#2
僕は何とかその後立ち上がり、家に帰った。
「え、瑠衣!どうしたのよその傷!」
「…なんでもない…ちょっと転んで。」
お母さんは何か言いたげな表情でこちらを見てきたが無視して自分の部屋に入った。そしてスマホを開いて彼女に連絡を取ろうとした。
『先程はすみませんでした。ところでさっきの男は誰なんですか?』
そこまで書き込んだが、あの男もこれを見てしまったらと思うと送れなかった。そのまま二時間ほど経ち、どうしようかと考えていたら、彼女の方から連絡が来た。
『さっきは巻き込んでごめんなさい。彼も悪気が合ったわけではないから勝手で申し訳ないんだけど許してください…。実は彼は私の彼氏なんだけど、ちょっと気性が荒い人で、だけどいつもはいい人なんです…。また会うかは分からないですが、お元気で。』
僕は彼女の方から連絡が来たことが嬉しかったがそれと同時に何とも言えない気持ちになってしまった。会ったばかりの人について悪く言いたい訳では無いが、明らかに危険すぎる。あんな綺麗な彼女に対して暴力をふるっているに違いない。彼女は大丈夫だと言っていたが、そんなはずがない。これは彼女からのSOSなのではないかと僕はそう思った。
『大丈夫ですよ!僕の方こそ出しゃばってしまいすみませんでした…。できたらまたあそこでお会いできたらと思ってます。気が向いたらでいいので。』
僕はそう書いて送信ボタンを押した。
その後、彼女からの連絡はなかったが、夏休みの最終日に彼女とまた出会った。
「あ、この間の…。」
僕が声をかける前に彼女は気付いて、気まづそうな表情を浮かべながら声をかけてくれた。
「こんにちわ、偶然ですね。」
僕は平静を装いながら周りをちらちらと確認する。またあの男が居ないかと思って。
「晴樹はいないですよ。」
その様子を見て彼女は少し苦笑いをしながら言った。
「あ、晴樹っていうのは彼氏です…。」
「すみません、そうなんですね。」
僕も少し気まづくなり、彼女からそっと視線を逸らした。そして気になっていたことを聞いてみた。
「ずっと気になっていたのですが、名前ってなんですか?」
連絡先はもらったものの名前を聞きそびれていたため登録名がずっと未登録だった。
「柊木 雪って言います。そういえば言ってなかったですよね、すみません…。」
申し訳なさそうにする雪さんに僕は首を横に振って
「全然!僕も聞いてなかったので…。僕は斎藤 瑠衣って言います。」
雪さんの名前を登録して、雪さんと少し他愛のない話をした。というより雪さんから彼氏の話を聞いていた。
「……だから晴樹は本当にいい人なんですよ。」
「そうなんですね……でも、雪さん、彼氏さんから暴力ふるわれていますよね…?」
雪さんは困った顔をしながら
「えっと…それは晴樹と私を繋ぎ止めておくためのものなので、所謂DVではないです。」
ときっぱり言った。僕はそれに対して困惑した。
「繋ぎ止めておくって…どういうことですか?」
「瑠衣さん、私とあなたはただの友達なので。そこまでお話する必要はないですよね。」
雪さんはそう言うと僕を睨んだ。
「いや、えっと…気に触ったならすみません。でも痛い思いをしているのになんで別れないんですか?」
「晴樹は私を救ってくれた恩人なので。では。」
そう言って雪さんは来た道を引き返してしまった。
「待って!」
僕はそう言ったが雪さんは振り返ることもなく行ってしまった。
僕は後悔しながら自分の家に帰った。自分の憶測だけで物事を判断した結果彼女を傷付けてしまった。
『雪さん、ごめんなさい。傷付けるつもりはなかったんです。もう一度お話がしたいです。』
最初は彼氏に見られたらと考えていたが、彼女と繋がる唯一の手段のためやむを得ない。だが時間が経つだけで一向に返信が返ってこない。もう本当に終わりなのだろうか。
夕飯も食べ終え、連絡を送った時間が大体昼頃だったため六時間ほどが経過した。もう一回送ろうかと考えていた時に着信音がなった。僕は慌てて確認をした。
『私の方こそごめんなさい。悪く言われているって思ったので…。でも私と晴樹のことはもう何にも言わないでください。』
連絡が返ってきたことが本当に嬉しかった。
『連絡返してくれてありがとうございます!彼氏さんとのことで最後に一つだけいいですか?』
『なんですか?』
『暴力を受けることが大事なんだろうということはわかりましたが、それがなくても大丈夫とは考えないんですか?』
『それは大切なものが無くなってもいいんですか?って聞いてるのと同じだと思いますよ。』
『そうですね、すみません…。』
僕は聞いてから後悔した。もっと楽しい話を出来ればもっと長く話せたかもしれないのに。
次回更新日は6月1日です。