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21 三人の取り巻きたち

 倒れてからすぐにマリアンヌは控え室へと運ばれた。舞踏会場の華やかな音楽とざわめきから切り離されたその部屋には、どこか張りつめた静けさが漂っていた。


 マリアンヌはふかふかのソファに横たえられ、蒼白な顔をして眠るように目を閉じている。

侍女たちは濡れタオルや毛布を運び込み、見習い医師が急いで本職の医師を呼びに行く。


 エマはマリアンヌが気になり、付き添うことにした。

控えめに部屋の隅に立ち、そっと様子をうかがっている。その隣では、ライオネルが沈黙を保ったままマリアンヌの表情を見つめている。


 そのとき――


「マリアンヌ様!」


 扉が勢いよく開き、数人の令嬢たちが慌てた様子で駆け込んできた。


先頭を走ってきたのは、艶やかな金髪を編み上げた令嬢――アメリア・コリングス。赤紫のドレスを揺らし、目には動揺の色が浮かんでいる。


「どうして……何があったの? マリアンヌ……!」


 アメリアのすぐ後ろには、銀髪をきちんと結い上げた令嬢――レティシア・クロムウェルがいた。

侯爵家の娘らしく、堂々とした気品を纏いながらも、その目は鋭く周囲を見渡している。


「もうすでに医師が呼ばれているそうです。ご安心ください。ローズベリー嬢も、こちらに?」


レティシアがエマに視線を向け、丁寧に会釈する。エマも慌てて小さく頭を下げた。


そして、最後に一人――控えめな足取りで部屋に入ってきた少女がいた。


 「……マリアンヌ様……ご無事でよかった……」


その少女、セリーナ・ド・ラ・ヴァールは、淡い水色のドレスを身にまとい、小柄な体をすぼめるようにして部屋の隅に立った。栗色の髪はゆるく結われ、両手を前でそっと重ねている。その姿からは、深い心配と戸惑いがにじみ出ていた。


 「セリーナ、大丈夫。お医者さまが来てくださるわ」


 アメリアがやさしく声をかけ、彼女の手を取る。セリーナはその手をきゅっと握り返し、小さくうなずいた。


 「はい……でも、こんなこと……初めてで、少し驚いてしまって……」


 「みんな同じよ。あんなふうに突然倒れるなんて……」


 レティシアも静かに言葉を添えた。


 エマはそのやり取りをそっと見守りながら、目の前に立つ三人の令嬢たちの“雰囲気”を肌で感じていた。


 アメリアは情熱的で、レティシアは理知的。そしてセリーナは――控えめで、どこか守ってあげたくなるような雰囲気をまとっている。


(まるで、役割が決まった舞台の配役みたい……)


 「……あの、これ……」


ふいに、セリーナがそっとエマの方に歩み寄ってきた。床をこするように控えめな足取りで、小さな銀の水差しを手にしている。


「これ……侍女さんがこぼしてしまったようなので、新しいものを持ってきました」


「ありがとう、助かります」


 エマは思わず笑みを浮かべて水差しを受け取る。セリーナは一瞬、ほっとしたように微笑んだ。


 「マリアンヌ様、本当に……大丈夫ですよね?」


 「ええ、もうすぐお医者さまも来ますし、きっと大丈夫です」


エマの言葉に、セリーナはまた小さくうなずいた。その横顔は、まっすぐで素直な、疑いようのない優しさに満ちていた。


――そのとき、扉の外から足音が近づき、侍女の声が響いた。


 「皆さま、診察のため、少しお下がりいただけますか?」


 若い侍女の声に、レティシアが真っ先に応じた。


 「ええ、もちろん。先生の邪魔になるわけにはいきませんものね」


 「セリーナ、行きましょう」


 アメリアが声をかけ、三人は連れ立って部屋を出ていく。


その背中を見送りながら、エマはふと胸の奥に小さな引っかかりを感じた。

けれど、それが何なのか、自分でもよくわからなかった。ただ、今は――マリアンヌが無事に目を覚ますことを願うばかりだった。

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