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第11話 おっぱいはいいの?

「おっぱいはいいの?」

「ぶっ……ゲホッ」


 このタイミングで水分補給したのが間違いだった。思わずむせてしまう。


「な、何の話だよ……」

「おっぱい触りたくないの?」


 そう言ってちゃみ子は自らの胸をペチペチ叩く。

 何してんのマジで?


 ちゃみ子は現在薄手のキャミソール姿。

 制服の下に着ていたものだ。

 切った髪が制服につかないよう着替えを促したが、面倒くさがって1枚脱いだままなのだ。


 そんな露出度の高い姿も、髪を切っている間は気にしていなかった。


 しかし今、謎に胸を強調してきたため嫌でも谷間を意識してしまうというものだ。


「何なの……どういうことなの?」

「だって男の子ってみんな、おっぱい好きでしょ」

「…………」

「触りたくないの?」


 ちょくちょくおっぱいの話題を振ってくるちゃみ子は、それほど自分のおっぱいに自信があるのか。

 あるいはおっぱいに対する価値観までズレているのか。


「逆にお前は、触られてもいいのかよ」

「やだ。でも、さうならいいよ」

「…………」

「痛くしなければね」


 なら失礼して、触らせていただきますよー。

 とはならないだろ、普通。


 いやなるのか? そこまで言うのなら触ってもいいのか?

 令和ってそういうのアリになったんだっけ?

 おっぱいってそういうものだっけ?


 なんかもう、よく分からなくなってきた。

 とりあえず一旦、触ってみるか。


「……………………触らねえよ」


 うん、いや、すごく考えてしまったけれど……やっぱダメだろ。


 おそらくちゃみ子的にはオッケーなんだろうが、僕が大事に育ててきた社会性や倫理観の観点から見れば、ダメだこれは。


 そのおっぱいは、触ってはいけないおっぱいな気がする。


「というか、そう簡単に胸を触らせようとするな。はしたないぞ」

「さうにしか言わないよ」

「さうにも言うな。さうなら触っていいおっぱいなんてない」


 もはや何を言っているんだ僕は。


「でも髪はいっぱい触るじゃん」

「髪と胸は違うだろ……」

「そうなの?」

「普通、髪も胸もそうそう異性には触られたくないだろうけども、優先順位で言えば髪の方がまだマシだろ」


 何を当たり前のことを言っているのか僕は。


 ちゃみ子といると、どうにも価値観が揺らいでいく気がする。

 本当に、こいつと一緒にいて大丈夫だろうか。


「……………………」

「な、なんだよ」


 ちゃみ子はじぃぃぃっと僕を見つめながら、目を細めている。

 すると、何か結論めいたことを着想したらしい。


「さうはおっぱいより、髪が好き?」

「……うーん」


 それは正直、難題だ。


 正解は、どっちも好きだ。

 というかそれぞれまったく別の魅力があるので、比較対象にならない。

 カレーとラーメンを競わせるようなものだ。


 だがそんなことを言っても、思考を面倒くさがるちゃみ子は理解しないだろう。


「ああ、そうだ。僕はおっぱいよりも髪が好きだ」


 よって僕は以上のような、仮初の回答を口にした。


 ちゃみ子も「そっか」と満足した様子で、ソファにぺたんと横になっていた。

 納得してくれて助かったが、本当に何を考えてるんだか。


「さて、それよりも掃除を進めないと……げっ」


 ふとスマホを見ると、もう18時前。

 帰らなければいけない時間だ。


 僕たちはどれだけの間、おっぱい談義をしていたのか。

 やらねばならないタスクが文字通り山積みだというのに、不毛な時間を過ごしてしまった。


「さう、帰るの?」


 察したちゃみ子が、眠そうな目でこちらを見ている。


「ああ」

「もうちょっと、いれば?」

「ダメだ。夕飯の準備がある」


 それに帰りが遅くなると、桃が心配する。

 母親の帰りはまだだろうから、家でひとりで僕の帰りを待っていることだろう。


「そういやちゃみ子の夕飯も、何も用意できなかったな……」

「だいじょぶ。ポップコーンあるから」


 大丈夫じゃない返答だなぁ。


「次に来たときは、ちゃんとしたもん食わせるからな。それに掃除も進める。髪ももっと手際よく整えてやる」


 次回予告をしながら僕は鞄を肩にかけ、今日の進捗と言えるゴミ袋を持つ。

 24時間ゴミ出し可能のマンションで助かった。


「それじゃあ、また明日な」

「さう」


 部屋を後にしようとしたところ、ちゃみ子が僕の名を呼び、一言。


「おっぱい触りたかったら、いつでも言ってね」

「……言わねえよ」

「んふ。ばいばい」


 ちゃみ子は愉快そうな笑みを浮かべて、小さく手を振るのだった。


 あれ?

 もしかして僕、弄ばれてる?

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