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59 マーガレットとリジー

翌日――。


 朝食後、廊下で花瓶を磨くマーガレットを見つけたエマは、そっと声をかけた。


「調子はどう?」


 エマの問いかけに、マーガレットは驚いたように振り返ったが、すぐに頬を緩めて応えた。


「ありがとうございます、お嬢様。……まだ、夢みたいで」


 エマは微笑んでうなずくと、ほんの少し声を落として尋ねた。


「ねえ、あの日。ペンダントが無くなったときのこと……もう少し詳しく聞いてもいいかしら?」


 マーガレットは戸惑いながらも、しばらく思い返すように目を伏せた。


「……あの日は、実は体調が少し悪くて……休憩を早めにもらっていたんです。その間、部屋の掃除を他の人に頼んだのですが……」


「誰に?」


「……確かリジー、だったと思います」


 その名を聞いて、エマのまぶたがかすかに動いた。リジーは同じ使用人の中でも、特におしゃべりで好奇心旺盛な少女だ。


「リジーには、もう話した?」


「いえ……でも、落とし物のことは皆に伝わっているので、知っているとは思います。今朝も、私に『見つかってよかったわね』って言ってくれて……」


 エマは小さく頷いた。


「ありがとう。気にしないでね。ただ、少し気になっただけだから」


「はい」


 会話を終えてその場を離れながら、エマは自分の中に生まれた微かな違和感を振り返っていた。



***



昼食後のひととき。

 エマは中庭の回廊から、使用人たちの行き交う様子をぼんやりと眺めていた。何かを探るような視線ではない。ただ静かに、観察するように。


 やがて、使用人用の裏手口から、マーガレットとリジーが並んで出てきた。マーガレットは笑みを浮かべて話しかけているが、リジーは少し早足で歩きながら、どこかそわそわとした様子を見せている。


「……ほんとに、あれが見つかってよかったよ。 まさか庭に埋められてたなんてね」


 リジーがそう言うと、マーガレットは小さく首を傾げた。


「私、ペンダントが庭に埋められてたってリジーに言ったっけ……?」


「え? いや、他の子が噂してたの聞いたんだよ!」


 リジーは少し強引に話題を切り替えると、マーガレットの腕を取って笑って見せた。


「それにしても、お嬢様が見つけてくれたなんて……すごい偶然!」


「……うん。ほんと、ありがたいことよね」


 二人のやりとりに、とくに不自然な点があるわけではない。けれど、エマはふと、胸の奥に引っかかりを覚えた。


 マーガレットが体調を崩した日、彼女の部屋を掃除していたのがリジーだったという。ならば――その部屋にある物を、ひと目見ていた可能性は高い。たとえば、引き出しの中など。


(……偶然かもしれない。でも、彼女の笑顔はどこか……浮ついていた)


 エマは立ち上がり、そっと回廊をあとにした。

 直接問いただすつもりはなかった。まだ、その段階ではない。


 ただ、心に刻んでおく。

 あのペンダントが戻ってきたのは、きっと偶然ではない。


 そしてそれは、誰かの“ほんの小さな過ち”から始まったものかもしれない――。

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