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召還された召喚師  作者: 星々導々
第一章 転生者の降臨・消滅・そして再臨
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18話 感謝の言葉

「モンスターと人間の、共通点……?」


 そう言って首を傾げる少女に向かい、マナヤは得意げに説明を始める。


「お前らは知らねえみてーだが、モンスターにも人間みたくMP(マナ)があるんだよ。ま、生物モンスターと『亜空』モンスターに限るがな」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。もっとも俺たち人間と違って、攻撃のためにMP(マナ)を使ったりはしねえ。ただ〝持ってる〟だけだ」


 亜空モンスターというのは、普通の血肉とは違う特殊な肉体を持つモンスターのことを指す。エルダー・ワンやナイト・ゴーントなどの、冒涜系モンスターにおける明らかな異形が該当する。ひだやイボのあるゴムのような、気持ち悪い体表を持ってるのが特徴だ。

 なおナイト・クラブは冒涜系モンスターではあるが、生物である。


「人間はMP(マナ)がカラになっても疲れるだけだが、モンスターは違う。あいつらはMP(マナ)がゼロになると、生命力が尽きるのと同じように死んじまうんだ」

「知りません、でした……」

「あー、そうかもな。さっきも言ったが生物か亜空のモンスターに限るし、モンスターのMP(マナ)は俺たち召喚師と同じ速度で自然回復するからな」


 ちょっとやそっと精神攻撃を叩き込んだところで、時間経過ですぐ回復する。倒すためには、一気呵成に精神攻撃を叩き込み続けなければならない。

 おまけに、機械モンスターなどMP(マナ)が最初からゼロのモンスターには全く通用しない。だから、モンスターのステータスを知らないこの世界の人間には気づけなかったのだろう。


「だが、ナイト・クラブは特に保有MP(マナ)がやたら低いからな。ちょいと強めの精神攻撃を撃ち込めば、お前ら黒魔導師でも割と簡単に倒せるだろうぜ」

「そう、ですか。そうか、電撃耐性があるナイト・クラブは、闇撃が弱点だったっけ」


 少女が感心したように息を吐く。

 火炎の逆属性が冷気であるように、電撃にも逆属性がある。それが『闇撃』だ。精神攻撃とは、その闇撃属性の一種である。


「あ、あれ? じゃあさっきの黒い電撃は何ですか?」

「あ?」


 首を傾げた少女が再度問いかけてくる。指さしているのは、マナヤのヘルハウンド。


「さっき、そのヘルハウンドの爪に黒い電撃が纏わりついてましたよね。電撃獣与(ブリッツ・ブースト)がかかったヘルハウンドに、精神獣与(ブルータル・ブースト)を重ねて」


 精神獣与(ブルータル・ブースト)は、指定したモンスターに精神攻撃力を付与する補助魔法だ。


「電撃と精神攻撃は逆属性ですから、そんなことしたら打ち消し合っちゃうんじゃないんですか?」

「へえ、そういう知識はあるんだな」

「わ、私は黒魔導師ですから。『仲間が撃ち込んだ魔法の逆属性を重ねないように』って、厳しく指導されたんです。学園で」


 なるほど、と頷いたマナヤ。ニッと不敵な笑みを向けた。


「黒魔導師にも同じようなのがあるかは知らねえが、召喚師の電撃獣与(ブリッツ・ブースト)精神獣与(ブルータル・ブースト)にゃコンボがあるんだ。〝精雷コンボ〟っつうんだがな」

「せいらいこんぼ?」

「この二つを両方かけると、電撃獣与(ブリッツ・ブースト)の電撃威力が全部、精神獣与(ブルータル・ブースト)の精神攻撃力に変換されて上乗せされるんだよ」


 ヘルハウンドの一撃の攻撃力を『斬撃20点』とする。

 電撃獣与(ブリッツ・ブースト)をかけたなら、一撃の威力は『斬撃20点+電撃20点』に強化される。


 そこへさらに精神獣与ブルータル・ブーストをかけた場合、『精神攻撃20点』が追加される。

 が、ここでコンボが発生するのだ。

 電撃獣与(ブリッツ・ブースト)による電撃20点ぶんがすべて、精神攻撃へと変換。合計し、ヘルハウンドの一撃は『斬撃20点+精神攻撃40点』となるのである。


「ヘルハウンドに〝精雷コンボ〟をかけて、精神攻撃力を高めた。そこへお前さんの精神攻撃魔法がトドメになって、ナイト・クラブを瞬殺できたってわけだ」

「……あの。それってもしかして、私の魔法はいらなかったんじゃ?」

「そうでもねえよ。……ヘルハウンドのHP(生命力)を温存しときたかったんだ」


 少女から目を逸らし、じっと森の奥を睨みつけるマナヤ。

 視線の先の闇から、続々と獣のような足音が近づいてくる。


「ま、やっぱあの程度じゃ済まねえよな」


 さらに野良モンスターがやってきたのだ。 

 温存した甲斐はあった。ヘルハウンドはまだまだ戦える。ゲルトードも無傷だ。そして今までの時間経過で、自分のマナもだいぶ回復してきた。


「来るなら来やがれ!」


 数は相手の方がずっと多い。

 だが、だからこそ召喚師としての腕に見せどころだ。


 まずは黄色い何かが突出してきた。

 人間の頭ほどの大きさをした、黄色い甲虫。冒涜系の中級モンスター、『大いなる種族(イス・ビートル)』だ。打撃攻撃をしてくるこのモンスターと相性がいいのは――


「ゲルトード、【行――」


 ――突如、奥から飛来する金色の光筋。


「!」


 黄色く光る矢だった。

 イス・ビートルの堅い甲殻を貫通し、粉砕させる。


「今のって、弓術士さんの攻撃!?」


 少女が歓喜の声を。

 ちょうどその時、奥から戦闘音が鳴り始めた。矢が飛んできた方向だ。


「――【ブレイクアロー】」


 黄色い矢がもう一本、マナヤ達に近づいていた機械モンスターに突き刺さる。

 牛型のロボットモンスター『牛機VID-60(ヴィドシックスティ)』がその矢を受け、吹き飛ばされていった。


(ブレイクアロー……矢の徹甲力を上げる、弓術士の技能(マーシャルクラフト)だっけか)


 さきほどイス・ビートルを貫いたのも、同じ技だろう。

 その黄色い矢が何度も煌めき、やってきたモンスターたちを射抜いていく。


 近づく馬の蹄音。

 姿を表したのは、立派な戦馬にまたがった青服の騎士だ。


「君たち、無事か!」

「あ、騎士さま!」


 周囲へ油断なく弓を構えながらこちらに駆けよってくる、弓術士の騎士。少女の表情が一気に明るくなった。


「っととそうだ! 【封印(コンファインメント)】」


 思い出して、マナヤは慌てて瘴気紋を封印していった。

 放置していては、またモンスターが湧いてきてしまう。


「! 君、たしかマナヤだったか。酷い怪我じゃないか!」

「あぁいや、俺はまだ平気ッス。それより、こいつが」


 騎士に心配ないと手を振り、マナヤは少女へと視線を向ける。彼女は脚が腫れあがってしまい、まだ起きあがれない。

 とはいえマナヤも背にはミノタウロスの斧を受け、肩口にも数本矢が突き刺さっている。パッと見にはこちらの方が重傷に見えるのも無理はないだろう。


 少女の怪我を確認し、頷く騎士。

 おもむろに、弓を天へ構えた。


 ――ドウ、という鈍い轟音。

 弓から真上に、桃色の光の柱が立ち昇る。


「『要救護者あり』を示す救難信号だ。じきに皆も駆けつけてくれるだろう」


 騎士の言葉に、少女は緊張が解けたように全身を弛緩させた。

 だがじきに、彼女の肩がまた震えだす。よほど怖かったのだろう。


「よく頑張ったな。……そしてマナヤも、彼女をよく守り通してくれた」

「へ、あ、ああまあ。って、そういやあなたは」


 自分を褒めてくる騎士の顔を見て、マナヤは思い出す。

 夕方、帰宅の途中で見かけた伝令役の騎士だ。


「たしか、南の開拓村への伝令に行った騎士さんじゃ?」

「そうだ。だがこちらから救難信号が上がったのを見てな、急きょ引き返してきたのだ」


 が、答えた騎士が急に森の奥を見つめる。

 何か、気配を探っているようだ。


「まだ、敵がいるんスか?」

「……いや。気配が小さすぎる。小動物か何かだろう」


 訊ねてみれば、そう言って騎士は緊張を解いた。

 この世界、モンスターが襲うのは『人間』だけ。野生動物にはなぜか目もくれないらしい。


「そうだ、君たちは知らないか? 少し前に、ここから南へ向かった者がいるかどうか」


 と、今度はこちらへ問いかけてくる騎士。

 マナヤは首を傾げる。


「ここから、南へ?」

「ああ。そもそも私は開拓村へ向かう道中、森の中に微かに人の足音らしいものを聴いてね。気になって近寄ってみたのだが、逆に遠ざかっていってしまった。ちょうどその時、先ほどの救難信号を見かけたということだ」

「南の森の中に、人がいたんスか? こんな時間に?」


 普段なら、もう皆が帰宅し休んでいる時刻だ。

 こんな遅くにわざわざ門の外に出て、狩りや間引きにいくような者はいないはず。


「だから、私も妙だと思って探していたのだ。村人がどこからか森の中に迷い込んでしまったのかもしれんと思ってな」

「!」


 ハッとマナヤは気づく。

 思い出したのは、先ほど黒魔導師と交わした会話。


『――でも、なんでかモンスターたちが森の奥へ後退しはじめたんだ』

『後退、だと?』

『ああ、ヘンだろ? だからおかしいと思って追撃することにしたんだけど、その先にいた数が思った以上に多くて、このザマだよ』


 そうか。

 誰かが道に迷ってしまい、森の奥へ。そしてその人物を狙って、モンスターがそちらへ目掛け『後退』していった。そう考えれば説明がつく。


「じゃ、俺たちも探しにいかねえと!」

「まあ待て。それは我々に任せて、君たちはまず傷を治すんだ」


 慌てるマナヤだが、弓術士は苦笑しながら上を見上げた。

 釣られてそちらを見上げると、物音が近づいてくるのがわかる。


「あれは」


 微かに見えたのは、人を背負っている騎士達。

 斜面に生えている木々を足場にするように飛び移り、器用に降りてくる。


「要救護者を確認した!」

「よし、白魔導師たち頼んだぞ!」


 赤服を着た……つまり剣士の騎士たちが、続々と降り立った。

 一人ひとり、白ローブの者を背負っている。


「大丈夫か!」

「無事でよかった、もう心配ないぞ」

「酷い怪我だ、すぐに治療する!」


 駆け寄ってきて、マナヤに治癒魔法を使い始める。

 激痛が引いていき、肩口の矢がぽろぽろと零れ落ちた。


「……ふう。ありがとうございます」

「大丈夫だ。よく彼女を救ってくれたな」

「まあ。あ、上の戦いは?」

「心配ない、もう終わった。モンスターどもは殲滅できたようだ」


 白魔導師が安心させるようにそう言った。ようやく一息つくマナヤ。

 横を見れば、少女も治癒魔法を受けて脚が治っていく。


 その時。


「――マナヤ!」

「へ?」


 斜面の上から、聞き慣れた声が。

 かと思えば、赤い影が一瞬でマナヤの元へと飛び込んできた。


「うお!? ……あ、アシュリーか」

「大丈夫、マナヤ!? 勝手に飛びだしていっちゃったって、スコットさんから連絡受け……って、酷い怪我!」


 赤いサイドテールを振り乱しながら、アシュリーが覗き込んでくる。

 緑ローブの背が血まみれで、肩口にも矢の痕が残っているマナヤの姿。それを見咎めてアシュリーは顔を歪めていた。


「すまん、俺はなんてこたねえよ。心配すんな」

「……もう。門の衛兵さんたちを説得するの、大変だったんだからね? 当番でもないあたしがなんで行くのか、問い詰められて」

「……マジでスマン」

「スコットさんもサマーさんも、心配してたんだからね」

「わかった、わかったっての。帰ったら謝っとく」


 呆れたように額に手を当てるアシュリー。

 が、すぐに安堵の笑みを浮かべていた。


「あの。マナヤ、さん」


 背後から少女の声。

 振り向くと、治療を終えたウィルの姉がオドオドしながらこちらを見つめてくる。


「あんたか。どうした?」

「その。ごめん、なさい」

「は?」


 面食らうマナヤ。

 せきを切ったように、少女は捲し立て始めた。


「前にあなたを避けちゃったこと! 弟を助けてもらったのに失礼なこと言っちゃったこと! それにっ」

「お、おい」

「今日っ……手をわずらわせちゃったこと。ごめんなさいっ」

「手をわずらわせた? 何のことだ?」


 マナヤは余計に困惑。

 伝わっていないことに気づいたか、少女はビクビクしながら弱々しく口を開いた。


「その……当番でもない人に。それも召喚師なんかの手を、わずらわせちゃって……」

「……」


 そういうことか、とマナヤはようやく理解。

 スコットが言っていた。救難信号で呼ばれてもいないのに駆けつけても、相手が気にするだけだと。

 それに……


(召喚師『なんか』の手、ねえ)


 マナヤが大きくため息をつく。ビクリ、と怯えたように少女が肩を震わせていた。


「……俺が聞きたかった言葉はよ。『謝罪』なんかじゃなかったんだけどな?」

「……あ」


 少女が何かに気づいたように、頷いた。

 にわかに、たたずまいを正す。


「そ、そうでした! お詫びの品ですね!」

「は?」

「ええと、間引きの交代権でいいでしょうか? 王都で使える銀貨は切らしちゃってますし、狩りの贅沢品とかなら工面すればなんとか――」

「いやなんでそうなる!? 俺はモノをせびってるわけじゃねえ!」

「あっ、ご、ごめんなさい! ええと、マナヤさんの世界の習慣でしたっけ。たしかこうやって手を」

「ハイタッチでもねえ! こういう状況の時に使うもんじゃねえんだって!」


 直後、暗がりの中でもわかるほど少女の顔が青ざめる。


「ま、まさか……わ、私の、カラダ――」

「誰がンなもん要求するかァ! 人を下衆野郎にすんなッ!」

「えっ、そそそうでしたか! えっと、じゃあ何をすれば!?」


 本気でわからないようで、あたふたしている少女。

 思わず息を切らしてしまったマナヤは、がしがしと頭を掻きむしる。

 異世界といえども、〝あの概念〟は自分の世界と同じはず。それをマナヤは、ある少年から体験している。


「あんたの弟、ウィルだったか。あいつが言ってたこと、覚えてるか?」


 その言葉に、少女はハッと口に手を当てた。



 ――ひとに助けられたら、ちゃんとお礼をいうのがふつうじゃないの?――



「た、助けてくださって、()()()()()()()()()()()っ!」

「そうそう、そういうのでいいんだよ!」


 満面の笑顔を見せるマナヤ。

 一瞬目を見開いた少女は、すぐに表情を和らげ、はにかんだ。


(スタンピードじゃ、なかった。でも……それで良かった)


 人が死ななくて、良かった。

 そして、スタンピードでなくとも駆けつけて良かった。この娘を死なせずに済んで、良かった。


「……ふふっ」


 と、横で笑いを漏らす声。

 そちらを見ると、満足そうな笑みを浮かべたアシュリーの姿が。


「マナヤ」


 彼女は、手を頭の高さへと掲げる。


 反射的に、同じように手を掲げた。

 そして、彼女の手がマナヤの手を――


「うおッ!?」


 叩く直前、思わずマナヤは手を引っ込めかわしてしまう。


「ちょっ、なんで避けんのよ!」

「お前ッ、ハイタッチすんなら手加減しろ! 前にも言ったじゃねーか!」

「だからちゃんと加減したじゃない!」

「嘘つけ、風切り音が鳴ってたぞ!」


 夜の森の中、場違いにぎゃいぎゃい騒ぎ始める二人。

 驚いていた騎士達もすぐ、気が抜けたように失笑してしまう。


「……」


 そんな中、ただ一人。

 黒魔導師の少女が、複雑そうにマナヤとアシュリーのやりとりを見つめていた。



 ◆◆◆



 アシュリーに連れられ、テオの家に戻る。


「マ、マナヤくん!」

「マナヤさん!」


 テオの両親が、戻ってきたマナヤを家の前で待っていた。


「あー、スコットさん、サマーさん。さっきはすま――」

「すまなかった、マナヤくん」


 謝ろうとしたマナヤだが、スコットに先を越されてしまう。


「え? いや、なんでそっちが謝って」

「メロラさんから聞いたんだ。君のおかげで命を救われたと」

「メロラさん?」


 首を傾げるマナヤ。

 すると、傍らにいたアシュリーがそっと耳打ちしてくる。


「あんたが助けた、黒魔導師の子のことよ」

「あー、ウィルの姉貴の」


 そういえば、あの娘の名前を知らなかった。

 納得し視線を前に戻せば、スコットとサマーが揃って申し訳なさそうに眉を下げている。


「君があの場に駆けつけてくれて助かったと、先ほど私達にもなんども感謝していた」

「私達がマナヤさんを押しとめていたら、きっとあの子は……。だから、ごめんなさい」


 今日は、よくよく謝られる日だ。

 どうにも気まずくなり頬を掻くが、こつんとアシュリーに肘でつつかれる。


「ちょっと、マナヤ」

「わ、わかってるっての。あーその、なんだ。スコットさんもサマーさんも、わかってくれりゃそれでいいから」


 マナヤの言葉で、テオの両親はようやくこちらに目を合わせてくる。

 サマーはさらに、心配そうに訊ねてきた。


「マナヤさん。その、騎士さまがたに怒られはしなかったの?」

「あぁ、一応大丈夫だったよ。結果論だったけどな」


 モンスターたちを倒した後、マナヤは一部の騎士たちに問い詰められた。なぜ呼ばれもしないのにやってきたのか、と。

 だがそれを庇ったのは、誰あろう救難信号を上げた女性弓術士その人だ。


『結果的にマナヤさんがやってきてくれたから、そこの()を救えたのよ。私が救難信号の選択を誤った、そういうことです』


 心底申し訳なさそうにそう言って、騎士たちを説得してくれたのである。


「……そう。よかったわ、あなたが責任を問われずに済んで」


 安心したように息を吐くサマー。

 けれど、すぐにそっとこちらの肩へ手をかけてくる。


「けれど、ちゃんと自分の体も労わるのよ。夜中に救難信号が上がるたびに向かっていったら、()たないわ」

「ああ。とりあえずマナヤくんも、もう休んだ方がいい。このぶんだと、酷い怪我をしたんだろう?」


 サマーに続きスコットも、マナヤのローブの胸元をつまむ。

 コボルドの矢を受け、穴が空いてしまった箇所だ。背中側も大きく裂け、べっとり血で汚れてしまっている。


「ああそうだった。このローブもなんとかしねーとな……」

「そうじゃない、君自身の心配をしているんだ」

「服は、直せばいいわ。マナヤさん自身が、ちゃんと体を休めないと」


 少し責めるような目で、家に入るよう促してくる二人。

 戸惑い気味のマナヤを見て、アシュリーがくすりと笑った。


「もう大丈夫そうですね。じゃ、あたしはこれで失礼します」

「ああ、ありがとうアシュリーさん。すまない、急に呼び立ててしまって」

「気にしないで、スコットさん。あたしもこいつのことは心配でしたから、むしろ連絡してくれてありがとうございます。じゃ、また明日ねマナヤ」


 こちらにヒラヒラと手を振り、小走りで帰っていくアシュリー。

 マナヤは少し緊張が解け、ようやく肩から力を抜いた。


(けど、油断できねーな。今回はスタンピードじゃなかったが)


 まだ、第二波が来ないと決まったわけではない。今まで完全に気が抜けていた。これからは夜も気を引き締めなければならないだろう。

 己に喝を入れ、テオの両親に続いて家に入ろうとした時。


「!」


 ふと横に気配を感じ、目を向けた先。

 ストールのようなものを羽織り、道に立っている人影があった。


「……シャラ」


 こちらをじっと見つめてくる、感情の読み取れない目。ふとその視線は、マナヤの胸元に注がれる。


「ああこれ、すまん。テオのローブ、ダメにしちまった」

「……」

「お、おい」


 が、無言のまますぐにふいと顔を背けられ、マナヤの脇を通り過ぎる。

 シャラはそのまま、先にテオの家へと入っていった。


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