特別編④ ちゃみ子、ねこと戯れる
書籍版
『脱力ゆとりギャルちゃんは、全力で僕に寄りかかって生きることに決めた。』
本日、オーバーラップ文庫より発売です!
放課後、寄り道の目的地に選ばれたのは、ちゃみ子のひと言だった。
「公園行きたい」
「なんで?」
「なんとなく」
なんとなくで動くのがちゃみ子の生き様らしい。
そんなわけで僕たちは、自宅近くの小さな公園に足を運んだ。
夕方の西陽が木々の隙間から差し込んでいて、ベンチの陰はちょうどいい涼しさだった。
そこでふと、ちゃみ子が見つける。
「あ、ねこ」
ベンチの下。
白とグレーのぶち模様の野良猫が、まんまるくなって眠っていた。
うずくまる姿は無防備で、ちょっとだけちゃみ子に似ている。
「かわいい」
ちゃみ子がすとん、と俺の隣に座って、猫を見つめた。
「さう」
「ん?」
「ねこって、なんか、許されてるよね」
「何が?」
「存在が」
言い得て妙なことを言い出した。
「生きてるだけで価値がある系のフォルムしてるよな」
「うらやましい」
羨ましがる対象が、猫というあたりがちゃみ子っぽい。
僕はバッグから麦茶を出して、ちゃみ子に手渡した。
彼女は受け取りながら、じっと猫を見つめ続けている。
「さう、ねこかわいい?」
「ああ、かわいいな」
そのとき、ちゃみ子の表情がふっと曇った。
「私より?」
「なんで比べるんだよ」
「私より癒される?」
「申し訳ないけど、どうやって僕はちゃみ子で癒されればいいんだ?」
「ぬくもり的なやつとか、もふもふ感とか」
「毛量の話?」
ていうか、なんで猫に嫉妬してんだよ。
猫は俺たちの会話など意に介さず、丸くなったまま寝ている。
その無防備さが、ちゃみ子の心に火をつけたらしい。
「この子、飼っちゃダメ?」
「お前が世話するならな」
「……トイレ掃除は月1でいいかな?」
「良いわけあるか」
「ご飯は、Uberで届けてもらえるかな?」
「その時点でもう世話じゃないな」
ちゃみ子はしばらく考えて、ようやく言った。
「やっぱ無理かも。ねこがかわいそう」
「悲しい自覚だな」
するとちゃみ子はほんのり寂しそうな表情で、僕に寄りかかった。
僕は拒否しない。
「私が強くなったら、飼う」
「おお、頑張れ。まずは家事から……」
「諦めるの早すぎだろ」
今日のところは、ちゃみ子らしくない強めの意思を聞けただけ、良しとしよう。