65 リジーの告白
リジーはエプロンの端をぎゅっと握りしめ、まるで何かから逃れるように、荒い息をついていた。髪は乱れ、頬には涙の跡がはっきりと残っている。白いブラウスの袖口は泥で汚れ、足元は濡れた土でぐっしょりとしていた。
「リジー……どうしてここへ?」
問いかけに、リジーは顔を上げた。その瞳は、恐怖と後悔と――そして、微かに覚悟の色を滲ませていた。
「……お嬢様、わたし……」
リジーは首を振りながら、よろよろと近づいてくる。まるで、告白をするためだけに足を運んできたように。
「わたし……っ、ごめんなさい……わたし、あの……マーガレットさんの……」
嗚咽混じりに、リジーは言葉を絞り出す。
「ペンダント……盗んでしまったんです……とても綺麗で、光ってて……つい……少しだけ、見るつもりで……すぐ戻すつもりだったんです」
エマの胸に、かすかな痛みが走る。
リジーの声はどんどん苦しげになり、その肩は小さく震えていた。
「でも、その夜から、変なことばかり起きるようになって……。部屋に入ったら誰かが後ろに立ってる気がするし、持ってるだけで、胸がずっと苦しくて、夜になると、誰かに責められてる気がして……もう、怖くて……っ!」
「……それで?」
「庭に……埋めたんです。ここに。返したつもりだったのに……でも、それでも……まだ、終わらないんです……!」
リジーの肩が、小刻みに震える。
エマはそっと手を伸ばし、彼女の手を包み込んだ。
「リジー、それは“返した”んじゃない。隠しただけよ」
リジーはぎゅっと唇を噛み、俯いた。
「わたし……どうしたらいいか、分からなくて。謝りたいけど、盗んだことがバレてマーガレットさんに嫌われるのも怖かったんです」
涙がぽろぽろとバラの根元に落ちていく。そのたびに、バラの葉がかすかに揺れた。
しばらく、風の音だけが辺りに吹き抜けた。
エマはそっと、リジーの肩に腕をまわし、彼女を優しく引き寄せた。温もりを分けるように、穏やかに囁く。
「リジー。あなたは確かに間違ったことをしたわ。でも、それをこうして話してくれて、本当にありがとう。勇気がいったでしょう?」
リジーはぐしゃぐしゃな顔のまま、小さく頷いた。
「けど、これで終わりじゃないの。向き合わなきゃいけない。あなたが盗んだこと、埋めたこと、謝らないといけない相手は私じゃない……分かるわね?」
「……はい」
ようやく絞り出されたその返事は、小さく、かすれていた。それでも、エマにはたしかに聞こえた。土に濡れたバラの根元で、ひとつの罪が、ようやく言葉となって吐き出された瞬間だった。




