12 出迎えたのは
エマが目を覚ましたのは、屋敷の門が見えてきた頃だった。
「……着いたのかしら……」
「よく寝てたな。首は痛くないか?」
レオンの肩に寄りかかっていたことを思い出し、エマは反射的に背筋を伸ばした。
「あっ!ご、ごめんなさい。重かったでしょう?」
「あぁ、肩が外れそうだ。それによだれ垂らして寝言も言ってた」
「なっ……!」
エマは慌てて口元を拭った。
レオンは意地悪そうに笑っている。
「冗談だよ。重くもないし、よだれも出てない」
「もう!人が悪い!」
顔を赤くしながら、前世も含めて男性とこんな軽口をたたいたことがなかったので、気恥ずかしくなったエマはそっと視線を逸らした。
馬車が停まり、玄関前で執事たちが迎えてくれる。レオンが扉を開けてくれたが、その時、エマの脳裏にふとよぎるものがあった。
(……そういえば、修道院で見たあの女性の霊。なんだったのかしら)
そう思った瞬間だった。
『まぁまぁまぁ! 見たわよ、見ましたわよ、あの距離感! おほほほほ!』
どこからともなく、上機嫌な声が響いた。
(オードリー夫人……!?)
エマの屋敷に長年憑いているオードリー夫人が待ち構えていたのだ。
『エマ、あなたねぇ、なかなかやるじゃない。まさか馬車の中で寄り添って寝るなんて! しかもあんな素敵な男性と!』
(見てたの!?)
『見ないわけがないじゃない! まったくもう、心臓が二度止まりそうになったわ! 一度は生前、二度目は今よ!』
エマはその場で固まり、顔を引きつらせながら玄関をくぐった。レオンが少し心配そうに見ている。
「どうした?大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと……疲れがね!」
『うふふふ!エマ、お茶会の練習の相手、決まりね。あの男性にお願いするのよ!あの眼差し……絶対に、あなたに気があるわ!』
エマは内心で「お願い、黙ってて!」と叫んだが、声に出さずに我慢した。
『恋は戦よ。背筋を伸ばして、さぁ、勝負開始!』
(勝負って何と戦うの!?)
「そうか、ゆっくり休めよ。またな」
様子がおかしいエマに、レオンは心配そうに言い残し、馬車と共に去って行った。
――オードリー夫人の登場によって、そんなやり取りも気もそぞろにエマはついに屋敷へと帰還するのだった。
が、安心する暇はない。
「お嬢様、お帰りなさいませ。お母様が、お待ちかねでございますよ」
出迎えた侍女の声に、エマは顔をひきつらせる。
(……今日という一日は、まだ終わっていなかったのね)
その視線の先――サロンではクラリッサ・ローズベリー伯爵夫人――エマの母が待っていた。




