赤ん坊と神
これがラストの赤ん坊編です!
――中級魔術師試験を終えて、今日で半年が経った。
朝だ。
カーテン越しに差し込む光で、自然と目が覚める。
前なら、エリナさんが起こしに来るまで布団に潜っていたのに、最近は目覚ましより先に目が覚めるようになった。
ベッドの上で上体を起こし、軽く伸びをする。
……体が軽い。
「半年、か……」
エリナさん達に無詠唱魔法を使えるのがバレたが、使えるけど詠唱した方がいいかと思って……わざと価値が分からないふりをした。
俺が考えた無詠唱魔法を使えることを隠す理由を2人とも思いつき、俺も周りに言って回るなとレグナが注意をして、その場はおさまった。
試験に合格してから、俺の生活は大きく変わった。
一番大きいのは――カシウスだ。
あの頑固ジジイ、試験が終わると、俺が魔法の基礎練をしていると、よく声をかけるようになった。「上手くやっているか?」「寒くはないか?」と、過保護?になったような気がする。
「……あれは、認めたってことでいいんだよな?」
直接言葉にするタイプじゃないのは、最初から分かっていた。
だから、これはカシウスなりの最大限なんだと思う。
俺はベッドを降り、服を整えながら、ここ半年を振り返る。
俺はこの世界のことについてまだまだ知れていない。魔道具だって知らなかったし、実は中級魔術師になるとどんなことがあるのかも知らなかった。
俺は特に魔法を学んだ。
風魔法はもちろん、土、水、火も欠かさずにだ。
体系立てた基礎理論、魔力量の管理とか色々だ。魔法詠唱の短縮もあったが、無詠唱が使えるなら最低限でいいとエリナさんはしっかりと時間配分をしてくれた。
そして、この世界の一般常識。
身分制度。
魔術師の立場。
聖騎士団と王国の関係。
魔物発生地域と、立ち入り禁止区画。
それらを教えてくれたのは、全部――エリナさんだ。
「……本当に、よく付き合ってくれてるよな」
試験が終わっても、エリナさんの座学は変わらずにやり続けていた。
エリナさんも疲労が溜まっているだろうから、「疲れているならもう大丈夫ですよ?」と暗に休むことを伝えると、少し困ったように笑って、こう言った。
『むしろ、仕事は減っていますよ』
意外すぎて、俺はその時思わず聞き返した。
『え?』
『中級魔術師試験が終わってから、時間に余裕ができたんです』
その理由を聞いた時、もっと驚いた。
『仕事量が変わっておらず、エリシア様や、リディアとサフィアも仕事が増えていないと聞いたので、なぜ減ったのかは、カシウス様が手を回してくれたおかげだと思います』
『ほんと……ですか?』
『はい。恐らく内容を調整してくださっていて。外回りや危険な仕事を減らして、その分、屋敷内の仕事を増やしているんですよ』
つまり。
俺のために、カシウスなりに努力してるってことか、
俺に……魔法や常識を教える時間を増やすために。
「……ほんと、不器用なやつだな」
部屋のドアを開けると、廊下の先から足音が聞こえた。
「アルト様、おはようございます」
いつもの、落ち着いた声。
「おはようございます、エリナさん」
「朝食の準備ができています。今日は上級魔術師でも不可能と言われている。魔法創世についてお教えします」
「魔法創世……?」
なんだそれ?
「これができたら、まさに魔術師の鏡です。魔法創世をいずれ成功させるのが、アルト様の一生の目標となりうるほど、魅力的で、難易度が高いものとなっています」
目標……か。
いい加減決めないとかもな。
「今日の座学も楽しみにしてます、ですが考え事ができたので、先に食卓に行っておいてくれませんか?」
「はい、では食卓で待っていますね」
エリナさんは俺に一礼をしてから、食卓に向かっていった。
俺は転生者だ。
何の罪もない男の子、アルトの体を結果的に奪ってしまった。
中級魔術師になれ、夢のような魔法ライフを送れている。
本にあったが、中級魔術師試験合格者の年齢平均は40歳、2歳で中級魔術師合格だなんて、将来成功が約束されたようなものだろう。
そんなこと、許されるのか?
コンコン
と、考えていたら、ドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを開けて目に入ったのは、エリナさんだった。
「あれ?何か言い残したことでもあったんですか?」
エリナさんは周りを見渡し、俺の窓を閉めた。
「あの、換気してたんですけど?」
「すみません、少し肌寒く……」
「あ、それなら構いません。それで、俺になんの用ですか?言い忘れたこととか?」
エリナさんはまだ周りを見渡している。まるで何かに監視されているのではないか?と思うほどに。
「はい、言い忘れたことというか、まだ話したいことがありまして」
「はい、なんですか?」
エリナさんは背伸びをしながら、深呼吸をしている。やはり疲労が溜まっているんだろう。
「転生は楽しんでいるかい?アルト君」
「……え?」
転生……?なんで、エリナさんが、そ、そのことを?
「ん?まだわからないか、マコトだよ」
「は……?」
こいつ、もしかして……
「お前、変装してるのか!?」
「ご名答、話が早くて助かるよ」
「お前……この世界にも来れるのか」
「うん、普通に来れるよ」
マコト……俺を転生させた、張本人だ。
「随分と来るタイミングがいいじゃねぇか、どうやって生きるか悩んでたらふと現れるって」
「だって、俺は君をずっと見ているからね、僕は理の神、何でもわかる、すごい神様なんだよ?」
「自己紹介ありがとよ」
マコトはあの時のように、またどこかに目を向きながら、ニヤニヤと話しかけてくる。
「それにしても、君やるねー。エリス・ローヴァルに本物の主人と認めさせ、レグナ・フォルディスを認めさせ、終いには中級魔術師になった。……ほんと、予想以上だよ」
「褒めてるつもりだろうが、お前に何言われても胡散臭いだけだ」
「えー?本当にすごいと思ってるよ?精神も、ギャアギャア騒ぐだけの赤ん坊から、少しは自分の心を制御できる。少年くらいにはなったんじゃない?」
「黙れ、クソ神!エリナさんの体と声を使って、一々うるせぇんだよ!」
こいつは無理矢理転生された云々を除いても苦手だ。
……というか、予想以上と言った時、やけに神妙な感じがしたような…………まぁ考えてもしょうがない、そう思わせるための演技かもしれない。
「で、何しに来たんだよ。まさか茶々入れるだけか?なら帰ってくれ」
「連れないなー」
「おい、本当に茶々入れに来ただけかよ」
「え?そうだけど」
「じゃあさっさと帰れ!俺だって暇じゃねーんだよ!」
まじでいちいち癪に触るやつだ。
「ん、じゃ面白そうだし、もっと強くなってねー」
最後に、こいつは俺の目を凝視した。
その後、周りに強く風がまった。
「……ちくしょう、部屋まで汚された」
何の理由もないあのクソ神の訪問、無駄に疲れちまった。
特に本が周りに散らばって――
――ん?
なんだ、これ本の表紙に……焼き文字か?おいおい、バレないように落書きでもしやがったのか。
えーっと
〔俺が言ったこと全てを信じるな〕
……これ、マコトが書いたんだよな?昨日読んだ時にはなかったはずだ。
信じるな、だと?これはイタズラか?
何で直接言わないんだよ……いや、たしかあいつ、ずっと他の場所を見回してたよな、それってもしかして……
いや、見当がつかない。
手の込んだイタズラ……いや、これがもし本当なら……誰かに見張られているなら――
そう思考を張り巡らせていると
いきなり本が燃え始めた。
「あっつ!!」
本を手放し、水魔法を使おうとすると、すでに炎は消えていた。表紙の文字はもう見えない。
……これって、もしかして証拠隠滅か?
マコトが俺にこのことを教えたということを隠すための、証拠隠滅?
……あいつは最後言ったのは、強くなれ、だったか。
何かの罠……かもしれないよな。
…………いや、やってやる。
やるよ、やってやればいいんだろ!!?
俺はまだ、真実を全て知れていないのかも知れない、それなら、あいつの手の上で踊ることになったとしても、やってやるよ。
もしかしたら、俺が転生されたのも、意義があることなのかも知れない。
それなら、俺はもう少し胸を張って生きれるかも知れない。
……それなら、この子も少しは浮かばれるかもしれない。
次からは赤ん坊編は終わり、少年編です!これからさらに面白くしていくので、是非楽しみにしててください!




