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少年の特訓


 現状をまとめよう。

 4年が経過した。マコトに強くなれと言われてから4年だ。

 結論から言えば、俺はあの頃とは見違えるほど強くなれたはずだ。

 ただ魔法の威力を上げただけではない。

 強くなれ、ということは何か大事件が起きるから力をつけろ、としか考えられない。

 俺は何にでも対応できるように力をつけてきた。

 魔術師や剣士、または魔物が俺の命を狙ってくるかもしれないし、災害のようなこともあり得る。

 まず、魔物戦はとにかく事前知識が大事らしく、それらについては、エリナさんに教えてもらうことにした。

 次は対人戦をする時の対策方法だ。

 これもエリナさんに教えてもらおうと思ったが、エリナさんは基本的には剣を主体として戦うから、教えるのは向いていないと言われた。

 そこで、上級魔術師のレグナに稽古をつけてもらおうと考えた。

 レグナとは試験の日から頼みがあったら遠慮なく来いと言われていたので、稽古をつけて欲しいと頼みに行っても二つ返事で了承してくれた。


「無詠唱を駆使して練習するなら人目がつかないように家の庭でこっそりやった方がいいだろう」という配慮のためにわざわざ休みの日に家まで無料で訪問してくれたのは、感謝してもしきれない。

 

 まずは風魔法について教えてもらおうと思い、風魔法について質問していたが、大体はエリナさんに聞いてもらってたものだったから、対人戦について学ぶ時間をたくさん割くことができた。

 

 まずは魔術師とのタイマン戦について聞いた。

 詠唱の有無で魔法の発生速度には雲泥の差があるので、魔術師相手には基本的に負けない自信はある。

 だが、そんな驕りで取り返しがつかなくなっては今から強くなろうとしてる意味がない。

 

 1 相手との力量を判断しろ。上なら魔法を使わせる前に連発し、下なら詠唱を聞いてから無効化し、安全に撃て。

 

 2 自分の得意魔法に囚われず、幅広く考えろ


 3 周りをしっかり見渡して、状況に合う魔法を使え

 

 の3つだ。

 基本的には1を気をつければさほど問題はないと言われた。

 あとは実践経験と、詠唱スピードが全てらしい。

 詠唱スピードには自信がある(詠唱いらないし)から、とにかく魔術師対策としてレグナと魔法の撃ち合いや、レグナが魔法をゆっくり詠唱するからそれを無効化するなどの練習をした。


 次に、剣士とのタイマン戦だがあまりに多いので特に重要そうなことを5つに一旦まとめてみた。

 

 1 間合いに絶対入らせるな

 

 2 周りをしっかり見渡して、手頃なものがあったら物理攻撃として利用しろ

 

 3 魔法を切れる剣を持ってる奴が最近めちゃくちゃいる。相手によっては事前に二つの魔法を用意し、剣を振った瞬間に魔法を打て

 

 4 魔法を防ぐ鎧もあるが、無敵じゃない。油断する奴が多いから、落ち着いて最高威力の魔法を打って破壊しろ

 

 5 強い剣士にはそもそも勝てない、逃げのためだけに魔法を使え

 

 の5個だ。

 ……1番大事なものだけをまとめたのに魔術師との対策よりも多い。

 カシウスが魔法には夢がないと言う発言が理解できるほどに魔術師側が不利だ。

 特に、最後の強い剣士には勝てないというのが魔術師の限界をなんとなく感じて、少し萎えてしまった。

 まあ、俺は逃げには自信がある。ノータイムで霧を作れたり、光で目を眩ませたり。

 だけど、逃げだけで今後生きていくのは、流石に無理があるだろう。

 そこで俺は、何が1番剣士戦においてきついかをレグナに聞いてみた。

 『んー、やっぱり間合いを詰められたらなすすべなしってのと、魔法を切られるところだな、手間が2倍なんて単純なもんじゃないくらいにきつい』

 前者の問題は、俺にとっては問題ではない。

 なぜなら、無詠唱ですぐに魔法を打てるから、距離を詰められても抗える。

 だが、後者はどうしようもない。無詠唱だろうと、魔法を切られることは変わらない。

 そこで、運動は嫌いだが、剣を練習しようかとレグナに聞くと

 『それはやめとけ、お前はまだ持ってないけど、いずれ杖を持つことになる。杖と剣を両方は持てないし、剣士とのタイマンのためだけに剣を練習するより、無詠唱の才能を磨いた方がお前のためだ』

 もっともな意見だった。

 それに、マコトは魔法の才能を与えると言っていた、もし剣に才能がなかったらそれこそ中途半端で何もできない無能となってしまうかもしれない。

 今後、剣士とタイマンで勝負はせず、逃げに徹するべきだ。


 

 と、俺は4年間思い続けていた。

 俺はふと考えた。魔法が切れる剣は、どこまでの定義切れるのかと、エリナさんに質問してみた。

 

 ・魔力をある程度秘めているものを切れる。

 ・魔力が強すぎると剣によっては無理な時があるが、高性能の剣ならそもそも不可能だから、威力でゴリ押しは微妙。

 ・魔力を少ししか秘めていない魔法では切れないが、そんな威力ではそもそも相手にダメージを与えるのは不可能。

 そこで俺は

「土魔法で石とか、投擲物を生成して、風魔法で飛ばすことはできますか?」

 中級魔術師試験で使ったストーンショットとは違う、土魔法で石を作るだけなら全然その石に魔力が含まれていない、それを風魔法で飛ばすことで、切ることが不可能になるって寸法だ。

 そう言ったら、エリナさんはしばらく手元に口を当てて、俺の質問に答え始めた。

「基本的に無理だったのですが、アルト様なら可能かもしれません」

 俺の考えた方法は、とっくの昔に考案されたものらしい。

 だが今現在使われてないということは、大きな欠点があったってことだ。

 

 その内容が

 1 石を生成するには最低でも低級魔法が必要となるから、準備のために詠唱と魔力を1攻撃魔法分使うことになる

 

 2 敵にダメージを当てるほどの風魔法を習得しようとなると、時間がどうしてもかかり過ぎる

 

 3 準備してるのも丸わかりで、石一つ飛ばすくらいなら基本的に避けることができる

 

 この3つの理由を、エリナさんが説明してくれた。

 だが、俺は3つの理由を看破できる。

 土と風魔法の複合魔法、難易度は高いが、十分期待はできるはずだ。

 俺はその時とてつもない高揚感を覚えた。だってそうだろう?この世界で、俺だけの魔法が誕生するかも知れない。

 そして、その魔法を試すのが、今日だ。



 

 ――俺はもしかしたら、魔法創世をするかもしれない。

 魔法創世では、神に触れることになる。


 俺は前世では神を信じていなかった。その最たる理由が、見たことがなかったからだ。

 だが、魔法を創る時、武術を創る時、神は人の前に顕現する。



 

 庭は、雲一つない晴天だった。

 陽の光が芝を照らし、朝露はすでに乾いている。風も穏やかで、魔法の実験にはこれ以上ない条件だ。

 すぐ近くで、エリナさんが心の底から心配そうな顔をして、俺の側に立っている。

「――どうか、ご無事で」

「はい。ありがとうございます」

 助けてくれる人が近くにいるというだけで、気が楽になるな。

 狙うのは、昔俺が炎魔法の練習に使っていた的だ。

 ――深呼吸を一つ。

 頭の中で、手順をなぞる。

 まずはイメージだ、最初はただ石を飛ばすだけだったが、さらに俺は考えた。

 距離が取られているなら、魔法を連発すればいい、今俺が1番必要なのが、近距離の切れない魔法だ。

 そこで俺は、ショットガンのように、小石を生成し、放つ。

 そんな近距離専門の魔法を思いついた。


 

 地面に視線を落とし、魔力を流す。

 土魔法。無詠唱。

 手から小石を一気に出すイメージ。

 全身で風を感じ、魔力を流す。

 風魔法。無詠唱。

 的に向け、思いっきり放つ。

「――いきます!」

 俺が魔法を撃つ瞬間、俺の精神は別の場所に移された。

 ……成功だ。


――――――――――――――――――――――――

 <???>

 俺は、成功したのか?

 目がはっきりと周りの情景を捉えると、王宮のような凄まじいほどの大きさの城の中に、俺はいた。

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

 そこには玉座に座った、金髪ロングの超美人なお姉さんがいた。

「一応、自己紹介しないとね」

 ニコニコと笑いながら自己紹介を彼女は始めた。

「魔神――イリスよ」

 それだけ?と思う奴は、少なくともこの世界にいないだろう。

 魔法を生み出し、世界に良くも悪くも莫大的な影響をもたらした。この世界の頂点の1人だ。

 もう1人の頂点が全ての武術の頂点に立つ男、武神ヴァルドだ。

 

 俺はすぐに跪く。

 ここで無礼を働いたら一瞬でこの体は焼き切られ、廃人状態となったという噂も聞いたことがある。

「実際はそんなこと一度もしたことないのよ?」

「……え?」

 …………もしかして、心を

「読めるわよ」

「も、申し訳ありません!噂と知っていたのですが、少々不安を覚えてしまい――」

「え?いいのよ、そんな一々気にしないから」

「ほ、本当ですか?」

「えぇ、そもそも本当に許せないなら嘘をこの世に流した人物を呼び出して、世で言う廃人?にしてるわ」

 彼女はニコニコと笑いながらとてつもないことを言ってみせた。

「と、話ズレちゃってたわね?魔法を生み出したら、魔法の名前をつけるためにここに呼ばれるのは知ってる?」

「は、はい。知っています」

「うーん、普通に立つことを許可するわ、それに、心を読むのはやめるから、普通にしてて?」

「わ……わかりました。すみません、気を遣わせてしまって、心を読めるというのは、初めて知りまして……」

 エリナさんに聞いていたのは、廃人の噂と、生み出した魔法に名前をつけるために精神だけをこの謎の城に呼び出されるということだけだ。

「うん、心が読めるって明かしたのは君が初めてだからね」

「えっと、なんで俺にだけ教えてくれたのでしょうか?」

 俺だけが特別?普段なら嬉しいが、この命を握られている状態では生きた心地がしないな。

 イリスさんは、両手を合わせ、嬉しそうに話し始める。

「だって、私の息子……あなたの前では確かマコトだったかしら?の、特別な子だからよ」

 ……は!?

 あいつ、魔神と武神の息子なのか!?

「知らなかった?」

「初耳もいいところです……」

 まあ、そうか。

 俺を転生させるなんて、この2人の息子くらいの肩書がないと不可能だろうしな。

「あらら、また話がズレちゃってたわ……名前、もう決めてる?」

「あ、はい決めています」

 失礼だろうが、こんなところ一刻も早く抜け出したい。

「ショット岩でお願いします」

 ユーモアがあり、前世の俺だからこそつけられる名前、なんで素晴らしい命名だろうと、自分で惚れ惚れしてしまうな。

「う、うん、それでいいのね……?」

 ん?なんか心配でもしているのか?

「はい、大丈夫です」

 まさか神でも驚いてしまうほどのセンスということか?

「じゃ、じゃあまたね?君とはよく会うようになるだろうし、また話しましょうね」

 ――どんどん意識が遠くなって

――――――――――――――――――――――――

 目が覚めると、目の前に手を組んで神に祈っているエリナさんがいた。

「あの、ただいま」

 エリナさんは心の底からホッとしたような顔で

「お帰りなさい、アルト様」

 俺の帰りを迎えてくれた。

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