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召還された召喚師  作者: 星々導々
第一章 転生者の降臨・消滅・そして再臨
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30話 迫りくる危機

 翌日の昼。

 テオとアシュリーは、それぞれ大きな麻袋を抱えて歩いていた。


「あの、すみませんアシュリーさん。食糧の受け取りまで手伝ってもらって」

「いいのいいの。監視も頼まれちゃったし、ついでみたいなもんよ」


 中央広場にある食糧保管庫。そこから数日ぶんの食糧を受け取って家に戻る道だ。

 気まずいテオだが、アシュリーの方は純粋な笑顔。


「……僕、監視されるような人物になっちゃったんですね」


 荷物を抱え歩きながらも、しゅんとしてしまうテオ。

 南の方角を意識してしまった。


「まーしょうがないでしょ。あんた……じゃ、ないんでしょうけど、この村をかなり引っ掻き回しちゃってたからね」

「そう、みたいですね」


 曖昧に笑うテオ。

 会話が途切れそうになってしまったが、アシュリーがまた明るく声を張り上げる。


「今朝、出発していったみんな。何事もなく帰ってこれるといいわね」

「え、えと。そうですね」


 今朝。

 騎士隊の皆に召集を受けた村人の多くが、騎士に同行し南へと進軍していったのだ。

 村に残っているのは、東西南北各方面を担当する最低限の人数。また、パトロールチームが村周りの森を周回し、警戒を強めている。


「まあ、あれだけの数で行ったんだし。騎士隊長さんもかなり腕が立ちそうだから、なんとかなるでしょ」

「……はい」


 どうにも返事を言いよどんでしまうテオ。

 なぜ、彼女がこんなにもにこやかなのか、わからない。かといって顔を見てしまえば、また勝手に感情を見てしまって、アシュリーから顰蹙を買うかもしれない。

 彼女とどう接していいか、わからない。


「……テオ。いい機会だし、はっきり言っとくわ」

「え?」

「あたし、本当にあんたに怒ってるわけじゃないのよ」


 アシュリーの笑みが、少し曇った。


「あんたが悪いわけじゃない。そんなことは、わかってる」

「……」

「あたしが怒ってるのは、自分自身に対して」


 まただ。

 彼女の表情から、ある感情が見える。

 マナヤがいなくなったと知った時、そして先日テオに八つ当たりした時の感情と、同じ。


(……〝無力感〟)


 テオ自身が抱えている感情と、同じ。荷物を抱える自分の手が強張った。


「だからさ。本当に気にしないで。あんたとあんまりギスギスしたくないわ」


 気を取り直すように、アシュリーはさわやかに笑ってみせている。


「わ、わかりました。けど、どうして僕なんかに」

「ほら、そういうとこよ」

「え?」

「召喚師さんたちはみんな、そうやって自分を卑下してたわ。あたしは、そんな召喚師たちの力になりたいの」


 息を呑むテオ。

 思わず足が止まってしまった。


「それが、今のあたしにできることだから」


 沿う言ってアシュリーは軽くウインクし、すたすたと先へ進んでいってしまう。


(アシュリーさんは、どうして)


 きっと彼女も、ひどく悲しんだはずだ。自分を呪ったはずだ。それでもなお、彼女は自分を律している。

 なぜ、そうも強くなれるのだろう。




「ただいま、みんな」


 自宅についたテオは、家の前に食糧の入った麻袋を置いた。


「おかえり、テオ。ごくろうさま」

「テオ! おかえ――」


 母とシャラが出迎えてくれる。

 しかしシャラは、隣にいるアシュリーに気づいて言葉が途切れた。


「ああテオ、戻ったか。アシュリーさんもすまないね」

「いえ、気にしないでください。さすがにお昼の間まで張り付いたりはしませんよ」


 遅れて出てきたスコットが、アシュリーを気遣うように笑顔を見せる。

 しかしアシュリーもまた笑顔でひらひらと手を振った。


「じゃあ、急いでお昼の支度するね」


 さっそく袋をごそごそとあさるテオ。

 だが、アシュリーが驚きに目を丸くした。


「へ? テオ、あんたがご飯作ってるの?」

「あ、は、はい。両親とシャラにはお世話になったので、その恩返しに」

「ふーん……?」


 不思議そうに、じっとこちらを見つめてくるアシュリー。

 見透かされそうな気がして、思わず目を逸らしてしまった。「まあ、いいわ」とアシュリーは自分のぶんの麻袋を抱え直した。


「それじゃああたし、ちょっと離れた所でお昼食べときますから。あとでまた――」



 ――ドウッ



 轟音とともに、南から立ち昇る光の柱。


「黄緑! テオ、行くわよ!」


 いち早く反応したアシュリー。

 袋を地面に投げ出し、すぐさま駆け出していく。


「わ、わかりました!」

「テオ、大丈夫なの!?」


 テオもすぐさま立ち上がった。シャラが、心配そうにテオの肩に触れる。


「大丈夫だよシャラ。南に近いのは僕達なんだから、僕が行かないと」


 防壁の外ということは、おそらく村の外を哨戒しているチームのものだろう。一時的に村の人数が少なくなった時などに、モンスターの接近をいち早く察知するための処置だ。


「……気を付けて」


 きゅ、祈るように手を握りながら、シャラが精いっぱいのエールを。


「ま、待てテオ! それなら私も――」

「父さんは村の最後防衛ラインでしょう! もしモンスターが侵入してきたら、父さんが母さんやシャラを守るために頑張ってくれないと!」


 戦えないサマーを守るためにと、父が常日頃から自分で言っていたことだ。スコットにはスコットの持ち場がある。

 悔しそうに、父は歯噛みしていた。


「く……本当に、無茶はするんじゃないぞ」

「わかってる」


 そう頷き、テオはすぐさまアシュリーの後を追って走った。



 ◆◆◆



 門を出て、森の中を走っている間。


(おかしい)


 テオは、前方から誰も来ないことに違和感を覚えていた。


(どうして、パトロールチームの人たちが防壁側に戻ってこないの?)


 哨戒(パトロール)の目的は、あくまでもモンスターの接近をいち早く知るため。モンスターを発見したからには、防壁まで引いてそこで戦うのが鉄則だ。

 だがテオは誰とも鉢合わせぬまま、もうすぐ救難信号の発射地点に辿り着いてしまう。


「――【ライジング・アサルト】」


 少し先から、アシュリーの声。

 目を凝らせば、彼女の赤い影が前方の空を舞っていた。

 空中を飛ぶ黒い影……飛行モンスターを斬り倒している。


(ライジング・アサルト……跳び上がって空にいる敵を斬る、剣士の技能(マーシャルクラフト)


 チーム戦なら、飛行モンスターは弓術士や黒魔導師が相手するのが基本のはず。

 では、なぜアシュリーが。


「【ドロップ・エアレイド】」


 アシュリーは直後、急降下攻撃を放つ技を。

 赤い影が、森の中へと落下していくのが見えた。


(あそこで、まだ戦ってるんだ)


 なぜ、防壁に引こうとしないのか。

 テオは、息を切らしながらもスピードを上げた。





「……これは!」


 辿り着いたテオは、周囲の状況に思わず目を見開く。

 アシュリーは、パトロールチームの剣士と建築士と共に、必死にモンスターたちを抑えていた。


「【ヴァルキリー】召喚、【行け】!」


 すぐさま上級モンスターを召喚し、突撃させる。

 そして、チームが後退しない理由も察した。


(そうか。負傷者を抱えては逃げられないからだ)


 パトロールチームの者が三人ほど、手前に倒れている。白魔導師、召喚師、そして弓術士。後方から奇襲を受けたのだろうか。死んでいるわけではないようだが、ぐったりしていて意識がない。


(その上、封印要員もいなくなっちゃった)


 そして相手は、骸骨戦士の大軍。その中に何体か、別の中級モンスターが混じっているのも見える。

 骸骨戦士『スカルガード』は、下級モンスターながら厄介な特性を持つ。倒しても、三十秒ほどで瘴気紋から勝手に復活してしまうのだ。

 復活を阻止するためには、三十秒がたつ前に封印するしかない。だが、肝心の封印要員である召喚師がやられてしまった。


「【バニッシュブロウ】」


 前線のアシュリーがそう叫ぶ。

 彼女の持つ剣の、刀身が光った。

 紫色の金属の体を持つ中級モンスター『牛機VID-60(ヴィドシックスティ)』が吹き飛ばされる。威力よりも、敵を突き飛ばして遠方へと押し出すことに重きを置いた技能だ。


「く……アシュリー殿! もはや範囲魔法を使うマナがない!」

「わかってる! とにかくここは数を減らして、それから負傷者を抱えて後退しましょ!」


 後方に唯一残った男性黒魔導師の報告に、アシュリーが叫び返す。

 テオが追いついてきたことにも気づいたようで、こちらにも目を向けた。


「テオ、聞いたわね! スカルガードの封印、頼んだわよ!」

「は、はい! 【封印(コンファインメント)】」


 すぐさま、スカルガードの瘴気紋へ手をかざす。

 黒い瘴気紋が金色に変色し、テオの手へ吸い込まれていった。


「――ぐうッ!」


 と、そこへ黒魔導師のうめき声。

 振り返れば、人の頭よりも一回り大きいサイズの黄色い甲虫、『イス・ビートル』が。

 黒魔導師がなんとか受け止めている。腕につけた、木製の小さな盾で。

 が、勢いに負けたのだろう。地面に倒れこんでしまっている。


(まずい、ヴァルキリー……は、呼び戻せない!)


 まだ、ヴァルキリーは前線で戦っている。

 うかつに呼び戻せば、アシュリー達が危ないかもしれない。


「くっ、【スカルガード】召喚! 【行け】っ!」


 咄嗟にテオは召喚。

 自身が召喚したスカルガードも復活能力を持つため、長期戦で戦線を維持するのに便利。学園の教官からの教えだ。



『――慌てて召喚するんじゃない。相性を考えるんだ――』



(っ! こんな時に!)


 またしても、頭に勝手に響く声。

 テオはそれを抑え込もうとする、が。


「あっ!」


 モンスターの消滅音。

 テオのスカルガードは、あっさりと倒されてしまっていた。

 敵イス・ビートルにはほとんど傷がついていない。


(しまった!)


 甲虫のような体を持つイス・ビートルは、斬撃攻撃がほとんど効かない。

 剣で攻撃するスカルガードとの相性が良くなかったのだ。


「まったく、もうっ!」


 アシュリーが咄嗟に身を翻していた。

 黒魔導師を襲った甲虫のもとへ、一気に駆けこむ。


「【シフト・スマッシュ】」


 アシュリーが声を張り上げる。

 彼女の剣にオーラがまとわりつき、その光が斧の形状を象った。

 斧状のオーラを纏った剣を叩きつけられたイス・ビートル。甲羅をひしゃげさせながら木に激突し、瘴気紋を残し消滅する。


 シフト・スマッシュ。

 剣士の『技能』の一つで、剣撃を〝打撃〟へと変換する技だ。


「テオ、封印!」

「は、はい! 【封印(コンファインメント)】」


 アシュリーに催促され、すぐにイス・ビートルを封印する。

 が、彼女は前方を指さして叫んだ。


「そっちじゃない! スカルガードの方よ!」

「あ、す、すみません! 【封印(コンファインメント)】」


 慌てて、前線の瘴気紋を封印へと走るテオ。



『――目先ばかりじゃなく、自分の立ち位置も確認しないと危ないぞ――』



(だから! こんな時にやめろっ!)


 またしても声が頭に浮かび、テオは目を閉じてそれを追い払おうとする。

 しかし――


「――うわあああっ!?」


 目を瞑っていたため、すぐ近くにあった急斜面に気づかなかった。

 足を踏み外してしまい、体が急斜面へと吸い込まれる。


「テオ!? まずい、もう一度救難信号を――」


 慌てるアシュリーの声。

 それが遠ざかるのを聞きながら、テオはそのまま斜面を転げ落ちていってしまった。





「う、ぐ」


 一番下まで転がり落ちたテオが、呻く。

 なんとか体を起こし、斜面を見上げた。


(しまった。この場所、この危なっかしい谷があるの、忘れてた)


 剣士ならともかく、自分がここを這い上がるのは無理だ。

 ここをさらに南下すれば、もっと斜面が緩やかな場所がある。上へ戻るには、そちらへ向かうしかない。


「……え?」


 悪寒。

 膨大な数の何かが、蠢くような音。

 テオは、おそるおそる背後へと振り返った。


 がさがさと、何かが森と藪をかきわける。

 それが一気に近づいたかと思えば、すぐ姿を現した。



「な――」



 おびただしい数のモンスターたち。

 黒い瘴気を放ちながら、テオへと近づいてきていた。


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