57 ロケットペンダント
エマは食後の時間を見計らい、ペンダントを持って家族にそれとなく尋ねてみることにした。
まずは母に声をかけた。
「お母様、このペンダント、見覚えはありませんか?」
食後の紅茶を楽しんでいた伯爵夫人は、小首を傾げてそれを手に取る。
「まあ……ずいぶん古いものね。見事な銀細工だわ。けれど、私のものではないわよ。屋敷に伝わるものでも……ないと思うわ」
エマは続いて、父と兄にも見せたが、反応は同じだった。
「うーん……母のものではないしな。少なくとも家族の誰かが落としたという可能性は低そうだ」
兄ウィリアムも首を横に振った。
「使用人の持ち物かもしれないわね。今度、執事にも確認してもらうわ」
エマはそれ以上詳しく話さず、家族のもとを離れた。
自室へと戻り、扉を閉めたその瞬間。
『まあまあ、見せなさいな。それ、あなたが朝からずっと気にしていたものじゃなくて?』
ふわりと空気が揺れ、鏡台の前に現れたのは、いつものごとく優雅に漂うオードリー夫人だった。
レースの帽子と羽根飾りを揺らしながら、彼女は興味津々といった顔でエマの手元をのぞき込む。
「……オードリー夫人。これ、庭で見つけたんです。埋められていて」
『まぁ、庭に? お屋敷の宝物でも埋まっていたのかと思いましたら……まぁ、まぁ、なんて可愛らしいロケットペンダント。銀の彫りも、なかなか上等ですこと』
「何か、見覚えはありませんか? お屋敷のものとか……」
『ふむふむ……残念ながら、それは存じませんわねぇ。わたくしの時代にこんなデザインはなかったと思いますし、これが誰のものかは……おほほ、わからなくってよ』
エマは少し肩を落とすが、オードリー夫人はそのまま続けた。
『でも――このロケット、ほんの少しだけ、妙な気配を感じるわ。わたくし、この間バラ園を歩いていて、同じ気配をかすかに感じたの。けれど、特に害はなさそうでしたし……まぁ、どこかの可愛いお嬢さんが土に何かを埋める恋の儀式か何かかと思って、放っておいたのですわ』
「害は……ないんですね?」
『ええ。少なくとも、わたくしが感じた限りでは。でも……そうね、そのロケットは、どうやら“戻りたがっている”みたい。持ち主のところへ、ね』
ふっと、オードリー夫人の瞳が細くなる。
「ペンダントが……?」
『ふふふ。あなたの手の中で、お行儀よくしているうちに、きっとその“縁”も見えてくるのではなくて? ああ、わたくしも若いころ、恋の手紙のやりとりで庭を掘り返したことがありましたわ~』
軽やかに笑いながら宙を舞うオードリー夫人を見送りながら、エマはペンダントを胸元で握った。
(戻りたがっている……?)
その言葉が、胸の奥にゆっくりと沈んでいく。
まだ見ぬ誰かの思いが、この小さなロケットに宿っているのかもしれない。そんな予感が、じわじわとエマを包んでいた。




