62 もう一つの、埋められていたモノ
翌朝、エマは一枚羽織を重ねると、ひとり屋敷の裏手へと向かった。
向かうのは――バラ園。
花々は風に揺れながらも、どこか言葉を潜めるように静まり返っていた。
(ここに何かがある……まだ、終わっていない)
ペンダントをマーガレットに返してから数日が経っていた。屋敷の空気は、幾分落ち着きを取り戻しつつあるようにも見えたが――それはほんの表面だけのこと。夜になるとまた使用人たちの不安な視線や囁きが戻り、誰もが、はっきりとは言わずとも何かの気配を感じ取っているようだった。
ペンダントは返した。けれど不可思議な現象は続いている。
バラの茂みに差しかかったとき、後ろから声がかかった。
「……お嬢様?」
振り返ると、庭師のルークが立っていた。作業着姿のまま、手には小さなスコップを持っている。
その姿に、エマはわずかに目を見開いた。
「どうして、こんな朝早くに?」
問いかけると、ルークはほんの少しだけ口元をほころばせた。
「昨日の雨で、少し気になって……このあたりの土、水の通りが悪くなってて。根の張り方も、少し変なんです」
彼の目は、バラ園の一角――まさにエマが向かおうとしていた場所をまっすぐに見ていた。
「まだ何かあると思ってたのは、僕だけじゃなかったんですね」
その言葉に、エマもまた小さく笑った。
二人は言葉を交わさぬまま、同じ方向へと歩き出す。やがて足を止めたのは、あの場所――以前、リジーがペンダントを埋めたバラの根元だった。
「このあたりです。土の密度が不自然で……。僕の予想ではペンダントが見つかった場所より、もう少し深い層に何か埋まっているのではないかと」
ルークは手際よくスコップを使い、地面を掘り起こしていく。
エマはその横で、土の中から顔を覗かせるバラの根や、小石の動きをじっと見守った。
そして数分後。やがて、ルークの手がぴたりと止まる。
「……ありました」
彼は慎重に土を払いながら、小さな布包みを掘り出した。布は風化して色あせ、端はほつれ、長い年月を土の中で過ごしていたことを物語っている。
その中から現れたのは――金属製の、小さな髪飾りだった。
「これは……」
エマがそっと近づき、髪飾りを手に取る。
金の縁取りに、水色の小さな宝石がいくつか埋め込まれていた。どこか古風で、それでいて繊細なつくり。子ども向けにしては少し大人びているが、確かに――大切にされていたことが、指先から伝わってくる。
「……子供のもの、かしら」
エマが呟くと、ルークがゆっくりと頷いた。
「ええ。でも、すごく丁寧なつくりです。たぶん、平民のものじゃありません。貴族の子供か、それに準ずる身分の子のものでしょうね」
エマは、そっと髪飾りを胸元に抱いた。
小さな手が、それを鏡の前でそっと留める姿が、どこかまぶたの裏に浮かぶ。
(これはきっと――“誰かのもの”だった。とても大切な)
そして、その“誰か”は――今でも、この庭に想いを残している。




