73 火花散るバラ園③
白薔薇のアーチを過ぎたところで、ルークがふと足を止めた。
帽子を取って胸に抱え、真剣な面持ちで口を開く。
「……お嬢様。今日は差し出がましい真似をしてしまいました。お客様の前で、余計な口を挟むべきではありませんでした」
その低い声に、エマは小さく目を瞬いた。
「いえ、そんなこと……私はむしろ、頼もしく思いました。ルークが庭を大切にしているのが伝わって、嬉しかったわ」
エマの言葉に、ルークは驚いたように目を見開き、やがて穏やかな表情を浮かべる。
「……ありがとうございます。そう言っていただけるのは、この上ない励みです」
そして少しだけ表情を和らげ、付け加える。
「私は毎日この庭におります。ですから、何かあればいつでも……お呼びください」
静かに告げられたその言葉は、日常の自然さを装いながら、どこか特別な響きを帯びていた。
ライオネルの眉がわずかに動く。
「……毎日、か」
言葉は穏やかだが、その声音には見過ごせない熱が含まれていた。
しかしルークは怯むことなく、真っ直ぐに答える。
「庭の世話は日々欠かせません。そして……お嬢様がお越しになれば、自然と顔を合わせることになります」
さらりと答えながら、ほんの少し勝ち誇ったように見えるのは気のせいだろうか。
「なるほど」
ライオネルはわずかに口元を持ち上げる。
「ならば、俺もこの庭に頻繁に通うとしよう。案内役が誰であれ……彼女と過ごす時間は譲れないからな」
「っ……!」
エマの頬が瞬く間に熱を帯び、両手で胸元を押さえる。
ルークはほんの短く息を呑み、それから静かに頷いた。
「……それは光栄なことです」
ライオネルはその様子を横目で捉え、エマの手を取った。
「……随分と長居してしまったな。屋敷まで送ろう」
「あ……はい」
唐突な仕草に、エマは心臓が跳ね上がる。
ルークは静かに一歩下がり、深く一礼する。
「では庭師殿。また」
さらりと投げかけられた言葉に、ルークは「はい」としか返せなかった。
夕暮れの小道、ふたり並んで歩くエマとライオネル。
その背後に残されたルークは、帽子を握りしめ、静かに小さく息を吐いた。
――白薔薇のアーチの下で、見えぬ火花はまだ消えずに揺らめいている。




