髪の王国(プロローグ)
生まれながらに「奇跡の髪」を持つ辻谷かなさ。彼女はその髪の魔力で都市を支配し、絶対の美を誇っていた。しかし、髪を巡る執念と対立が暴走を招き、かなさはすべてを失う――。
支配、嫉妬、そして絶望の果てに待つものとは?
都市全体を支配する「女王」
辻谷かなさは、鏡の前に座っていた。
黄金のように輝くスーパーロングヘアが、背中を流れるように覆っている。滑らかなその髪は、触れた者すべてを虜にし、彼女の絶対的な力の源だった。
「……完璧ね」
かなさは、鏡に映る自分の髪を見て満足げに微笑む。だが、その瞳には不安の色がわずかに滲んでいた。
「少しツヤが足りないかしら?」
彼女は手元のヘアオイルを取り、慎重に髪に塗り込む。都市全体を支配する「髪の女王」として、ほんの些細な傷みすら許されなかった。髪の美しさが彼女の力そのものなのだ。
「女王」の日常
都市の男性たちはかなさの髪に魅了され、完全に彼女の支配下に置かれている。重要な政治家や企業の経営者すら、彼女の髪を触れた瞬間に虜となり、理性を失う。その結果、都市の経済と行政はかなさの手のひらで動いていた。
女性たちは異なる。彼女たちの多くは「髪の魔法」に魅了されないが、例外もいる。中には、かなさの髪を羨み、崇拝する者もいれば、激しい憎悪を抱き、反抗心を燃やす者もいる。
「かなさ様、お迎えの準備が整いました」
執事の高嶺亮が部屋の扉を開け、恭しく頭を下げる。
彼もまた、かなさの髪に魅了された一人だった。無表情な顔の奥には、かなさへの絶対的な忠誠が刻み込まれている。
「わかったわ。行きましょう」
かなさは軽やかに立ち上がると、スーパーロングヘアを揺らしながら扉へと向かう。その背後には、彼女の髪がまるで生き物のように流れる音が響いていた。
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不穏な兆し
一方、その都市の地下。闇に隠れるように活動する二つの勢力が存在していた。
一つはレジスタンス。辻谷かなさに家族を奪われ、自由を取り戻すために戦う反抗者たちだ。彼らは「魔法の髪」の力を完全に破壊することで、かなさの支配を終わらせることを目的としている。
そしてもう一つは、黒谷涼子が率いる第三勢力。彼女たちはかなさの「魔法の髪」を奪い、自分たちが新たな支配者になるために動いている。
「黒谷さん、準備は整いました」
涼子の部下が密かに報告する。
「よろしい。次の一手で、かなさの髪を確実に手に入れるわ」
涼子は薄い笑みを浮かべながら答えた。その目には、かなさへの冷酷な野心が宿っている。
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レジスタンスの拠点
地下の隠れ家では、山野しずえが仲間たちを集めていた。
「次の作戦は、かなさの髪を傷つけること。美しい髪を失えば、彼女の力は半減するはずよ」
「でも、それだけでいいんですか? いっそのこと髪を全部燃やしてしまえば――」
「それができれば苦労しないわ!」
しずえは語気を荒げる。「髪には触れることさえ危険なのよ。だからこそ、ゴム手袋を使って慎重に動かなければならないの!」
風間蓮が口を挟む。「……でも、これ以上こんな状況が続けば、かなさだけでなく、第三勢力にまで支配されることになる。髪を奪われるより先に破壊する。それしか方法はない」
しずえは蓮をじっと見つめる。「わかってるわ。でも、私たちが最後に勝つのよ」