特別編① ちゃみ子、口内炎ができる
書籍版
『脱力ゆとりギャルちゃんは、全力で僕に寄りかかって生きることに決めた。』
8月25日、オーバーラップ文庫より発売です!!!
発売記念として、しばらく短編を投稿していきます〜。
朝、教室。
HR前に教科書を読んでいると、隣から重たいため息が聞こえた。
「さう……」
「どうした、ちゃみ子」
「もう無理……生きるの、ツラい……」
「……何があったんだ?」
重めの告白が飛んできて、流石に顔を向ける。
ちゃみ子は溶けるように机に突っ伏し、今にも泣きそうな顔をしている。
「……口の中に、口内炎……できた……」
「……大変だな」
「2個……」
「痛そうだけど」
大方の予想通り、大げさなだけだった。
口内炎で生を厭うな。
「朝パンを食べたら……3回ぐらい死んだ……」
「1食で3回は壮絶だな」
ちゃみ子は唇を少し尖らせて、視線を上げる。
「……これって、死ぬやつ?」
「死なない」
「口の中から腐っていくやつ?」
「グロいなオイ」
さては昨日、グロめのドラマ見たなこいつ。
「口内炎、さうと半分こできない?」
「できるわけないだろ」
「シェアしよ」
「大皿のサラダみたいに言うな」
でもまあ、そこまでツラいのならと、俺はスマホを取り出す。
「今すぐ治す方法を調べてやるから」
「痛くないやつね。塩を塗り込むとかは絶対無理」
「鬼か僕は」
検索欄に「口内炎 即効 治す」と入れてみる。
いかにも眉唾っぽいサイトが並んでいるが……。
「ヨーグルト食べるといいらしいぞ。乳酸菌で口内環境が整うんだと」
「ある。家に」
「家じゃ無理だな」
「購買に売ってた」
「……買ってこいと?」
ちゃみ子はじぃっと僕を見つめる。
「別の方法で治せばいいだろ。他に探すから……」
「いや、ヨーグルトがいい。もうヨーグルトの口」
シンプルに食べたくなってんじゃねえか。
***
数分後、買ってきたヨーグルトを渡す。
ちゃみ子はそれを両手で抱えて、じっと見つめた。
「これが……命の味……」
「大げさなんだよ」
そう呟きながら、スプーンを口に運ぶ。
その動作がやけに神妙で、思わず笑いそうになる。
「どうだ?」
「ちょっと、心が治った」
「心かよ」
「口はまだ痛い……けど、気持ちはちょっと元気になった」
ヨーグルトにそこまでの効果があるのかはともかく、表情がマシになったのは確かだ。
「……さうがいてくれて、よかった」
「そうだな」
「さうが買ってきてくれたから、ギリ生き抜ける」
「ヨーグルトの力、すげぇな」
「ちがう。さうの力」
急に照れくさいことを言うちゃみ子であった。
口内炎騒動、完。
なお、夜には「痛くて歯磨きできない」と呼び出しを食らったことを、ここに追記しておく。