逮捕
「結婚詐欺の容疑で連行!」
胡桃は、手錠を嵌められた。それを眺めていると、隣にスッと立った懐かしい香りがする。あ、もしかして、顔を向けると許嫁の英斗の笑い顔があった。
「ばーか」
私は手を取ってキュッと握ると、左手におそろいの指輪が光っていた。私は、英斗に抱き着き、胡桃に向かって言った。
「離婚ね」
「うるせーよ、する気はないよ!」
「そんな・・・」
弁護士の平井さんが、目の前に立ちはだかる。ごきっと骨の音がして、胡桃の手がするりと手錠から外れた。
「おい縄抜けだな!待て」
胡桃が走り出すと、網が胡桃に被せられる。その一部始終を寒さに震えながら見ていると、英斗がマフラーを掛けてくれた。英斗が私の耳元で囁く。
「引っ越しする?一緒に住もう、もう用意してあるから。借金は頑張って返してこうな」
平井さんが弁護士バッジを光らせながら裁判通知書を、胡桃に渡している。警察に危ないと静止されながらも、大きく頼もしい声で言った。
「調停ですよ!忘れないでね!警察この人オカマなんですよ」
数人の制服を着た警察官は、網から素早く胡桃のズボンと下着を下げ、股間に何かを差し込んで、縄を胡桃の体に巻き付けて行く。
「はい!やって、」
胡桃の悲鳴が、聞こえた。
「電流ですよ」
英斗がクスクス笑いながら、私を振り返らせると、数人の男性達が私の荷物を運び出していた。平井さんはこちらに振り向いて言った。
「すごいですね、胡桃さんが小便を垂れました。」
アンモニア臭をまき散らしながら、ズボンを履かせられ朦朧とした胡桃は、パトカーに乗せられ走り去った。
「さてと、行きますか。」
英斗は、私の腕をつかんで車の助手席に乗せてくれた。私はこんな頼もしく愉快な気持ちになったことはなかった。今まで上から目線であれやこれやと怒鳴られて、私は頷いてきたのだから、これからは少し自由に生きよう。そう決めて、窓を開けて平井さんに礼を言う。英斗が頬に口づけしてきた。にやりと笑う平井さんを尻目に、車は走り出した。
胡桃はその後オカマバーで働くこととなったとさ