14 レジナルド・ローズベリー伯爵
サロンでは母とオードリー夫人の質問攻めに、しどろもどろで答えたエマは1時間後にようやく解放された。
へとへとになったエマは、なんとか自分の部屋にたどり着き、着替えを済ませるとベッドにばたりと倒れ込む。
(本当に……本当に長い一日だった……)
そう思った瞬間、瞼はするりと閉じて、深い眠りに落ちていった。
***
翌朝。
パンの香ばしい匂いが漂う中、エマは焼きたてのパンをちぎりながら、ようやく落ち着いた朝食のひとときを味わおうとしていた。
――その時だった。
「エマ!」
食堂の扉が勢いよく開き、レジナルド・ローズベリー伯爵――エマの父がずかずかと入ってきた。
「昨日、見知らぬ男と帰って来たと聞いたぞ!」
エマの父、レジナルドは昨晩は仕事で家に居らず、今朝方に昨日の出来事を聞いたようだった。
「お、おはようございます……お父様」
焼きたてのパンを手に固まるエマ。食べかけのスクランブルエッグが目の前にあるというのに、胃がぎゅっと縮こまる。
「エマ、父親として聞いておかねばならんことがある。そいつは誰だ?」
「え、えっと……レオンっていう人で……その……ただの案内人で、修道院の――」
なんとか絞り出したエマの声に、レジナルドが眉をひそめる。
「エマ、君はまだ若い。男というものはな、外見や態度だけでは分からん。身元も家柄も、ちゃんと調べねば――」
明らかに“交際相手疑惑”にスイッチが入った父に、エマは慌てて手を振った。
「違うのよ!お父様、本当に何もやましいことはなかったの。むしろ、助けてもらったのよ!危ないところを……」
「ふむ……助けられた?」
レジナルドの眉がわずかに動き、眼光が鋭くなった。
「どういうことだ? それは、危険なことがあったということか?」
「う……」
レオンのこと、霊のこと、そして昨日の事件の真相――すべてを話すわけにもいかず、かといって完全に嘘をつくこともできず、エマは言葉に詰まった。
(どうしよう……)
その時――
「旦那様、失礼いたします」
控えめなノックの後、執事が顔を覗かせた。
「今朝の新聞をご覧になりましたか? 例のヘイグ子爵家の脱税事件が報じられております。警邏隊が今朝、動いたそうで……」
レジナルドの表情が一変する。
「ヘイグ子爵……まさか、あの案件か……」
エマの心臓がどくんと跳ねた。
(脱税事件……まさか昨日のことと関係が……?)
レジナルドは大きくため息をつくと、椅子に腰を下ろす間もなく、身支度のために踵を返した。
「はぁ……。私はまた王宮へ戻らなければ。エマ、この続きはまた仕事から帰って聞くからな」
そう言い残し、慌ただしく出て行った。
(昨日の事と関係あるんだとしたら――あまりにも早すぎる。昨日の今日よ。あの人……彼は本当に何者なの……?)
いくら考えても答えは出ず、エマはぼうっと座り続けた。
――パンを片手に持ったまま。




