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召還された召喚師  作者: 星々導々
第一章 転生者の降臨・消滅・そして再臨
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7話 騎士との交渉

 マナヤは、覚えている限りのことを語った。前世で自身の住んでいた「地球」のこと。兄と暮らしていたこと。

 そして、死んだ時に『神』に呼び出され、この世界に転生してきたことを。


『異世界に転生して欲しい』

『その世界では、マナヤが遊んでいたゲームと同じ性能のモンスター、そして「召喚師」という「クラス」がある』

『召喚師は、その世界では必要なのだが異常なまでに冷遇されている』

『その世界で、召喚師の本当の戦い方を広め、待遇を改善して欲しい』

『転生先の人間は既にモンスターにより故郷の村を滅ぼされ死んでしまったので、直前まで時間を巻き戻すので対処して欲しい』


 おおまかに纏めると、神がマナヤに伝えたことはこれくらいだ。

 そうしてマナヤは、気がつけば召喚師専用の宿舎で、テオの体で目覚めたのである。



 ◆◆◆



 一通りの説明を聞いた黒魔導師ディロンが、額を抑えながら確認してきた。


「では、このセメイト村は一度はスタンピードで滅びた。その後、時間が巻き戻ってマナヤ君がテオ君として転生し、襲撃から村を救ったと?」

「はい。なのでどこからどの程度のモンスターが攻めて来るか、ある程度わかってました」


 そこへ、「なるほどね」と突然小さく呟くアシュリー。


「あんたが急に、召喚師らしくない戦い方をしだした理由がわかったわ。別世界の戦術かあ……」


 感慨深いように言い、ずいっと顔を近づけて興味深げにマナヤを見つめてくる。至近距離からキラキラとした青い瞳に見つめられ、気恥ずかしくなったマナヤはつい目を逸らした。


「ちょ、ちょっと待ってください」


 突然声を上げたのは、ようやく落ち着いたらしいシャラ。

 血の気が引いた顔で、必死にマナヤへ身を乗り出す。


「テオが死んじゃったって、テオは、テオは今どうなってるんですか?」

「……わからん」

「わからん、とはどういう意味だ?」


 シャラの問いへの答えに、今度は黒魔導師ディロンが鋭く割り込んでくる。


「言葉通りの意味、です。テオが前世の俺の記憶を思い出して混じり合ったのか、それとも俺がテオの体を乗っ取ったのか、わからないんです」

「〝転生〟という言葉通りならば、前者ではないのか?」

「それがはっきりしないんです。俺はテオの記憶を持ってますが、覗こうと思わなけりゃ記憶を覗けませんから」


 そう、それが『マナヤ』=『テオ』という図式が成り立たない可能性が高い理由だ。

 この世界には、マナヤには馴染みがないもの、すぐに思い出せないものが多すぎる。テオの意識を引き継いでいるなら、最初からそれらに慣れていてもおかしくないはず。


 たとえば、先程マナヤの意識が戻った時に、額に張り付いていたバジル似の葉。

 あの葉は『ピナ』という名の木から取れる葉で、乾かさずに火をつけると異常なほど長時間燃え続ける。燃料代わりとして使われていた。

 火をつけたあとに吹き消すと半透明になり、今度は逆に氷のように冷たくなる。飲み物に入れて冷やしたり、火傷の治療に使ったり、熱を出した者の額に貼ったり等、色々と使い道があるらしい。


 子供でも知っている、この村の生活には無くてはならない便利な葉。

 だがマナヤは当初、この葉のことがまったくわからなかった。テオの記憶から意識して掘り出し、やっと思い出したことなのだ。


「そん、な」


 シャラが口元を押さえ、体を小さく震わせている。両親も困惑したように目を合わせた。


「……荒唐無稽(こうとうむけい)が過ぎる」


 そう、険しい顔で吐き捨てたのはノーラン隊長。


「異世界から転生してきた? 遊戯で戦い方を学んだだと? おとぎ話をする状況ではないことくらいわかろう!」

「落ち着いて下さい、ノーラン隊長」


 マナヤへ詰め寄ってくるノーラン隊長を宥めたのは、先ほどの白魔導師テナイアだ。


「テナイア殿! まさか貴女までこのような見苦しい言い訳を真に受けるというのではありますまいな? しかもこの者の証言、妙にあやふやだ」


 ノーラン隊長の台詞に、マナヤもギリと歯ぎしりを。


(しょうがねえだろ! 俺だって神サマとやらに会った時のこと、記憶があいまいなんだよ!)


 あの空間で神と話した時のことは、実はあまり詳しく覚えていない。記憶に霞がかかったように、断片的にしか思い出せないのだ。

 一方、隊長から厳しい視線を向けられた白魔導師テナイアは、あくまで冷静。


「実際に彼はスタンピードの発生方向を予知し、たった一人でモンスターの群れ半数を鎮圧したのです。これは居合わせた村人たちからの証言も取れています」

「それがおかしいと言うのです! 野良モンスターどもが、この少年の狙いどおりに動くなど!」

「ではノーラン隊長は、なぜこの少年にそのようなことが出来たと?」

「決まっておりましょう、召喚師解放――」


 と、そこでノーラン隊長が急に口をつぐんだ。

 らちがあかない。マナヤはひそかに拳を握りしめる。


(くそ、この分じゃこのディロンとかいう黒魔導師の奴も)


 先ほどまでも険しい視線を向けてきていた、ディロンという男。ちらりと彼へ視線を移す。


(あれ?)


 だが黒魔導師ディロンの視線からは、なぜか疑いの眼差しが消えていた。無表情に戻り、何かを考え込むように口元に手を当てている。

 彼はふと顔を上げ、こちらをまっすぐ見つめてきた。


「いくつか、質問したいことがある」

「は、はい?」

「君は〝召喚師解放同盟〟という組織を知っているか?」


 途端、ノーラン隊長が無言のままギョッとディロンへ振り返っていた。

 その反応に少々訝しむも、マナヤは前世の記憶を掘り起こしてみる。


「召喚師解放同盟……いいえ、初耳だと思います。どういう組織です?」

「〝トルーマン〟という名に聞き覚えは?」

「……いいえ」

「では〝ヴァスケス〟という名は?」


 どういう意図の質問だろうか。

 しかし考える暇もなく、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。やはり問い返しには答える気が無いのを察して、マナヤはひたすら淡々と答えていくことにした。名前らしきものについては、『サモナーズ・コロセウム』のキャラクター名や、設定資料集にあったかどうかを思い出そうとしながら。

 その間、白魔導師テナイアはマナヤをじっと見つめてきていた。こちらの一挙手一投足に気を配っているかのように。


「――君は、この世界や住民に害意があるわけではない。間違いはないか?」

「ありませんよ。一応、テオの記憶もありますし」

「……」


 その質問を最後に黒魔導師ディロンはじっとこちらを見つめ、その後ちらりと白魔導師テナイアへ目くばせ。彼女も小さく頷き返す。

 再度マナヤへ向き直ったディロンは、淡々とこう告げた。


「とりあえず君には、我々と共に駐屯地へ同行して貰いたい。そちらで詳しく話を聞こう」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


 冗談ではない。

 騎士隊の駐屯地は、ここセメイト村の北にある。そこに連行されるということは……


「さっき言ったじゃないッスか! この村に第二波が来るかもしれねえんです、俺がここを離れるわけには!」

「馬鹿を言うな。そのような言い訳で我々の追及を逃れられると思うか」


 そこへ冷たく割り込んでくるノーラン隊長。先ほどより表情をより険しくし、鋭くマナヤを睨みつけてきている。


「どうしてです! 実際俺が予知した方向からスタンピードが発生したでしょう!」

「第二波は昨晩のうちに来る、とも君は言ったはず。だが実際はどうだ?」

「た、たぶん俺が動いたせいで歴史が変わったってだけです! 村の南が危ないことにゃ変わりねえ!」

「そこだ。そもそも村の真南にモンスターが溜まっているなどということ自体、ありえるまい」

「なんで、ンなことが言えるんスか!」

「……とぼけているのか?」


 より疑念の目を強め、ノーラン隊長が油断なくマナヤを見据えてくる。


(一体なんなんだ! 南西からスタンピードが来ることは良くて、なんで南にモンスターが溜まることは不自然だってんだよ!)


 テオの記憶を漁ってみるも、答えになりそうな記憶がなかなか出てこない。

 問いつめようとするマナヤだが、隊長が先に口を開いた。


「ただでさえ今のこの村は、防壁も一部損壊してしまい危険な状態。騎士隊の守りを村から離すわけにはいかん」

「だ、だからこそ、第二波が村に来る前に対処すべきだって言ってるんです! こんな状態で第二波に襲われたら!」

「そのために我が騎士を村の外へ追い出そうと? 村の守りを手薄にさせ、その間にここで何をするつもりだ。君は一体何を企んでいる」

「何も企んでなんかいませんよ!!」


 なぜ、わかってくれないのか。

 スタンピード第二波にすぐに対処してもらう。そのために、自身の正体まで明かしたというのに。


「ッもういい! だったら俺が一人で南の森へ向かう!」

「逃がすはずがあるまい。君を駐屯地まで連行する。何を(くわだ)てているか、吐いてもらうぞ」


 飛び出そうとしたマナヤだが、即立ち上がったノーラン隊長に肩を抑えられ、強制的に座らされる。

 だが、このまま連れていかれるわけにはいかない。


(どうすりゃいい! この村を、テオの家族を守るために、何ができる!?)


 ――いっそこの場でこの騎士達を倒し、強引に南の森へ向かうか?

 そんなことをすれば自分どころか、テオの両親らの立場まで危うくするだけだ。


 ――騎士隊の説得は諦めて、村の者達に第二波のことを伝えて託すか?

 しかしスコットも先ほど『南門から第二波が来るなど、ありえない』と言っていた。どういうわけかはわからないが、そうなると他の村人にも信用されないかもしれない。

 それにテオの記憶では、村の者達では第一波すら突破できなかったのだ。


(……待て、よ)


 無茶苦茶な手だが、一つ閃いた。

 今の村の者達で突破できない、ということならば……


「わかりました。村の守りが手薄になっても、村を守り切れる力が残ってりゃいいんですね」

「なんだと?」


 眉を吊り上げるノーラン隊長。

 だがマナヤは、開き直ったようにノーラン隊長を睨み返した。


「俺が、この村の召喚師たちを鍛えます」


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