202話 最上級の後継者
二日後の昼下がり。
セメイト村の防壁の上に、テオは立っていた。
「【小霊召集】」
後ろへ手をかざし、呪文を唱える。
その先にいるのは、防壁の内側……つまり村の中に配置された、小人のようなモンスター。
四大精霊の一種『ノーム』だ。
ノームの周囲に、光の粒子が集まっていく。
その粒子が、ノームの力を後押しした。小精霊を集結させて四大精霊の攻撃を援護させる補助魔法『小霊召集』の効果だ。
手にした小さな杖をかざしたノームは、闇撃の波動を放った。
「――いいぞ、テオ君! 一体倒せた!」
テオの隣に立っていた弓術士がニッと笑った。
例の『防衛機構』の内部で、野良モンスターがまた一体『瘴気紋』へと還る。テオはすぐさま、その瘴気紋を封印した。
「【応急修理】!」
もう一人の召喚師が、防衛機構の中へと手をかざしていた。
カルだ。
防衛機構の最奥に配置されていた、猫型の機械モンスター――『猫機FEL-9』の体を、光が包み込んだ。野良モンスターにタコ殴りにされ損傷していたその機械の体が、修復していく。
(順調だ! やっぱりこの防衛機構、すごく安全に戦える!)
テオは、油断だけはせぬように心がけつつも、ほおっと息をついた。
この防衛機構は、外の野良モンスターを『細い通路』へ招き入れる構造だ。
外からは、細い入口が一つ空いているのみ。その入口から防衛機構内部へと入ると、『コ』の字に折り曲がった細い通路に繋がっている。最奥部に、敵を引き付ける『猫機FEL-9』が一体だけ配置されていた。
野良モンスターを『渋滞』させる構造だ。
防衛機構には、天井がない。
ゆえに真上は開いており、壁の上に立ったテオは、内部を見下ろすことができた。この上から弓術士や黒魔導師、そして召喚師の射撃モンスターなどが内部へと攻撃できるという寸法だ。
「はっ!」
やはり防衛機構の上に立った年配の建築士が、気合を発した。
その途端、防衛機構の内壁が動く。壁から太く鋭い棘のようなものが飛び出し、入り込んできたモンスターを刺し貫いた。
「【ドロップ・エアレイド】」
さらに剣士が、通路内部へと飛び込む。
もう一体、モンスターを斬り倒した。敵陣の只中に飛び込んだ形だが、細い通路内ゆえ敵に囲まれることはない。
その時、弓術士が警告を発した。
「ジャックランタンが入ってきたぞ! 気をつけろ!」
皆が顔を引き締める。
テオは防衛機構の入口を見やった。オレンジ色のカボチャに、顔のような穴が彫られた化け物。爆発する火炎弾を放つ中級モンスター『ジャックランタン』だ。この村では出現頻度が高い。
年老いた建築士が叫んだ。
「ブレア、早く脱出しなさい!」
直後、彼が見下ろす女性剣士のすぐ横の壁に、大穴が空いた。
〝脱出〟。
女性剣士は、『作戦内容』をすぐ理解した。
「助かります!」
彼女は、ひらりとその大穴へと飛び込む。村の中へと戻れる避難経路だ。
直後、その穴はすぐに閉じられる。準備完了だ。
「今です、ティナさん!」
テオが後方へと振り返った。
その先にいたのは、この中では一番緊張した面持ちをしていた、赤毛ポニーテールの少女。
「は、はい! 【ヘルハウンド】召喚!」
少女はすぐさま、目の前に手をかざした。
召喚紋から、茶色い大型犬が出現する。伝承系の中級モンスター『ヘルハウンド』。機動力と火炎耐性が売りの召喚獣だ。
「【電撃獣与】、【跳躍爆風】!」
少女が二つの呪文を唱える。
ヘルハウンドの両前足を電撃が取り巻き始めた。
直後、破裂音を立てて前方へと大ジャンプ。入り口から入り込んできたばかりの敵ジャックランタンの『真後ろ』に着地した。
ヘルハウンドが、鉤爪を突き立てた。ジャックランタンのカボチャの体が裂け、ビクリと体が硬直する。
だが相手も反撃に移る。鉤爪を受ける度に動きが止まりつつも、振り向いてヘルハウンドを向かい口を開いた。その口の中に炎が灯る。
「【火炎防御】」
カルが、通路最奥の猫機FEL-9へと魔法をかけた。猫機FEL-9の体が、オレンジ色の防御膜に包まれる。
直後、ジャックランタンの火炎弾が炸裂した。
入口にいたヘルハウンドに直撃。爆炎はしかし、火炎耐性を持つヘルハウンドには全く効かない。だが爆炎は細い通路内部で炸裂したため、そのまま通路の奥へと一瞬で広がっていく。
(やった、うまくいった!)
テオが見下ろす中で、モンスターが炎に包まれていく。ジャックランタンの爆炎が、皮肉にも同じ野良モンスター達を焼いていっているのだ。
やがて爆炎は、通路最奥に達する。
が、そこに立っていた猫機FEL-9の触れた途端、爆炎の波は反射された。通路内を一度通り抜けていったはずの爆炎が逆走しはじめ、再度モンスター達を呑み込んでいく。
敵の攻撃方法と範囲の広さを利用した、同士討ち。
作戦は見事に成功だ。
「トドメだ! 皆、下がれ!」
黒魔導師が叫んだ。
防衛機構の壁の上に立っていたテオ達は、一斉に主防壁の上へと退避する。全員が戻ってきたところで……
「【ブラストナパーム】!」
黒魔導師が呪文を放った。
防衛機構の通路内で、爆発した。ジャックランタンの炎とは比べ物にならぬ炎が通路内を伝い、モンスターをどんどん焼き殺していく。その爆炎もまた、猫機FEL-9に達した途端に反射され、さらに威力を増幅させた。
爆炎が、ようやく収まったあと。
大量の焼け跡と、瘴気紋。あとは、入口付近のヘルハウンドと敵ジャックランタンだけが残った。どちらも火炎耐性があるので生き残ったのだ。
――バシュウ
そのジャックランタンも、すぐに消滅する。
電撃を帯びたヘルハウンドの攻撃を受け続け、とうとう倒されたのだ。
「よし、片付いたな。【封印】」
カルが、ひらりと防衛機構の壁へと飛び降り、瘴気紋の封印にあたり始めた。
テオとティナもそれに続く。
「こんな感じです。防衛機構を使った戦い方、なんとなくわかりました? ティナさん」
封印しながら、少女へと説明するテオ。少女も興奮気味に頷いた。
「はい。すごいです、この構造! ほぼ被害無しで安全に戦えるんですね」
防衛機構を見下ろし、感心したようにしげしげと内部を眺めている。
(ティナさん、頑張ってるんだな)
テオと同い年の、このポニーテールの少女。
彼女も召喚師だが、ここセメイト村の所属ではない。隣町にあたるスレシス村からの来訪者だ。かつてテオがその村を訪れた時に知り合い、召喚師の戦い方を教えたことがある。
彼女もまた、情報をスレシス村へと持ち帰るために派遣されてきた。
(お姉さんのケイティさんとも、仲は良好になれたみたいだし)
と、テオは感慨にふけった。
ティナは、血縁関係はないものの、ケイティを姉のように慕っていた。
もともと二人は、スレシス村の出身ではない。モンスター襲撃で故郷が滅ぼされてしまい、生き残ったのはその二人だけ。その後、スレシス村に移り住んできたらしい。
だがティナが召喚師として選ばれてしまった結果、一時二人は疎遠になった。が、テオらがスレシス村を救った結果、不仲は解消されている。
「ふむ、終わったか」
年老いた建築士が呟いた。
額を腕で拭い、そして皆を見渡す。
「すまんが皆、あとは頼むぞ。家内の体調が優れんので早く戻ってやりたい」
「ええ、奥さんを労わってあげてください。お疲れ様です、アリソンさん」
女性剣士が、気遣うように手を振る。
年老いた建築士は申し訳なさそうに頷いた。そのまま防壁の内側につけられた階段を降り、村内部へと向かっていく。
それを見送ったテオも振り返った。
「僕達も降りましょう。だいたいの要領はわかりましたか? ティナさん」
「はい」
ティナを促し、自身も防壁から村内部へと降りていく。周りの者達もぞろぞろとそれに続いた。
しかし、皆が降り終わったその瞬間。
――ビシ
岩が軋むような、大きな音が響く。
「え?」
振り返るテオ。
音は、背後の防壁からだ。大きくヒビが入り、それが広がっていく。先ほどの防衛機構内の戦闘で、防壁が弱っていたのだろうか。
ついに、それが崩壊した。
砕けるような音と共に、防壁の根本が折れた。そこから上の防壁がこちらへと倒れ込んでくる。
「わ――」
突然のことで、テオは反応できなかった。
周囲も同じだ。唯一動いたのは……
「【牛機VID-60】召喚っ!」
ティナだった。
彼女は、反射的に防壁へ向かって手をかざしていた。召喚紋が現れ、それが倒れ込んでくる防壁の一部を支え止める。
轟音を立て、傾いた防壁が止まった。
しかし召喚紋は、一瞬で消え去った。
防壁は再び支えを失う。再度、テオらの上へと倒れこんでくるが――
「【跳躍爆風】! 【次元固化】!」
ティナは続けさまに動いていた。
現れたばかりの牛型機械獣が、跳び上がる。傾いて倒れてきた防壁の一部思いっきりぶつかり、その勢いで防壁が少しだけ上へと押し戻された。
さらに直後、牛機VID-60は中空で動きを止める。
次元固化により、その空間に縫い留められたのだ。再び倒れこんでくる防壁は、それを支えにするように動きを止めていた。ギシ、と鈍い音が響く。
「今のうちです、建築士さんを呼んでください!」
叫ぶティナ。
一瞬遅れて、テオも周囲を見回しながら声を張った。
「ど、どなたか、建築士の人はいませんか!」
なにごとかと村人達が集まり始めた。
ぱたぱたと、近くの者たちが駆け寄ってきた。建築士たちだ。ティナの召喚獣が支えている防壁を見上げ、手をかざしながら元へと戻し始める。
「あ、危なかった。助かったよティナさん」
防壁を修復しながら、建築士の一人が安堵しつつそう告げた。
他の者たちもそれに続く。
「ありがとうね、スレシス村の召喚師さん。あんなこと、よくとっさにできたわね」
「いえ。私達は故郷で、召喚獣を災害救助に使う方法を模索してたんです。それが役に立ちました」
ティナは手を振りながらにこやかに返している。
(本当に、ティナさんがいなかったらどうなっていたか)
テオも胸をなでおろしていた。
生命力の高い召喚師である自分は、なんとか生き残れたかもしれない。が、特にか弱い黒魔導師や白魔導師らはどうなっていたことか。
黒魔導師も、感心したように呟いていた。
「災害救助に、召喚獣がそんなに役立つのか。まだそんな使い方が……」
そう言いながら、ティナの召喚獣を見上げ考え込み始める。
ティナは頷きながら、嬉しそうにはにかんだ。
「おかげで、スレシス村でも召喚師の評価はどんどん上がってます。戦い以外にも、召喚師は役立てるんだって」
スレシス村は元々、竜巻などの被害が多い。
ゆえに、村民らも災害の対応策などには精通していた。ティナの反応が良かった理由が伺える。
「それもこれも、テオさんのおかげです」
「――えっ?」
と、突然ティナが自分へと話を振ってきた。
急に、視線が自身に集まった。テオは皆の顔をキョロキョロと見比べながら、慌ててしまう。
ティナは、くすっと笑いながら言葉をつづけた。
「テオさんが最初だったんですよ。ほら、建築士さんの手が回らないところで、瓦礫の下敷きになった人たちを助ける方法を編み出したでしょう?」
「あ……あれ、か」
テオがスレシス村にいた時。
巨大な竜巻が村に迫り、崩れた家屋の中で大怪我をして閉じ込められた家族を、救ったことがある。それを皮切りに、閉じ込められた人々を救助する方法を皆に伝授したのだ。
「でも、僕がやったのは閉じ込められた人を脱出させる方法だよ。こんな、倒れこんでくる壁を瞬時に止めるなんて」
「それでも、テオさんが教えてくれたことが、私達の発想のヒントになったんですよ」
ティナが、満面の笑みを向けてくる。
「だから、ありがとうございます。テオさんのおかげで、私達は前に進めるんです」
「そ、そんな。それはティナさん達あっちの村の召喚師さん達が頑張った成果じゃないですか」
「お互い様ですよ。この村の皆さんだって、防衛機構を発明したんでしょう?」
「それに関しては村のみんなの功績かな。別に僕は役に立ってないから」
テオは、少し目を伏せた。
実際、あの防衛機構に関して自分達はノータッチだ。村を留守にしていた間に、セメイト村に残った召喚師達が考案したものである。
「いいじゃないですか、テオ君」
と、そこへ白魔導師が、笑いながら口を挟んできた。
「私達だってマナヤさんからモンスターの知識を教わらなきゃ、あの防衛機構は作れなかったんですよ?」
「そうだぜ、テオ。お前たちが伝えてくれた知識のおかげで、今の俺達があるんだ。もっと誇れよ」
さらにカルも後押ししてくる。
愛想笑いを返しながら、テオは無言で頷いた。
(……でも、それは『マナヤの功績』なんだ)
テオは、心の中に靄を感じていた。
もともと異世界で召喚師としての戦術を学ぶのは、テオの役目のはずだった。が、自分は早々に異世界生活にギブアップし、マナヤに後を託してしまっている。
それからというもの、セメイト村で苦労をさせてしまったり、『流血の純潔』を失ったり、アシュリーの実父を殺してしまったり。マナヤに苦労をかけてばかりだ。
「あ、そうだ」
マナヤの話で、一つ思い出した。
テオは、カルとティナの方へと顔を向ける。
「カルさん、ティナさん。ちょうどいい機会ですし、受け取って欲しいものがあるんです」
「うん? 受け取って欲しいものかい?」
「何ですか、テオさん」
揃って首を傾げるカルとティナ。
テオは、身振りで周りの皆をいったん下がらせた。そしておもむろに手を上空へと向ける。
「【譲渡】、【ワイアーム】【サンダードラゴン】」
テオがそう唱えると、上空へと無数の光の粒が舞い上がった。
燐光は、大きな二つの球体へと集束。その球体はそれぞれ、翼の生えた蛇、そして全身真っ青な飛竜の姿を内部に浮かび上がらせている。
ティナが驚きの声を上げた。
「えっ!?」
「な……最上級モンスターじゃないか!」
カルもまた、その正体をすぐに見抜く。
二人とも、球体を見上げながら目を白黒させていた。状況が呑み込めないようだ。
テオは微笑みながら頷いた。
「はい。……ティナさんとカルさん、マナヤからの贈り物です。この二体、お二人に差し上げます」
一瞬の硬直。
その後、ティナもカルも互いに顔を見合わせた。周囲の村人たちもどよめいている。
「えっ、でも、え? マナヤさんがコレを、私達に?」
なかば錯乱しながら、ティナが問いかけた。
テオはまず彼女へと語り掛ける。
「はい。まずはティナさん、今のティナさんならもう使いこなせるだろうって、マナヤのお墨付きが出ました」
ぽかんと口を開けたまま固まってしまうティナ。
「伝承系の最上級モンスター、サンダードラゴン。他の竜と違って味方に誤射する心配はありません。それほど扱いは難しくないはずですよ」
「え、えっと……でも」
まごついているティナ。
サンダードラゴンの攻撃方法は、一陣の稲妻を吐いて敵に叩きつけるもの。敵単体をピンポイントに射抜くことができる。シャドウサーペントなどの広範囲ブレスと違い、味方を巻き込む危険性は低いのだ。
「マナヤ、スレシス村の皆さんに偉そうな態度をしちゃったこと、ずっと後悔してたみたいなんです。だからこれ、お詫びだと思って受け取ってください」
テオがそう言うと、ティナは我に返ったように目をぱちくりとさせた。
いったんテオは、彼女から視線を外す。次は、カルだ。
「そしてカルさん。マナヤはカルさんにもお詫びがしたかったって言ってました。『例の件』で」
「……い、いや、そんなこともう良かったのに。そもそも、俺だってマナヤさんのこと傷つけちまったんだぞ」
カルもまた、おどおどしている。
マナヤがこの世界に来たばかりの時。
カルは、この村での生活を異世界と比べ文句を言うマナヤに対し、『ならさっさと異世界へ帰れ』といったことを言ってしまったことがある。その件でひと悶着あったのだが、今はマナヤとカルも仲直り済みだ。
「それに」
テオは、柔らかく微笑んだ。
「マナヤは、今のセメイト村所属召喚師の中でカルさんが一番『巧い』って言ってました。召喚獣の扱い方が」
「へ? マナヤさんが、そんなことを?」
「はい。だから、このワイアームをカルさんに託したいそうです。カルさんならきっとうまく使えるだろうって」
ワイアームは、巨大な空飛ぶヘビ。
攻撃方法は、敵に噛みついて毒牙から毒を流し込むというものだ。仲間を巻き込む心配がないという意味では、サンダードラゴンと同じだ。
ただ一つ、こちらには注意点がある。『リミットブレイク』だ。
サンダードラゴンと違い、ワイアームは物理攻撃型の最上級モンスター。ゆえにリミットブレイクが使える。
ワイアームのそれは、強酸の毒ブレスを吐くというもの。ゆえに周囲の味方を巻き込んでしまう可能性もあり、扱いには細心の注意を要するのだ。
(だからこそ、マナヤはカルさんに使って欲しいんだよね)
カルの今の腕前ならば、できる。
そう信じているのだろう。
ティナとカルは、再び顔を見合わせた。
まだ、戸惑っているようだ。最上級モンスターを保持できるということは、召喚師にとっては最高の栄誉。一体保有するだけで『王国直属騎士団』に誘われる理由にすらなる。その隊長格や副隊長格に任命されてもおかしくはない。
カルが、ようやく口を開いた。
「で、でも、テオ君とマナヤさんは? 最上級を二体も失くしていいのか?」
「いえ、そもそもこの二種は二体ずつ持ってるんです。だからマナヤも、お二人に分けたいって」
苦笑しながら、テオはそう答えた。
シャドウサーペントと同じだ。ダグロンと戦った際、この二種を何度も召喚してきたので、マナヤもそれらを倒してそれぞれ二体ずつ封印していた。うち一体ずつをカルらに渡したところで支障はない。
「それに、ですよ」
テオは、なおも空中に浮かんでいる球体を見上げながら、念押しするように言った。
「この二体は、空を飛べる最上級モンスターです。ですから……」
「あ! もしかして、乗って空を飛べるんですか!」
ティナが途中で割り込んできた。興奮気味の様子だ。一瞬遅れて、カルも気付いたように目を剥く。
テオは、微笑みながら二人へと頷いた。
「そういうことです。野良モンスターに空から攻撃を仕掛けることだけじゃない。自分が乗ったり、味方を乗せたり。ちょっと扱いに気をつけれなきゃいけませんが、移動手段としても使えるはずですよ」
通常の飛行モンスターは、人を乗せることはできない。
飛行モンスターは、大半が軽量だ。ゆえに、人を乗せるほど体格がなく、一緒に空を飛ぶことは不可能。
しかし、最上級モンスターであるこの二種は例外だ。巨体ゆえ積載能力も高く、人を背に乗せて飛べるだけの大きさと安定性がある。がんばれば十数人まとめて運ぶこともできるだろう。
カルが、緊張の面持ちで喉を鳴らした。
「……よし、わかった。そういうことなら、貰うよ」
「わ、私も、頑張ります」
ティナも、顔を強張らせながら頷いた。
それぞれ、手を上へとかざす。
光の粒子でできた二つの球体が、拡散を始めた。
二体の飛行モンスターの姿が掻き消え、粒子へと戻っていく。その粒子は、キラキラとカルとティナの手のひらへと吸い込まれていった。
すべての粒子を受け止めた二人。
ぐっとその手を握りしめ、顔を引き締めた。
同時に、拍手が鳴り響く。周囲の村人が祝福してくれているのだ。
「ありがとうございます、テオさん」
「ううん、お礼ならマナヤさんに言ってね」
テオは、照れながらも満面の笑みを浮かべているティナに、柔らかく微笑みかけた。
ティナも当然といわんばかりに頷く。
「はい、もちろんマナヤさんにも。今は、テオさんの中で眠ってるんですか?」
「うん。『共鳴』の訓練もしてたからかな、疲れてるみたい」
ここ最近、そういうことが多くなった。
テオもマナヤも、片方が表に出ていない時、もう片方は意識がなくなるということが増えたのだ。
(頭の中で互いに会話できるようになる前は、当たり前の状態だったんだけどな)
互いの意思を伝えられるようになってからは、『後ろ』に回って相手の行動を観察できるようになっていた。
しかし最近、マナヤはまた『眠る』ようになることが多くなった。テオもまた、それに引きずられるように。
「そうそう」
そこへ、カルが思い出したように口を挟む。
「マナヤさんとアシュリーさん、あの伝説の『共鳴』持ちになったんだよな」
ビクリ、とテオは体を震わせた。
それに気づかず、カルはなおも笑顔で言葉を続ける。
「この分なら、テオもシャラちゃんとそのうち『共鳴』に目覚められるよ。なあ?」
「そうだな。さらにテオ君らも『共鳴』を得ることができれば、これほど心強いことはない」
その場にいた黒魔導師も同調。
他の村人達も同じような反応をしていた。テオとシャラも『共鳴』に目覚めるだろうと、皆それを疑いもしていない。
(……なんとか、早く目覚めないと)
テオは、密かに手を握りしめた。




