ゆりちゃんとお金
前回から続いて見に来てくれたあなた様に感謝を!
それではどうぞ!
カララン…
今日は誰が来るのかと、店の奥から顔を出す。
「はーい、いらっしゃいませー!ま、ま?…まきさん!」
ドアベルを鳴らした主はまきだった。ゆりちゃんは半分ほど名前を忘れていたようだ。
「おはようございますわ、ゆりちゃん。今日は来ましたわよ」
一週間弱来ていなかったので、ゆりちゃんはまきはもう来ないのか、と思っていたらしい。来てくれてよかったです、とまあまあな声量で言いながらまきに駆け寄っていった。
「席は…前に座っていたところでいいですか?」
「ええ。そこでいいわ。それと、今日のおすすめはありますの?」
まきは、ゆりちゃんに席に案内して貰いながら聞く。
「ありますよー!『朝ランチセット』が今日のおすすめです!」
ゆりちゃんの回答の早さに少しまきは驚いているようだ。
実は、毎日お客さんが来たら何をおすすめしようか、と考えていたらしい。しかし、予想に反してまきがなかなか来なかった為、少しモヤモヤしていたそう。
「今日はメニューいりますか?」
「いえ、ゆりちゃんのおすすめの、『朝ランチセット』を頼みますわ。それとお水も」
「わかりました!出来上がるまでちょっと待ってて下さいねー!」
そう言ってまた前回のようにぱたぱたと店の奥の方へ入っていった。
・・・
少し経って、それまた前回のようにお盆にのせて、ゆっくりと歩いてきた。やはり少し危なっかしそうだ。
「どーど!できましたよ!『朝ランチセット』です!ごゆっくりどーぞ!」
「ありがとうございますわ。パン、サラダ、スープ…良い組み合わせですわね」
美味しそうですわね…という呟きがゆりちゃんにも聞こえたらしく、喜びで手をぱたぱた振っていた。
「では、いただきます」
まきは、まずはパンから食べようと思ったようで、ふわふわとしたコッペパンを手に取った。
はむっ
相変わらずゆりちゃんは、どうかな?美味しいかな?というような顔でまきを見ている。
「ふわふわで美味しいですわ!素朴な味で…」
次にスープ。
「スープも濃厚でいいですわね…これなら、サラダだって美味しいはずですわ!」
最後にサラダ。サラダには、ゆりちゃんお手製のドレッシングがかかっている。
「どうですか?ドレッシングはゆりちゃんが自分で作ったんですけど…」
自分で作ったものが美味しい、と言われて嬉しがっているゆりちゃんだったが、軽く千切った生野菜にドレッシングをかけただけのものが美味しいと言われるのか少し不安になったようだ。
「とても美味しいですわ!レタスとドレッシングが合いますわね…もぐもぐ」
「よかったです…!」
・・・
まきは、食べる合間に美味しい…と呟きながら朝ランチセットを平らげていった。
その横では、やはりゆりちゃんがいて、手をぱたぱたと振り続けていた。
お客さんに美味しいと言って貰えるのは、とても嬉しいだからだそうだ。
「…ごちそうさまでしたわ」
「どうでしたか?」
ここまでお客さんに絡んでくる店員はどうなのかと思ってしまうが、他に誰もいなければ、まきが鬱陶しいなんて考えていないのだから、ゆりちゃん曰く『だいじょーぶ』らしい。
「ゆりちゃんは料理が上手なのですわね。とても美味しかったですわ。お代はいくらですの?」
「え~、いらな」
「いくらですの?」
「いら」
「いくらですの??」
ゆりちゃんは、まきの圧に耐えきることができなかった。
んーと、じゃあ500円で!というなげやりな声で答えた。まきは軽く頷くと、
「はい、500円ですわ」
とゆりちゃんに500円を握らせた。ゆりちゃんは物凄く不本意だ、という顔をしているが、一方のまきは微笑んで、手を振った。
「またきますわ」
「…あっ、次は早めに来てくださいね~!」
やはり一週間一人で店番をするのは、二人で話すことを知ってしまった自分には厳しいと思ったのだろう。ドアが閉まってしまう前に早口で告げられた。
この声がまきに届いたのかはわからない。
カララン…