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72 火花散るバラ園②

 白薔薇のアーチの下に差しかかったとき、ルークが枝を軽く整えながら言った。

「この薔薇は、お嬢様がお好きだと仰っていたので、特に丁寧に世話をしております。咲き方も――ほら、ご覧ください。形がとても整っているでしょう?」


「確かに整っているな」

 ライオネルは腕を組み、じっと白薔薇を見上げた。

「だが……少々剪定しすぎではないか? 枝の伸びが不自然に抑えられている」


「……いえ、これは将来の株の形を整えるためのものです。長い目で見れば、この方が薔薇にとって健康的なのです」

 ルークが即座に返す。


「ふむ。だが薔薇は美しさを楽しむものだ。咲くべきときに花をつけねば意味がない」


「おっしゃることはわかります。しかし“その時だけ”の美しさのために、薔薇を弱らせてしまうのは……庭師の本分ではありませんから」


 二人はにこやかな顔のまま、互いの意見をぶつけ合っている。

 エマは冷や汗を浮かべながら、そっとアーチの端へ退いた。


(ちょっと……どうして薔薇の世話で論争になっているの……?)


 やがてライオネルが「なるほど、庭師らしい主張だな」とやや意地悪く微笑み、ルークも「貴族の方にわかっていただけるかは疑問ですが」と負けじと返す。


 二人の間で見えない火花が散り続けるのを感じ取り、エマはもう我慢できなくなった。


「私は薔薇の育て方には詳しくありません。だから……庭のことはルークに任せています。きっと一番いい方法を考えてくれていると思いますから」


 言葉にした瞬間、ルークの瞳が驚いたように見開かれ、「お嬢様……」と感動したように小さく呟く。それから頭を下げた。

 一方、ライオネルは短く息を吐き、ほんのわずかに視線を逸らす。


「……ふむ。君がそう言うのなら」


 けれど次の瞬間、ライオネルがぽつりと呟く。

「……だが、君がどんな薔薇よりも美しいのは確かだ」


「えぇ、それは同感です」

 ルークもさらりと同じことを口にする。


その二言が同時に突き刺さり、エマの顔は一瞬で茹で上がったように真っ赤になった。

 思わず両手で顔を覆い、心の中で叫ぶ。


(なんで……なんで2人ともそういうことばかり言うの!?)


 そんな彼女の姿に、ライオネルは満足げに微笑み、ルークも静かに目を細めた。

 ――結局、二人の張り合いは収まらず、むしろ火種を増やしてしまったようであった。


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