表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/85

62 もう一つの、埋められていたモノ

翌朝、エマは一枚羽織を重ねると、ひとり屋敷の裏手へと向かった。


 向かうのは――バラ園。


 花々は風に揺れながらも、どこか言葉を潜めるように静まり返っていた。


 (ここに何かがある……まだ、終わっていない)


 ペンダントをマーガレットに返してから数日が経っていた。屋敷の空気は、幾分落ち着きを取り戻しつつあるようにも見えたが――それはほんの表面だけのこと。夜になるとまた使用人たちの不安な視線や囁きが戻り、誰もが、はっきりとは言わずとも何かの気配を感じ取っているようだった。


 ペンダントは返した。けれど不可思議な現象は続いている。



 バラの茂みに差しかかったとき、後ろから声がかかった。


 「……お嬢様?」


 振り返ると、庭師のルークが立っていた。作業着姿のまま、手には小さなスコップを持っている。

 その姿に、エマはわずかに目を見開いた。


 「どうして、こんな朝早くに?」


 問いかけると、ルークはほんの少しだけ口元をほころばせた。


 「昨日の雨で、少し気になって……このあたりの土、水の通りが悪くなってて。根の張り方も、少し変なんです」


 彼の目は、バラ園の一角――まさにエマが向かおうとしていた場所をまっすぐに見ていた。


 「まだ何かあると思ってたのは、僕だけじゃなかったんですね」


 その言葉に、エマもまた小さく笑った。

 二人は言葉を交わさぬまま、同じ方向へと歩き出す。やがて足を止めたのは、あの場所――以前、リジーがペンダントを埋めたバラの根元だった。


 「このあたりです。土の密度が不自然で……。僕の予想ではペンダントが見つかった場所より、もう少し深い層に何か埋まっているのではないかと」


 ルークは手際よくスコップを使い、地面を掘り起こしていく。

 エマはその横で、土の中から顔を覗かせるバラの根や、小石の動きをじっと見守った。


 そして数分後。やがて、ルークの手がぴたりと止まる。


 「……ありました」


 彼は慎重に土を払いながら、小さな布包みを掘り出した。布は風化して色あせ、端はほつれ、長い年月を土の中で過ごしていたことを物語っている。


 その中から現れたのは――金属製の、小さな髪飾りだった。


 「これは……」


 エマがそっと近づき、髪飾りを手に取る。

 金の縁取りに、水色の小さな宝石がいくつか埋め込まれていた。どこか古風で、それでいて繊細なつくり。子ども向けにしては少し大人びているが、確かに――大切にされていたことが、指先から伝わってくる。


 「……子供のもの、かしら」


 エマが呟くと、ルークがゆっくりと頷いた。


「ええ。でも、すごく丁寧なつくりです。たぶん、平民のものじゃありません。貴族の子供か、それに準ずる身分の子のものでしょうね」


エマは、そっと髪飾りを胸元に抱いた。

 小さな手が、それを鏡の前でそっと留める姿が、どこかまぶたの裏に浮かぶ。


(これはきっと――“誰かのもの”だった。とても大切な)


 そして、その“誰か”は――今でも、この庭に想いを残している。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ