第十三章:再起の炎、始動する罠
かなさ――執念と復讐の芽生え
「……完璧な私の髪が……汚されたままでいられるわけがない……」
夜の高層ビル最上階にある豪奢な寝室で、かなさは一人、髪をブラシで梳いていた。鏡に映る自分の姿は、依然として美しい――だが、髪の先端に見える細かな枝毛が、彼女の心をひどく乱していた。
「許さない……絶対に許さない……!」
かなさの瞳には冷酷な炎が宿っていた。
そのとき、扉を静かに開けて高嶺亮が入ってきた。手には、小瓶に入った試作品のような液体が握られている。
「かなさ様。この薬液は、毛髪研究所が緊急で用意したものです。髪のダメージを修復し、さらに――」
「私の髪を、以前よりも美しくするものかしら?」
かなさが冷たく言い放つと、亮は静かに頷いた。「はい、必ずや」
かなさは液体を手に取り、微笑んだ――その笑みはどこか危険な輝きを帯びていた。
「それでいいわ。私の髪がさらに美しくなれば――あの女(涼子)や、レジスタンスの連中に絶望を見せつけることができる」
彼女は椅子から立ち上がり、長い髪を指で撫でながら続けた。「この髪は、誰にも奪わせない――そして、私の力をさらに証明してみせるわ」
涼子――心理戦の始動
一方、涼子は豪奢なオフィスの一室で、部下と共に次の計画の準備を進めていた。彼女の前には、大量の写真が並べられていた。そこには――「かなさの髪に生じたダメージ」の拡大写真が写っている。
「この写真を世間に広めるのよ」
涼子は冷徹に言い放ち、部下たちを見回した。「"奇跡の髪"が傷つき始めたという噂を流し、彼女の周囲に疑念を植え付ける。彼女の支配の象徴――髪への信頼が揺らげば、かなさの力も崩れるわ」
「……ですが、彼女が反撃してくる可能性もあります」
部下が不安そうに言葉を漏らすと、涼子は静かに笑った。「それならそれでいい。彼女が焦れば焦るほど、自らの髪を傷つける行動に出るでしょう」
「かなさを"諦めさせる"――それが私の勝利よ」
レジスタンス――髪の力を封じる策
レジスタンスの隠れ家では、蓮としずえが科学者たちと共に新たな計画を進めていた。
「かなさの髪の魅了効果は、物理的な接触や香りを通じて発生している――ならば、それを無効化する手段は必ずあるはずだ」
蓮が真剣な表情で言うと、科学者の一人が頷いた。
「私たちは、髪のフェロモン効果を中和する"制御薬"の開発に取り掛かっています。ただ、完成にはまだ時間が必要です」
「急ぐんだ」蓮は力強く言った。「かなさの髪の力が弱まっている今こそ、仕掛けるチャンスだ」
動き出す罠
数日後――かなさの豪邸の前には、突如、報道陣が押し寄せた。
「かなさ様!『奇跡の髪』にダメージがあるという噂が広まっていますが、本当ですか?」
「あなたの髪は本当に"奇跡"なんですか?」
かなさはバルコニーからその光景を見下ろし、怒りに震えた。「……涼子の仕業ね」
その夜、かなさは亮に命じた。「次は――私が直接、涼子に絶望を与える番よ」