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28 ローズベリー家の朝食

朝の日差しがレースのカーテン越しに差し込み、ローズベリー家のダイニングを金色に染めていた。テーブルには焼きたてのパンの香りと、香り高い紅茶の湯気が漂っている。


エマが静かに椅子に腰を下ろすと、そこにいた家族全員の視線が、自然と彼女に集まった。


「おはようございます……」


「おはよう、エマ」

母・クラリッサが優しく微笑む。


「おやおや、お姫様のご登場だ」

兄のウィリアムが、からかうように片眉を上げた。


「昨夜の舞踏会の疲れで、お寝坊さんか?」


「別に遅くはないでしょう……」


「おや、それは失礼。では訊こう。君が第二王子と踊ったという噂は、事実なのかな?」


エマは紅茶に口をつけてから、少しだけ口を尖らせた。


「噂って……新聞には書かれてなかったんでしょう?」


「そこがまた怪しいんだよなぁ。社交界の奥方たちが知りたがって仕方ないってさ。まぁ、俺は母上に聞いたんだが」


「……ほんの一曲だけです。それだけ」


「ふーん、ただの“一曲”で、新聞には載らないくせに噂になる。いやぁ、不思議だなぁ」


にやつく兄の顔に、エマは小さく溜息をついた。


そのやりとりを静かに聞いていた父・レジナルドが、パンにナイフを入れながら口を開く。


「……王子だろうが伯爵だろうが、娘に色目を使う輩は信用ならん。エマはまだ、そういう年じゃない」


「お父様、私、もう十七です」


「十七ではまだまだだ」


「あなた、自分が何歳でプロポーズしたか覚えてらして?」


クラリッサの軽やかな一言に、レジナルドは咳払いして口を閉じた。兄はそれを面白がるようにクスクス笑い、エマはなんとか話題が逸れたことに胸をなで下ろす。


「でも、あの方……礼儀正しくて、言葉も慎重で。軽薄な印象はありませんでしたわ」

とクラリッサが続ける。


「私は悪くないと思いましたよ、王子殿下」


「お母様まで……」


「第二王子がデビュタントに現れた記事、結構な話題になってるけれど……不思議なことに、誰と踊ったのかは一切書かれていないのよね」


「そう、ですね……」


「ええ、あれだけ注目を集めたのに、ですもの。……きっと“誰かさん”が載せないように手を回したのよ。 昨日交わした言葉も、あながち嘘ではなさそうね」


クラリッサはわずかに微笑み、エマに意味深な視線を向ける。


「まったく……。最近の若い殿方は、やることが早いわ」


「お母様っ!」


「まあまあ、エマ。これからはますます立ち居振る舞いに気をつけることね。噂はすぐ広まるものよ」


そのやりとりを背後で聞きながら、侍女のサラがくすりと微笑み、いつものように静かに食器を並べ直す。

――今日も、ローズベリー家の朝は、賑やかで温かい。


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