級魔術師のことを知って、恩を売りたいだけですよね?」

「いやいや、そんなまさか」

 ……エリナさんはこちらをチラチラ見ている。

 判断を、こちらに委ねているのが分かった。

「……今日は、いいです」

 俺は静かに言った。

 日もそろそろ暮れるし、エリナさんにこれ以上負担を負わせたくない気持ちがあった。

「話を聞けただけで、十分なので」

 男は一瞬だけ目を細め、そして小さく笑った。

「わかりました」

「では、また機会があれば」

 そう言って、俺たちは路地を後にした。

 日が沈みきる直前。

 通りには、次々と灯りが入っていく。

 振り返ることはしなかったが――

 店の奥から、かすかに鎖の触れ合う音が聞こえた気がした。

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