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召還された召喚師  作者: 星々導々
最終章 世界に願いを
254/275

254話 邪神の器 触媒の対処

「【フレアドラゴン】召喚ッ、【次元固化(ディメンションバリア)】!」


 マナヤは手をかざしながら叫んだ。

 召喚紋が、迫りくる巨大肋骨を受け止める。中から現れたフレアドラゴンは即硬直し、無敵化して肋骨のさらなる侵攻を防いだ。


《――この世界には、『異の貪神』によってもたらされた四つの『核』が、大陸四方に散らされていた――》


 邪神の器を操りながら、トルーマンは緑色の顔をにやりと歪めた。


《――そしてその四つの『核』は、人間の魂を充分に吸ったことで、この地にあった神殿へと集結した。その『核』を使い、私は今しがたモンスターを凝縮した触媒を四体、作ったのだ――》

「触媒、だと!?」


 肋骨の攻撃を避けながら、マナヤはトルーマンの顔を見上げた。

 触媒。

 パトリシアから聞いた、モンスターの上半身だけが生えていた塊のことだろうか。


《――そう。『異の貪神』がこれまで食らってきた四つの世界、そこそれぞれに存在していたモンスター達で固めた触媒を、な――》

「!」


 ハッと顔を上げるマナヤ。

 直後、背後から肋骨群がぐわっと襲い来る。それがマナヤとアシュリーへと叩きつけられる前に……


「【リベレイション】!」


 シャラが錫杖を振り抜いた。

 透明な衝撃波で、肋骨群を押し返す。


「マナヤ! ドゥルガーお願い!」


 アシュリーの声に、マナヤはバッと手のひらをそちらへ向けた。


「【ドゥルガー】召喚!」

「ふっ!」


 アシュリーは、召喚されたドゥルガーにすぐさま飛びついた。

 無数の腕のうち一本を取る。巨大な剣を把持しているその腕を自身も握りこみ、キッと上を睨みつけた。

 真上から、マナヤ達三人を押しつぶさんと肋骨が迫ってくる。


「【ペンタクル・ラクシャーサ】! ……あぐっ!」


 上方へと跳び出し、ドゥルガーを叩きつけたアシュリー。

 しかしあっさりと弾かれた。肋骨の勢いを削ぐことすら叶わず、彼女はドゥルガーごと地面に叩きつけられる。


「くそ! 【フロストドラゴン】召喚、【次元固化(ディメンションバリア)】!」


 代わりにマナヤが真上へ手をかざした。

 白い竜が空中に固定される。こちらを叩き潰さんと迫ってきた肋骨を、ガキンと止めた。

 悔しそうに顔を歪めるアシュリー。


「く……あたしじゃ、コイツの攻撃を食い止めることもできない!」


 この『邪神の器』は今、全身が金色の召喚紋で守られている。

 攻撃してくる肋骨も同じ。召喚紋でガードされた状態のまま、無敵状態の攻撃を振るってくるのだ。こちらの攻撃で相殺するようなことはできない。


 マナヤは次元固化(ディメンションバリア)で、そしてシャラもリベレイションで、肋骨を防ぐことだけはできる。

 しかしアシュリーにだけは対抗手段がないのだ。

 彼女の最大火力――つまり、モンスターを武器代わりに放ったペンタクル・ラクシャーサですら、ああやって召喚紋のバリアで防がれてしまう。


《――これで、わかったろう。貴様らがどれだけあがこうが、無駄だということが――》


 トルーマンが嘲り、マナヤ達を憐れそうに見下ろした。


《――もはや貴様らは、この空間から出ることは叶わぬ。触媒を破壊する手段はない。完全に守られた私の体に、ただただ押しつぶされるがいい――》

「――へっ」


 が、マナヤは不敵に笑った。


「だったら簡単じゃねえか。俺たちは、ただ待ってればいいんだからな」

《――なに?――》


 眉をひそめるトルーマン。

 マナヤは自信満々に彼を見上げ、挑発的に吠えた。


「要は、外のやつらがその『触媒』とやらを倒してくれりゃいいだけのことだ! 俺たちはここでひたすら耐えてるだけでいい! みんなが触媒を破壊して、お前のそのバリアが剥げた後に畳みかければ済むんだからな!」

《――ふん、戯言を――》


 トルーマンは鼻で笑った。


《――今の私にとって、脅威となるのは貴様ら五人だけだ。外の連中ごときに、触媒を破壊することなどできるものか――》

「できるさ」


 マナヤは、迷いすらせず言い切る。


「一つ言っとくぜ、トルーマン。俺たちはな、自分達だけで英雄になろうとなんざ、思っちゃいねえんだよ」

《――なんだと――》

「お前は、過小評価してる。俺たちが指導してきた人間たちのことを」


 最初にマナヤが教えた、カル達セメイト村の召喚師。

 ティナをはじめとしたスレシス村の召喚師たち。海辺の開拓村で熱心に勉強したコリィや召喚師候補生たち、現地の召喚師たち。

 跳躍爆風(バーストホッパー)の制御に精通したパトリシア達、ブライアーウッド王国の者たち。そして、モンスターとの連携戦術を独自に進化させてきたこのデルガド聖国の村人たち。


「英雄は、俺たち五人だけじゃねえ。俺たちが指導してきた、出会ってきた人たちは皆、それぞれの分野でなら俺を凌ぐくらいの腕前を身につけてきたんだ」

《――……――》

「人間なめんな、トルーマン! 俺たちは外の奴らを信じてる! 触媒を倒すくらい、あいつらは俺なしでも楽勝でできるんだよ!」

《――何を言うかと思えば、くだらん――》


 トルーマンはおめず臆せず、さらに大きく肋骨を左右に広げた。


《――信じることができるのは、己自身のみだ。自分以外を信じる必要などない――》

「なに言ってやがる。お前だって自分以外のヤツらと徒党を組んで、召喚師解放同盟を作り上げたんじゃねえか」

《――ふん。あの、役立たずと裏切り者どものことか――》

「……なんだと?」


 ピクリと眉を揺らしたマナヤ。

 トルーマンはくだらないものを見つめるかのように目を細めていた。


《――私が徒党を組んだのは、あくまでも利用するため。たとえ役立たずであろうが、おだてて数を集めさえすれば、少しはマシになるだろうと考えてのことだ――》

「……役立たず、だと」

《――現に、ジェルクは貴様を殺しそこねた。ダグロンですら結局はまともにディロンらを引き留めることもできなかった。役立たずの名が相応しかろう。死んで当然だ――》


 マナヤのみならず、アシュリーとシャラも茫然とトルーマンを見上げていた。

 いつのまにか、攻撃の手も止まっていた。トルーマンは自身に酔うかのようにギチギチと肋骨の翼をかざし、今度は憎々しげに眉間にしわを寄せた。


《――そして、裏切り者のヴァスケスは最低のクズだ――》

「なッ」


 顔色を変えるマナヤ。


《――違うか? 奴は、私が助けてやった恩を忘れ、貴様にこの場所へ侵入する方法を教えた。この『異の貪神』の器が全てを教えてくれたぞ――》

「……」

《――私が作り上げた召喚師解放同盟の目的を貫くことができぬばかりか、敵に塩を送るとはな。見下げ果てた男だ――》

「……ヴァスケスは」


 底冷えするような自分の声に、自分でも驚いた。

 マナヤは顔を伏せたまま言葉を続ける。胸の奥につっかかる不快感を抑え込みながら、血が滲みそうなほど拳を握りこんでしまっていた。


「ヴァスケスの奴は、最後までお前の敵討ちをしようと、全力で俺との一騎討ちに臨んだんだぞ」

《――ふん。それで返り討ちに遭ったのだ。裏切り者には当然の末路よ――》

「お前を実の父より父らしいと慕って、自分にできる限りのことをしてお前に尽くしてきてたんだろうが! ちったあアイツを労ってやろうとは思わなかったのかよ!」

《――私にとっては、多少は使える駒だったというだけのこと。労ってやる価値もない――》

「ハッ」


 マナヤは顔を上げた。シャラがぎょっと顔を強張らせる。


「マ、マナヤ、さん?」


 マナヤは唇に弧を描いている。

 しかしそこには喜びも嘲りもなく、ただただ怒りだけが満ちていた。アシュリーも驚いたような顔でマナヤをまじまじと見つめている。


「今、はっきりとわかったよ、トルーマン。お前が俺に勝てなかった理由が」

《――この期に及んでなにを――》

「ヴァスケスの方が、よっぽど強敵だった。お前は、あいつの足元にすら及ばねえよ」


 ざわ、と翼のように広げた肋骨群が蠢いた。


《――くだらぬ負け惜しみなど聞かぬ! 強がりもそこまでにして、そろそろ死ね!――》


 ぎょろりと、『邪神の器』の頭部が動いた。

 バラのような頭をこちらへ向ける。その花弁の中に黒い弾が生成されるのを見て取り、マナヤはすぐさま手をかざした。


「【サンダードラゴン】召喚ッ、【次元固化(ディメンションバリア)】!」


 再び召喚される飛竜。

 邪神の器の頭部へと高速で飛び込んでいく。そのバラの手前まで到達した辺りで、無敵化魔法を受けてキンと固まった。直後、爆炎が硬直したサンダードラゴンに炸裂する。


「シャラ! 左頼む!」

「はい! 【リベレイション】!」


 シャラが左へと錫杖を薙いだ。

 肋骨群を透明な衝撃波で押し返す。マナヤもまた、後方に残してきた竜を送還(バウンス)で回収しつつ、右から迫る肋骨群を受け止めるべく再召喚。


「マナヤ、危ない!」


 アシュリーが上を見上げながら叫んだ。

 肋骨群が、刃状にバラけた。固めたフレアドラゴンの上を回り込むように曲がりくねり、マナヤを真上から刺し貫かんと風を切って迫る。


「チッ――」

「【ライジング・ラクシャーサ】!」


 アシュリーが、ドゥルガーごとその刃へと突っ込んでいった。

 ガギン、と金属音のような音が響く。ドゥルガーはあっさりと弾き飛ばされ、アシュリーもまたきりもみ回転しながら地面に叩きつけられた。


「か、はっ」

「アシュリー無茶すんな! 【トリケラザード】召喚、【次元固化(ディメンションバリア)】!」


 マナヤは自分の真上へ手をかざし、甲殻を持った緑色の恐竜のようなモンスターを召喚して触手を受け止める。


〈アシュリーさん! 【ディスタントヒール】〉


 すぐさまテナイアの声が響いた。

 アシュリーの身体を白い光が包み込み、打ち身を含めた傷の数々を治療していく。


《――ふん、マナを無限に使えるくらいで、私の攻撃を凌ぎきれるつもりか! 食らえ!――》


 トルーマンの怒声と共に、巨大な背骨が振動し始めた。

 悪寒。

 マナヤとシャラが反射的に飛び退こうとした瞬間、背骨を中心として衝撃波が広がった。地面に転がっていたドゥルガーを一瞬で粉砕し、そのままマナヤとシャラへと迫っていく。


「な――」

「危ないっ! 【エヴィセレイション】!」


 反応が遅れたマナヤ達の前に、アシュリーが飛び込んできた。

 自前の剣を縦に振るう。マナヤとシャラの眼前まで迫った衝撃波は叩き斬られ、左右に分断し後方へと流れていった。斬った対象を断裂させる、剣士の技能だ。


「ッ、すまんアシュリー、助かった!」

「役目があって何よりよ! アイツ、あんな攻撃まで使えたなんて……!」


 アシュリーが不敵に笑いつつ、目を細めた。

 邪神の器全体を支えている、あの極太の背骨。何の役割も持たなさそうだったあの背骨も、周囲に衝撃波を放つ技を持っていたのか。それも、伝承系の最上級モンスターを一撃で消し飛ばせるほどの威力の。


「よし、俺とシャラは肋骨を受け止めるのに専念する! アシュリー、お前はあの衝撃波をなんとかしてくれ!」

「わかった! それでマナヤ、実際のとこどうなの!?」

「あ!?」

「外のみんな! ホントに、その触媒とかなんとかを倒せると思う!?」


 油断なく剣を構えながら問いかけてくるアシュリー。

 マナヤは、安心させるように笑った。


「心配すんな。この野郎の言い分が本当なら、どうとでもなる」

「え? どういうこと?」

「さっきこいつ、言ってたろ。『四体の触媒は、邪神が食らってきた四つの世界にいるモンスターで固めてる』って」


 アシュリーが無言で首を傾げてくる。

 苦笑しながらマナヤは説明した。


「四つの異世界にいるモンスター……つまり、『伝承系』『機甲系』『精霊系』『冒涜系』の四系統のことだ。要するに四体の触媒とやらは、各系統ごとのモンスターだけで纏まってるんだよ。伝承系だけのモンスターで固められた触媒、機甲系だけで固められた触媒、ってな感じにな」

「そ、それが、どうして『どうとでもなる』の?」

「モンスターの系統にゃ、それぞれに特徴があるんだ。系統がごちゃ混ぜになってたら厄介だったろうが……系統が統一されてるんなら、いくらでもやりようはある。たとえば」


 マナヤは、トルーマンの攻撃にも目を光らせながら続けた。


「冒涜系のモンスターにゃ、総じて『闇撃』や『冷気』に耐性を持ってるモンスターがいねえ。一気に纏めて倒したけりゃ、その二属性で攻めりゃいいってコトだ」

「え、それじゃあ……」

「ああ」


 何かに気付いたようなアシュリーへ、頷きかけて見せる。


「シャドウサーペントか、()()()()()()()()。広範囲ブレスを使えるこの二種のどっちかがありゃ、だいぶ戦いが楽になる」

「!」

「冒涜系に亜空モンスターが多いからって、『秩序獣与(ブレスド・ブースト)を使わなきゃだめだ』みてえな先入観に惑わされでもしない限り、充分に勝機はあるってこった!」



 ◆◆◆



 その頃、件の『冒涜系』のモンスターが固まった塊と戦っている村。


(ど、どうしよう)


 先刻、()()()()()()ゴン()()()()()()()()()パトリシアが、途方に暮れていた。


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