表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/85

27 夢のあと

朝の光がカーテンの隙間から差し込みはじめたころ、エマはようやく目を覚ました。

夢の余韻がまだ頭の中にふんわりと残っていて、ぼんやりと身を起こす。

そのとき――視線の先、部屋の隅にうっすらと揺れる人影があった。


『ねぇ。ねぇったら。いい加減起きて、昨日のお話聞かせてくださる? お相手は第二王子だったんでしょう?』


「……えっ?」


まだ半分夢の中にいるような気分のまま、エマはぽかんとその姿を見つめた。


「……どうしてご存知なんですか?」


『幽霊だって新聞くらい読めるわよ』


「新聞?」


エマは慌ててベッド脇のテーブルに目をやった。そこには、メイドが今朝届けたばかりらしい新聞が置かれている。


『今朝の朝刊よ。ほら、第一面にご立派な王子の肖像画。昨夜の舞踏会にご登場あそばしたと、持ちきりなの。「貴族令嬢たちの心を射抜く氷の瞳」だって。あらやだ、記者も詩人ぶって』


ふわりとベッドの近くまで浮かんできたオードリー夫人は、うっすらとした姿のまま堂々とした身振りで話す。


『でも不思議なことに、ダンスのお相手の名前は書かれていなかったのよねぇ』


「じゃあ、なぜ私が相手だと……?」


エマが顔をしかめると、夫人は口元を手扇で隠しながら、意味ありげに微笑んだ。


『人の口には戸は建てられないって言うでしょう? 噂って、幽霊のところには意外と早く届くのよ。あの使用人たちの控え室、壁越しでもよく聞こえるの』


「……それ、盗み聞きでは?」


『たしなみよ』


「どこの世界の……?」


オードリー夫人は軽く無視しつつ、ふいに声を弾ませた。


『それにしても、あなたったら! 第二王子とのダンスだなんて! この屋敷始まって以来の快挙よ! 私がまだ生きていた頃でさえ、王族が伯爵家に近づいたことなんてなかったのに!』


「いや、そんな“近づいた”なんて……」


夫人はしばし宙を漂い、うっとりとした調子でぽつりとつぶやく。


『……王子とのロマンス……きっと続きがあるわね。期待してるわ。できれば、この屋敷で密会なんて素敵じゃない? そのときは私、壁に張りついて応援してるわ!』


「そんな事は起こりませんから」


オードリー夫人は全く意に介さず、空中でくるりとターンしながら高らかに叫んだ。


『エマ! 次の舞踏会ではもっと大胆なドレスにしなさい! 胸元をぐいっと!』


「話が飛躍しすぎです!」


『それで? どうだったの? 彼、噂通りの氷のような目をしてた? それとも実は、溶けるバターのような笑みを浮かべるタイプ?』


オードリー夫人の言葉に、エマは顎に手を当て考えてから、少し間を置き答えた。


「……どちらかと言えば、溶けるバター……ですかね」


『あら〜! 素敵じゃない! 一人だけに向ける(とろ)ける笑顔なんて、宝石より魅力的よ!』


「べ、別に私だけに向けた笑顔だなんて言ってません……!」


――コンコン。


部屋の扉が控えめにノックされ、続いてサラの声が響いた。


「お嬢様、失礼いたします。皆様が朝食の席でお待ちです。ご準備ができましたら──」


「あ、はい。今すぐ行くわ」


エマが返事をすると、オードリー夫人はふわりと体を浮かせながら、まるで自分が出かけるかのように扉の方を振り返った。


『さあ、お嬢様。王子の思い出と共に、朝食の席へどうぞ』


「なんだかお芝居の台詞みたいですね……」


『幽霊は日々、ロマンと共に生きているのよ』


「……生きてはいないですよね?」


『失礼ね、こう見えてもまだまだ現役よ?』


「何の?」


『社交界の影の監視役──なんてどうかしら?』


……なんてことを言い出すのだから。


エマは思わず、小さく笑ってしまった。

そして、身だしなみを整えるため、ようやくベッドを降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ