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違和感の増幅

 敷布団で仰向けに寝ていた私は、ふとお腹に違和感を覚えた。

 くすぐったいような、いがいがするような、チクチクするような、ともかく、お腹の中に得体の知れない何かが潜んでいるような気がした。

 私は途端に恐怖を覚えた。

 日中に飲み込んだと思われる蝿の死体、そして弟が何度も唱える「死の味」が、一気にこの違和感と結びついたのだ。

 

 もしかして蝿の死体がゾンビのように増殖して、私の腹の中を食いむしっているのではないか?

 

 そんな不安を助長するように、腹の違和感はひどくなっていく。

 くじ引きの紙が風で舞うドームのように、私の腹の中で無数の小さなものが飛び回って、腹の壁にコツコツと当たる。

 その感覚は、私の不安をさらに確かなものとしていった。


「あっ、あああっ!!」


 違和感の増幅につれて、私は腹を抱えて悶えるようになった。

 腹は、私の悶絶とは裏腹に、ゴム風船のようにどんどん膨れ上がっていく。

 その中で飛び回るものも、激しさを増していく。


「いやっ、やだっ、ああっ、助けてっ、誰かっ、助けてっ」


 私は泣き叫んだ。

 でも誰も助けに来ない。

 そもそも私は一人だった。

 いつもの白い敷布団があるだけで、あとは無の真っ暗闇が広がっていた。

 ひとりぼっちの私のお腹は、大きく大きく、お母さんが妊娠していた時よりもずっと大きく膨れていく。

 痛いっ、いやっ、誰か助けてっ、ああっ、痛いっ、痛いっ!

 大きなお腹は私の呼吸をおかしくする。無理くりお腹の壁が引っ張られる痛みと、いつ張り裂けるのかわからない恐怖がごちゃ混ぜになって、私の頭を混乱させる。

 私はただ逃げたかった。

 着実に忍び寄る死の気配から逃げたい一心だった。


「嫌だっ! 死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたく……」


 突如、バンっ、と、まさしくゴム風船の割れるような音が鳴った。

 体が上に弾けた後、混乱でぐちゃぐちゃになってた私は嘘みたいに無心に帰って、仰向けになった。

 視界には、数えきれないほどの黒い点が飛び回っていた。

 全部蝿だった。

 凄まじい羽音を立てながら、視界いっぱいに蝿が飛び回っていた。

 私は死にかけの目をしながら、ぼうっと蝿で埋め尽くされた視界を眺めながら、瞼を閉じた。

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