それから
君と僕は、いつも一緒だった。2人で遊び、2人ではしゃぎ、2人で喧嘩して泣いた。幼稚園が終わった後も、僕達は、お互いの家か公園で遊び、僕達の親同士さえも仲良くなった。小学校、中学校に上がっても、僕達は一緒だった。もちろん、そこでできた新しい友人達もいた。それでも、やっぱり、僕にとっては、君はどう思っているのか知らないけれど、少なくとも僕にとっては、他にも仲が良い友達ができても、ずっと特別だった。
高校も、同じところへ進学した。僕は、ブラスバンドに所属して、ブラスバンドの仲間とよくつるむようになった。クラスも違ったので、君と僕は疎遠になってしまった。君も、君のクラスの友達と行動するようになって、自然と話す機会が減った。それでも僕達は、時々授業で会い、談笑した。本当はもっとお話したかったし、また2人でどこかに出かけたかったけれど、ブラスバンドの練習が忙しく、君も友達が沢山いたから、誘えなかった。
次第に、僕は、ブラスバンド仲間の間の確執に巻き込まれていくようになった。意見のぶつかり合いが起こったり、派閥ができたりと、様々な問題が生じて、楽しかったはずの練習時間も、それ自体がストレスになっていった。もともと大好きで、夢だったブラスバンドを容易にやめたくなかったため、初めのうちは、誰にも打ち明けずに、ただひたすら耐えていた。しかし、僕の心は徐々に疲弊していき、しまいには、体調を崩して、病院に運ばれる羽目になった。そこで僕は、ブラスバンドをやめることを決意した。悔しくて悔しくて、涙が止まらなかった。
数日後。退院して、授業に行くと、いきなり君に抱きしめられた。
「友達伝いに聞いたんだけど、フレデリック、この間体調崩したんだって?」
腕を離すと、君が訊ねてきた。大きな瞳が、心配そうに揺れていた。僕が頷くと、
「今はもう大丈夫?」
と、尋ねてきた。
「ああ。だいぶ良くなったし、もうブラスバンドもやめようと思ってる。」
僕は言った。もう流す涙はなかった。
「えええ!!!???」
君がびっくりした顔で僕を見た。周りが振り返るほどに、すっとんきょうな声を上げて。しかし、その時、チャイムが鳴ったので、そこで君との会話は途切れた。
今日は途中まで一緒に帰りたいと君に誘われ、僕達は、放課後に待ち合わせた。そこで僕は、ブラスバンドクラブで起きていたことや悩みを事細かに話した。もう思う存分泣いたはずだったが、話している最中に、自然と涙が出てきた。
「そうかそうか…。好きなんだったら、続けた方がいいと思ったけど…。でも、笑ってるフレデリックが1番だからね…。大学のサークルとかでまたブラスバンドやるのはどうだろう?」
何度も涙を拭う僕に、君は優しく声をかけてくれた。ただそれだけで、なぜだか、気持ちが落ち着いたのを、今でも覚えてるよ。