表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召還された召喚師  作者: 星々導々
第一章 転生者の降臨・消滅・そして再臨
39/275

39話 心のよりどころ

「シャラ、どうしたの!?」

「……おそらく、マナ切れでしょう」


 シャラを助け起こそうとするアシュリーだが、白魔導師がシャラの額に手を当てて言う。

 アシュリーは首を傾げた。


「マナ切れ? だって錬金術師って、マナ総量が一番多いクラスじゃ?」

「確かシャラさんは、戦闘用の錬金装飾(れんきんそうしょく)を先日まで扱えなかったはず。マナが空っぽの錬金装飾(れんきんそうしょく)に、いちいちマナを込めなおしていたのではありませんか」

「……はい」


 青い顔で息をしているシャラが、白魔導師の問いに頷く。かろうじて意識はあったようだ。

 アシュリーが驚きに目を見開いた。


「え、うそ。だってシャラが今日使った錬金装飾(れんきんそうしょく)って、五個や六個じゃすまないのに」

「そう、ですか。戦闘用の錬金装飾(れんきんそうしょく)は、生活用のものの数倍、マナを必要とすると聞きます。シャラさんは、錬金術師にしてもマナ総量がかなり大きいのですね」


 白魔導師も少なからず驚きながら、シャラを見下ろす。


(そうか。ゲームと違って、マナを込め直す必要があったのか)


 マナヤもため息をつき、シャラに向かって屈んだ。


「シャラ、アシュリーの言う通り村に戻って待機してろ。マナがないお前じゃ、戦力にならねぇだろ」

「ま、待ってください! 私、まだやれます!」


 しかし、シャラは譲らなかった。なんとか立ち上がろうとしながら食い下がる。


「いやお前、なんでそんなに行きたが――」

「錬金術師は、マナの回復速度が速いんです! 辿り着くころには、なんとかします!」

「そうは言ったって、せいぜい二分で全快する俺たち召喚師とは比べ物にならねえだろ。……カラになったマナって、どのくらいで回復するんです?」


 白魔導師に訊ねれば、戸惑いつつもすぐ答えが返ってくる。


「多少の個人差、クラス差はありますが。錬金術師であることを加味しても、全快するには一晩。まともに戦える最低限としても、三十分ほどは休まなければ」

「そら見たことか」


 シャラが、悔しそうに唇を噛んだ。

 が。


「――連れて行きましょ、マナヤ。あたしが抱えていくわ。一人だけなら、そうスピードは落ちないし」

「……アシュリーさん」


 アシュリーがシャラを助け起こす。


「は? いやアシュリー、お前までなんで」

「一度マナを充填した錬金装飾(れんきんそうしょく)は、そのまま使えるんでしょ? 『キャスティング』で錬金装飾(れんきんそうしょく)を装着させる要員としてだけでも、連れてく価値はあると思うわよ?」


 と言って、マナヤにウインクしてみせた。

 それを受けて、シャラも勢いづく。


「はい。それに、『魔力の御守』で人のマナを回復できるのは、錬金術師の私だけです! 向こうに着いた頃には、きっと一つ分くらいは充填できるくらい、回復してます!」


 額に汗を浮かべながらも、シャラは強い意志を瞳に宿している。


(……まあ、いいか。錬金術師がいるとありがたいのは、確かだしな)


 マナヤが一番ゲーム的な感覚で連携を取りやすいのは、錬金装飾(アイテム)を扱える錬金術師だ。それにシャラのこの『やる気』ぶりも、わからないではない。


「わかったよ。とりあえず時間が惜しい。急ぐぞ」


 そう言ってマナヤは目を閉じ、ヴァルキリーを操作する。


「シャラ、行けるわね?」

「はいっ……あ、ちょっと待って下さい」


 と、シャラが少し顔を赤らめながら、杯のようなチャームのついた錬金装飾(れんきんそうしょく)を取り出した。崖崩れが起きる直前、マナヤに言われてマナを込めた物だ。

 シャラはおもむろに、それを自分の左手首に装着する。


 ――【減重(げんじゅう)聖杯(せいはい)


「じゃあアシュリーさん、お願いします」

「オッケー……って、すごい軽いわね?」

「体重を減らして、重装備でも動きやすくするのが主体の錬金装飾(れんきんそうしょく)ですから」

「へー」


 シャラを背負って感心しているアシュリー。


「ああアシュリー、ならお前はこいつを使っとけ。もっと早く()けられるぞ」


 と、マナヤがアシュリーに投げ渡したのは『妖精の羽衣』。

 受け取ったアシュリーが、左手首についている『防刃の帷子』を外し『妖精の羽衣』に着け替えた。ふわりと、アシュリーの足が地面から浮く。


「うわ、なんか変な感じ。足を動かさなくても移動できそう」 


 するすると、その状態でゆっくり地上をホバーしてみせるアシュリー。シャラがその背にしっかり捕まっている。

 が、すぐにアシュリーは顔を引き締めた。


「――行きましょ!」

「ああ!」


 飛ぶように、アシュリーとヴァルキリーが()けだした。

 ……かと思えば。


「ってうおおおお!?」

「あっ! ちょっマナヤどこ行くの! そっちじゃないでしょ!」


 突然、ヴァルキリーが方向転換。

 マナヤを乗せたまま、左方へと爆走していく。


「わ、(わり)ぃ! こっちに野良モンスターが居やがったみてえだ!」

「そんな場合!? ちゃんと制御しなさいよ!」

「無理だ! 射撃モンスターの射程圏に入っちまったら、もう制御は効かねえ! 【戻れ】――っうおおおやっぱこうなるかああああ!」


 突然、その場で独楽(こま)のように高速回転し始めるヴァルキリー。『戻る』べきマナヤ自身を背に乗せてしまっている弊害だ。

 何かが、回り続けるヴァルキリーの兜にカツンとぶつかって、落ちる。


「……矢? ケンタウロスの?」


 シャラをずり落とさないように注意しながら、それを拾うアシュリー。

 どうやらヴァルキリーは、野良ケンタウロスに狙われてしまっているらしい。


「い、【行け】! す、すぐ倒して戻る! そこで待ってろ――」


 回転をやめたヴァルキリーが、再び森の奥へ突撃。マナヤの声も遠ざかっていく。

 アシュリーはしばしその先を見つめ、うなだれた。


「……あいつでも、どうにもならないコトはあるのね。ごめんシャラ、ちょっと寄り道するわよ」

「は、はい」

「ああもうマナヤ! 待ちなさーい!」


 彼を追って、アシュリーも翔け出した。



 ◆◆◆



 野良ケンタウロスを処理した後、街道を伝って高速移動中。

 マナヤを乗せたヴァルキリー、並走しているアシュリー、そして彼女に背負われているシャラ。


「――二重人格、状態?」

「ああ。こうなるまで俺も全然気が付かなかったんだが」


 マナヤは二人に、自分の状態を話していた。


「たぶんこの身体にゃ、二つの魂があるんだ。元々のテオの魂、そして転生してきた俺の魂の二つがな」


 記憶は見えるのに、テオとは別人のような感覚。

 この奇妙な感覚の正体は、そういうことだったのだろう。いわば自分は、憑依転生していたのだ。


「この世界に嫌気がさしたあの時、自分が『沈める』ことに気づいたんだ。それから、俺はテオの中で眠ってた」

「その間に……テオが、表に戻ってきたんですね」


 ヴァルキリーを操るために目を瞑ったままのマナヤの言葉を、シャラが引き継ぐ。


「そういうこった。良く眠れたおかげで、随分とすっきりしたぜ。今は逆に、テオが俺の中で眠ってる。……アイツの必死の懇願が俺に届いて、俺がまた目覚めたんだ」


 あの時のテオの、強い思い。


(この世界にはまだ俺が必要、か)


 自嘲気味に、マナヤは笑う。


「……マナヤ、ごめんね」

「アシュリー?」

「あたし、あんたを傷つけちゃった。元の世界に戻りたがってた、あんたに」


 一旦視点を自らに戻し、アシュリーの横顔を見つめる。

 彼女は、翔けながらも目を伏せていた。言っているのは、マナヤが一度引っ込んだあの日の会話のことだろう。


「……お前が謝るんじゃねぇよ。お前は何も悪くない。悪いのは俺だ」

「でも! あたしはあんたに、この世界に慣れろだなんて――」

「いいんだよ。大体俺は、なにも本当に『帰っても良いよ』だなんて言われたかったわけじゃねーんだ」

「え?」


 アシュリーが驚きにこちらへ振り向いた。


「あん時の俺は、ただ不貞腐(ふてくさ)れてたんだ」

「不貞腐れて、た?」

「ああ。テオの中で寝てる間に、気づいたんだよ。史也(ふみや)兄ちゃんの夢を見てな」

「……あんたの、前世のお兄さん?」


 頷くマナヤ。


「この世界に嫌気がさしたあの感覚にゃ、覚えがあった。俺がまだ遊戯(ゲーム)……召喚師の戦い方が下手くそだった時のな」

「あんたにも、そんな時が?」

「まあな。兄ちゃんどころか、他のプレイヤーにも勝てる気がしねえ。不貞腐れて俺は、『こんなゲーム、どうせやる価値なんかねえんだ』って言い訳して、投げ出しちまった」


 いわゆる『すっぱいブドウの論理』というやつだ。


「あれと同じだったんだ。俺は結局、この世界に馴染めねえ自分が情けなくて、悔しかった」

「……マナヤ」

「この世界に〝拒絶〟されそうな気がした。だからあん時の俺は、開き直っちまったんだよ。〝だったら俺の方から()()この世界を拒絶してやろう〟ってな」


 慣れない世界に、無理やり連れてこられて。

 知らない文化に、付き合わされて。

 馴染みのあるものから、永遠に引き離されて。


 ただただ……この世界に、責任をぶつけたかった。


「あん時もし、お前にまで『帰りたかったら、帰っても良い』なんて、本当に言われてたら。――俺は多分、マジで壊れちまってただろうな」


 本当は、嬉しかった。彼女が自分を気遣ってくれていたことが。

 ただそれを、この世界の〝良いところ〟を、認めたくなかっただけ。


「……だから、ありがとな。アシュリー」


 こちらを見つめていたアシュリーが、正面へと向き直る。


「そっか。……そっか」


 涙を声に滲ませ、そう笑っていた。

 背負われているシャラも、目を伏せる。


「だからアシュリー、お前は変に遠慮すんな」

「え?」

「どうせ、この世界にゃ慣れなきゃいけねーんだ。だから、お前は普通に接してくれ。俺がこの世界の文化的におかしなことをしたら、前みたいに指摘してくれりゃいい」

「で、でも」


 アシュリーが振り返る前に、マナヤはヴァルキリーへ視点を移した。


「さっき遊戯(ゲーム)に勝てなくて、不貞腐れちまったって話だがな。続きがあるんだ」

「続き?」

「あのあと史也(ふみや)兄ちゃんが俺を見かねて、やり方を教えてくれようとしたんだ。俺がまだ本当は、あの遊戯(ゲーム)をやりたくて仕方ねえことに気づいたんだろうな」


 あの時のことは、よく覚えている。


「でもよ。素直にゃなれなかった俺は、言っちまったんだ。『俺は史也(ふみや)兄ちゃんみてえに優秀じゃねえんだ』って、皮肉じみた感じでな」

「……」

「そん時、兄ちゃんに言われたんだよ」

「なんて?」

「『なら、優秀になれ』ってな」


 アシュリーが絶句しているのがわかった。


「……そ、それはちょっと、乱暴じゃない?」

「まあそう聞こえるよな。でもな、史也(ふみや)兄ちゃんはこう続けたんだ」

「?」

「『優秀な人間ってのは、最初からなんでもできる人のことじゃない。できないことを、できるようになれる人のことをいうんだ』って」


 じっと、アシュリーとシャラが聞き入っている気配。


「だから兄ちゃんは、モンスターのステータス表を覚えさせるところから始めてくれた。まずは、『何がわからないのか、わかるようにするために』ってな」


 今なら、わかる。

 自分は当時、自分のプレイの何がダメなのか、なにがわかっていなかったのかすら、わかっていなかった。


「んで、ステータスを覚えて。その次に、色々なテクニックも教え込んでくれた。……そしたらいつの間にか、自分でも憶えられた、『自分でもできた』って感覚が積もってきて、だんだん自信がついてくるのがわかった」


 だからこそマナヤは、この世界の召喚師たちにも同じ教え方をした。

『最初は基礎からでもいい。〝自分でもできた〟って経験を増やしていけばいいんだ。それが積み重なって、自信へ、そして本当の優秀さへと繋がっていくのさ』

 まずは、簡単なことから()()()()を積む。

 そうすることで、おのずと自身というものはついてくるのだと、自分の経験を基にして。


「――だからよ。俺もまず『この世界のステータス表』を覚えることにする」

「この世界の?」


 アシュリーの、戸惑うような問い。

 マナヤは苦笑し、再度自分へ視点を戻して振り返った。


「この世界にどんな風習があるのか。どんな価値観や倫理観があるのか。まずは、それを覚える。この世界で自信も実績もなかった召喚師たちに、ステータス表を覚えさせたのと同じようにな」


 この世界に馴染めなかった理由。

 それは、前世の世界をばかにされたことにいら立っていただけではない。そもそも『何がわからないのか』すら、わかっていなかったからだ。


「だからアシュリー、お前にも手伝ってもらいたいんだ。お前のお墨付きがもらえりゃ、俺は自信を取り戻せる」


 まっすぐ、彼女を見つめる。

 しかしアシュリーは、目を伏せてしまった。


「で、でも。あたしは、あんたの世界に合わせた接し方なんて、何も」

「勘違いすんなよ」

「え?」

「感謝してるって言ったろ。軽口叩けて、気軽に接せる関係ってのは、俺の世界でも大事なモンなんだ」


 底抜けに明るい笑みを、アシュリーに向けてみせる。


「お前にまで遠慮されちまったら、俺はどうすりゃいいんだよ?」

「……!」


 アシュリーの顔に、喜色が浮かぶ。が、すぐにまた曇って。


「……あんたは、それでいいの?」

「あ?」

「だって。この世界の勝手な都合で、勝手に呼び込まれて、その、記憶まで」


 怯えに震えながらも、尋ねるアシュリー。

 それに対し、マナヤは目を瞑ってふっと笑ってみせた。


「いいんだよ。俺が腐ってたって、どうせ俺とテオが死ぬだけだ。だったら、あがいてやるさ」

「……っ」


 それを聞いて、はっと顔を上げるシャラ。

 アシュリーも、嬉しそうな表情が戻る。


「……ありがと、マナヤ」


 そう、震え声で小さく呟いていた。


「それにな」

「……それに?」

「いざとなりゃ、テオの中で不貞寝するって逃げ道だってできたしなァ?」


 などと、目を開き揶揄(からか)うような笑みを作ってみせたマナヤ。

 真ん丸の目をこちらへ向けたアシュリー。

 しばし、風を切って翔ける音だけが響く。


 そしてアシュリーは、ぷはっと噴き出す。



「――最低の発想ね!」

「ほっとけや!」



 マナヤとアシュリーが、不敵な笑みを交わし合った。


「……」


 そんな二人の会話を聞きながら、少し考え込むシャラ。そして、意を決したように口を開く。


「あの、マナヤさ――」

「おっ、見えてきたぞ!」


 しかしマナヤの言葉に遮られる。

 前方に、ようやく部隊のようなものが見えてきた。


「……えっ? ちょ、何アレ!?」


 アシュリーが素っ頓狂な声を上げ、その先を見つめる。


 部隊のさらに奥。

 何か白い巨体が、蠢いていた。

 見た目はまるで、青みがかった白いブラキオサウルス。しかしその全身は見るからに頑丈そうな甲殻に覆われている。さらにその背から生えているのは巨大な、結晶のように硬質な一対の〝翼〟。


「マジかよ。まさか、いきなりアレに出くわすか」

「え、アンタあれ知ってるの? マナヤ」


 アシュリーが驚いて問いかける。


「ああ。あれがこの世界じゃ中々出会えないっていう、レアモンスター」


 前方の白いモンスターが咆哮を発し、巨体に比してやけに小さい頭から――



「最上級モンスター。『フロストドラゴン』だ」



 ――猛烈な氷のブレスを吐き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] フミヤからの教えを村の召喚師に託したのか
2024/05/19 11:41 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ