ゆりちゃんといたずら心
これまた前回から引き続き見に来てくださったあなた様に感謝を!
それではどうぞ!
カララン…
この前言われた言葉が届いていたのか、ゆりちゃんの予想していた日よりも早く来てくれた。
言わずもがなわかるだろう、ドアを開けて入ってきたのはまきだった。
「おはようございます!まりさん!」
「まきですよ?」
まさか、自分で名前を聞いたのに間違えられるとは思ってもいなかったらしい。すかさず訂正した。
「あれ、違いましたか?ごめんなさい、とりあえず前と同じ席でいいですかー?」
「それでいいですわ。次から空いているならいつもそこでお願いしますわ」
私が来るときはいつも誰一人いませんわよね…?と少し疑問に思っているまきだったが、考えることを止めた。
考えても意味がないからだ。
「今日はメニュー見てみません?好きなのを頼んでほしいです!」
「ならそうしますわ。今は甘いものが食べたいですわね…」
ぶつぶつ呟きながら、ページをめくっていく。が、あるページで手を止めた。
「何にします?そこはお菓子のページですけど、朝ご飯にそれは…」
「朝は軽く摂ってきましたわ。…この、『ドーナツ』というものを一つ。プレーンでお願いしますわ」
朝ご飯は食べてきたと聞き、安心したゆりちゃんは元気よく答えた。
「かしこまりー!しょーしょーお待ちを!」
そのときのゆりちゃんの顔は少し何かありそうな顔だったが、まきは気づかなかった。
・・・
「お待たせしましたー!『ドーナツ(プレーン)』です!」
今回はそこまで大きなものを運んでいるわけではないからか、お皿を直接持って歩いてきた。お盆にのせて運ぶ事が、とても苦手なのかがわかる。いつもよりもまっすぐとした歩き方だった。
まきはお盆で一気に運ばなくても、と思った。だが、ゆりちゃん曰く『運び方はこれじゃないと!』らしい。今回は単品だから良い、とのこと。
「ありがとうございますわ。粉砂糖がついていますわね、相変わらず美味しそうですわ」
「いえいえ、こちらこそ来てくれてありがとうございます!召し上がれ、です!」
そう言われたまきは、いつもと違う表情のゆりちゃんに気がつかないまま、食前の挨拶をしてドーナツを食べた。
そう、食べた。
食べてしまった、ゆりちゃんのいたずらを知らずに。
「す…」
「す?」
一見『す』に続く言葉が何かわからないでいるように見えたまきだが、いつもと違う、ニヤニヤとした表情ですぐわかったらしい。
これは確信犯だ、と。
「酸っぱいですわっ!!」
「どっきり大成功です!お水飲みます?」
「ええ、ほしいですわっ!」
まだゆりちゃんはニヤニヤと笑っていたからか、少し警戒しているようだ。しかし、口直しに水を頼むのを止める事はできなかったらしい、即答した。
よくあるようなサイズで、とてもシンプルなコップに注がれた水を、ためらいながら飲むまき。
「っ、甘ったるいですわ…」
またしてもやられた…と悔しそうな顔をしながらもゆりちゃんに抗議することは忘れないまき。そしてしてやったり!と顔面に書いてあるゆりちゃん。
「忘れませんわよ…」
「…てへ?」
つい先程までやったやった、と喜んでいたゆりちゃんだが、軽く流してくれると思っていたのが結構重めに受け取られていたのに気づくと、少しだけ、反省の色を見せた。
「…まあ良いですわ。お代は?」
呆れ半分、有無を言わさない、お代を払わせろという気持ちが半分。
それでもゆりちゃんはどっきりをしたことに謝罪、ということでお金は要らないとまた言い出した。
長かった沈黙の後の勝者はゆりちゃん。今回はまきが折れたようだ。
「それでは帰りますわ」
「すみませんでした…でも、また来てくださいね、まりさん!」
「まきですわ!」
普段よりも気持ち大きめの声で訂正して帰っていった。
カララン…