ある違和感
そんな争いだらけの夏休みのある一日の事。
「行かないって言ってんじゃん。一人で行けや」
と、いつも通り私は外遊びの誘いを断る。
それに対する弟の返しは、「あっ、そう」とか「フーン」とか、さりげない一言で終わるのだが、今日は
「行った方が良いと思うんだけどなー」
と、聞きなれない煽りの手口を引き出してきた。
「行かないって。てか喋んなよ。こっちは今良いところなんだから」
ちょっと違和感を覚えたけど、私は何げなく拒絶を続ける。するとようやく、
「そうですか」
と、いつもの一言返事をして、弟は外出した。
あーうるさい。本当にうるさい。怒りのせいで余計に体が熱くなる。
今日は雨が降りそうな曇天で、気温も馬鹿みたいに高くなかったから、節電目的も兼ねて扇風機は止めていた。
だが、弟のちょっとした口げんかでも体がヒートアップしてしまう私は、容赦なく風力を「強」にして、扇風機の電源を入れた。
直後、のけぞり返るくらいの違和感が私に飛び込んできた。
私は扇風機を初めて回すとき、必ず扇風機に向かって口を大きく開けるという不可解な癖がある。
誰しもやったことのある、「ワレワレハウチュウジンダ」遊びとかではなく、ただ黙って口を開けるだけ。
別に気持ちよいわけでもないけど、やったら気が済んで落ち着くからやってる。
逆にやらねば一日中気分が悪くなってしまう。
そんな癖のある癖の話はともかく、突発的な違和感はその癖が裏目に出てしまったためだった。
扇風機を回し始めた直後、私は喉の奥に異物が嵌りこんだのを感じた。
「うっ!! ゲッホっ!! ゥゲッホォっ!!」
私はすぐに喉を押さえて激しくせき込んだ。
でも異物は喉の真ん中あたりまで進んでいるようで、咳ごときじゃ吐きだせなかった。
仕方なく私は急いでコップに水道水を注いで、がぶがぶと喉に流し込んだ。
異物は素直に水流に乗ってくれたみたいで、詰まってるような違和感はすぐに無くなった。
「行った方が良いと思うんだけどなー」
ふと、弟の意味深な言葉が頭をよぎった。
まさかあのクソガキが……。
そう考えるとまた体が熱を帯びてくる。
扇風機だけじゃ足りないから、冷凍庫からチョコチップアイスを取り出して食べた。
イライラもホトボリもだいぶ落ち着いてきた。
私はすっきりした頭で再びゲームに集中した。