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20 バルコニーにて

バルコニーに出ると、夜の冷たい空気が熱を帯びた頬を撫でた。

 外は静かで、ホールの喧騒がまるで遠い世界のことのように感じられる。


 「……随分と、騒がしかったね」


 ライオネルが欄干に片肘をつき、夜空を見上げながら言った。

 その横顔は、月の光に照らされてどこか神秘的に見える。


「……こんなに注目されるなんて、思ってませんでした」


 エマも隣に並び、そっと夜空を仰ぐ。

 星が瞬き、空気は澄んでいるのに、心はまだ落ち着かない。


「でも、君は見事だった。堂々としていて、みんな目を奪われたよ」


「そ、そんなこと……緊張で足が震えてたんです。今でも少し……」


 恥ずかしさに目を伏せるエマに、ライオネルがふっと笑いかける。


「それでも、君は逃げなかった。正直、目が合ったとき――ちょっと息が止まった。嘘じゃないよ」


 その声音には、からかいでも義務でもない、まっすぐな想いがあった。


 エマは思わず目を見開く。


「……殿下は、お上手ですね。そういう言葉」


「殿下だなんてやめてくれよ。ライオネルと呼んでくれ。あの時みたいにレオンでもいいけど?」


 冗談めかした口ぶり。けれど、その瞳は揺らがない。

 心のどこかにそっと触れられたような気がして、エマは胸を押さえた。


 (この人に、踏み込まれたら――きっと、逃げられない)


 ふたりの間に、しばしの沈黙。

 けれど、それは気まずさではなく、穏やかな余韻に包まれたものだった。


 「……そろそろ戻りましょうか。母が心配してるかもしれません」


 エマの言葉にライオネルがうなずき、扉へと向かう。

 ホールに戻った瞬間――


「――誰か、医師を!」


 叫び声が場の空気を切り裂いた。

 人々がざわめき、中央から少し離れたところに人だかりができている。


「人が倒れてる……あれは、クラレンス嬢!?」


 エマは思わず足を止めた。

 倒れているのは、深紅のドレス――マリアンヌ・クラレンスだった。


 顔は蒼白で、目を閉じたままぴくりとも動かない。


「マリアンヌ嬢……?」


「さっきまで普通だったのに……急に崩れるように倒れて……」


 近くにいた令嬢たちが青ざめながら口々に語る。


 そのとき、空気がふっと凍るように冷たくなった。耳元に囁くような声が響く。


『……違う、私じゃない……“あの子”を……止めて……』


 その声は、マリアンヌのものではない。


 エマは思わず振り返るが、声も気配も一瞬のうちに消えてしまった。


(あの子? 誰……?)


 エマの胸がざわつく。

 静かだった夜が、再びきな臭さを帯びて動き始めたのを、彼女は本能で感じ取っていた――。

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― 新着の感想 ―
 事件が!どうなるのか、あの子とは誰なのか。楽しみです。
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