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11 馬車の中

レオンが隣に座っている。距離は……思ったより近い。

(ちょっと近い気が……いえ、これはきっと馬車の座席が狭いせいよね。そうよね?)


エマは視線を泳がせながら、何とか自分を落ち着かせようと必死だった。

だが、レオンの肩と自分の肩が時折触れ合うたび、内心は静かに騒がしい。


「そんなに端に寄らなくてもいいだろう? 落ちそうになってるぞ」

レオンが苦笑まじりに言う。


「べ、別に落ちません! 平気よ!」


「じゃあ、そんなに緊張するなよ。俺、噛みつかないから」


「誰が緊張なんか……!」


顔が熱くなっていくのを感じて、エマは思わず窓の外に視線をそらした。


(なんでこの人、いつもこうやって私のペースを乱してくるのかしら……)


「なあ、さっきの話だけどさ」


「え?」


「“案外冷静”って言っただろ? 本当は、“思ってたよりずっとしっかりしてる”って意味だったんだ」


「……何それ。後からフォロー入れるなんて、ずるい気がする」


「ずるいって、褒めてるんだよ」


レオンの軽口に、エマは思わず吹き出してしまった。

こんなふうに笑ったのは、今日一日で初めてかもしれない。


「……ありがとう、少し元気出たわ」


「それならよかった」


その後、しばし静けさが訪れる。

馬車の揺れと蹄の音が心地よく、ついエマのまぶたは重くなっていった。


「……ん」


気づけば、エマはレオンの肩に寄りかかっていた。

はっとして身を起こそうとしたが、レオンが低い声で囁く。


「もう少し寝たほうがいい。今日は色々あって疲れただろ」


「……でも、そんなことしたら……あなたに借りを作ったみたいでイヤ」


「借りだと思うなら、今度お茶でもおごってくれよ」


「……紅茶一杯くらいならね」


エマがそう言うとレオンはエマの頭を引き寄せ自分の肩にもたれ掛けさせた。


エマは自分の心臓が早鐘を打つのを感じた。

しかし同時に、ほんのり温かくて安心できる場所だとも。まるで、嵐の後の静けさのようだった。


(――この人、何者なんだろう。でも……もう少しだけ、この距離でもいいかもしれない)


夜風に揺れるカーテンの向こう、馬車は静かにローズベリー家へと進んでいった。


――そして、次に目を覚ましたとき、そこには“意外なひと”が待っていることなど、今のエマはまだ知らなかった。

サラは生暖かい目で見守っています。

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