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召還された召喚師  作者: 星々導々
第一章 転生者の降臨・消滅・そして再臨
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17話 単独救出

 ヘルハウンドに乗って、急斜面をどんどん下っていくマナヤ。


(右! 左! ……くそ、なんでこんな深い崖があるんだよ!)


 過去に大掛かりな地盤沈下でもあったのだろうか。

 緑の救難信号だけに照らされた夜の森、というのもあるだろうが、まだ底が見えない。


「あそこか!」


 ようやく見えてきた。

 谷底で黒ローブを纏った少女が、足を引きずりながら後退している。

 脚を怪我しているのかもしれない。


(ミノタウロス!)


 見れば、彼女の目の前には斧を構えた牛男の姿。


「【行け】!」


 ヘルハウンドへ命令。

 ミノタウロスへ向かって一直線に駆けていく。

 だがミノタウロスはもう、今にも斧を少女へ――


(ダメだ、ギリギリ間に合わねえ!)


 一瞬。一瞬だけでいい。

 ミノタウロスの動きを、一瞬だけ止めることができれば。


「――【ナイト・ゴーント】召喚ッ!」


 牛男へ向け手をかざす。

 空中に現れた召喚紋、そこから黒い影が飛び出した。

 一直線に、前方にいたミノタウロスへとぶつかる。


 影の、鉤爪の一閃。

 ミノタウロスの肩口を斬り裂いた。


「――!」


 ミノタウロスの動きが、硬直。

 ――今しかない。


「だぁッ!」


 ヘルハウンドの背から跳びあがり、前方へ身を投げ出す。

 地面に転がるマナヤ。

 だがその勢いで、すぐ立ち上がった。

 少女とミノタウロスの間に、割りこむ。


「がッ……」


 ――衝撃。激痛。

 ミノタウロスの大斧が、マナヤの背に食い込んでいた。


「え、え?」

「大丈夫か、下がれそうなら下がれ!」


 小さく戸惑いの声を上げた、黒ローブの少女。

 彼女を庇うようにマナヤは立ちふさがった。少し動いただけでも響く、背の猛烈な痛み。苦痛に顔が歪んでしまう。


 直後、ミノタウロスに側面から何かが飛び掛かる。

 ヘルハウンドが追いついたのだ。

 鉤爪を走らせる。ぱっと舞い散る、牛男の血。

 ミノタウロスはギロリと、ヘルハウンドへ向き直った。


(なんとか、間に合ったか)


 冷静に頭上を見上げるマナヤ。

 全身真っ黒な、悪魔のごとき黒い影が飛んでいた。人型をしてはいるが、背に一対の真っ黒な翼が生えている。これまた真っ黒な角が生えているその頭部には、顔と呼べるものがない。のっぺらぼうだ。


 冒涜系の中級モンスター、『夜鬼(ナイト・ゴーント)』。

 さきほど、とっさに喚んだ召喚獣である。


(このシステムも、ちゃんとあってくれて助かったぜ)


 マナヤが使ったのは、飛行モンスターの特質を利用した裏技だ。

 召喚獣は通常、召喚後に『行け』命令を下さなければ突撃しない。だが飛行するタイプのモンスターは、召喚した直後のみ、前方に敵がいれば命令なしでも高速で攻撃しにいく。

 つまり飛行モンスターは、召喚時に『召喚師の飛び道具』のような感覚で使えるのだ。


(そしてナイト・ゴーントの攻撃にゃ、生物モンスターを一瞬怯ませる効果がある)


 マナヤはこれらを組み合わせ、瞬間的にミノタウロスの動きを止めたのだ。


「あなたは、マナヤ、さん?」

「あ?」


 少女の声に振り向く。

 よく見れば、その顔には見覚えがあった。


「あんた、ウィルの姉貴か」


 スタンピードの時、マナヤが救った少年ウィル。あの少年がお礼を言ってきた日に会った、彼の姉だ。

 彼女の片脚は、痛々しく腫れあがっている。やはり折れているのか。


「は、はい。すみま――ひっ!」

「どうした? ……チッ」


 少女が声をひきつらせる。

 彼女の視線を追えば、森の奥から走り寄ってくる銀色の人影。

 銀色の金属でできた人型ロボット、蹴機POLE-8(ポールエイト)だ。軽快に、しかし重い金属音の足音と共にこちらへ迫ってくる。


(……いや違う。こいつの狙いは、ヘルハウンドだ)


 マナヤのヘルハウンドは、ナイト・ゴーントと組んで敵ミノタウロスと戦っている。ここに蹴機POLE-8(ポールエイト)が乱入してきたらまずい。


「こっちだ、来やがれ!」


 すぐさまマナヤは、その人型機械の正面へ飛び込んだ。

 蹴機POLE-8(ポールエイト)は振り向くや、ハンマーのような足を振り上げてくる。

 掬い上げるような前蹴り。


「【ゲルトード】召喚!」


 それをマナヤは、召喚紋で受け止めた。

 弾かれた蹴機POLE-8(ポールエイト)の前に、人間の胴体より一回りほど大きいくらいのサイズをした大ガエルが現れる。

 精霊系の中級モンスター、『ゲルトード』だ。


 蹴機POLE-8(ポールエイト)の第二撃。

 ゲルトードの体はしかし、その前蹴りをボヨンと弾いた。


(ゲルトードにゃ、打撃への完全耐性がある。そして、相手の動きを鈍化させられる攻撃方法を持つ)


 ゲルトードが、長い舌を伸ばす。

 舌の上に作った粘液の塊を、蹴機POLE-8(ポールエイト)に叩きつけた。

 衝撃で怯む人型ロボット。

 その身体に絡みついた粘液で、動きも鈍りはじめる。


(よし)


 ぐっと拳を握るマナヤ。

 ゲルトードなら、蹴機POLE-8(ポールエイト)を足止めし続けられる。ヘルハウンドとナイト・ゴーントも、二体がかりで順調に敵ミノタウロスを削っていた。もう少ししたら倒せるはずだ。


 ――逆側の斜面から、風切り音。

 ドスドスと、何かが突き立つ音が続く。


「!」


 真上だ。

 ナイト・ゴーントが、飛びながらもよろめいていた。二本の矢が、その脇腹に突き立っている。


「あの矢羽根、コボルドか!」


 音が飛んできた方向へ、目を凝らす。

 さきほど降りてきた斜面の対面。ほぼ同じ傾斜の斜面上に、出っ張りが見えた。そこを足場に、黒い毛で覆われた犬頭の人影が二体、弓を構えて立っている。

 下級モンスター『コボルド』だ。


(射撃モンスターに、高台を取られちまってる)


 歯ぎしり。

 射撃モンスターは、高所から低所へ撃ち下ろすと攻撃威力が上がる。そしてナイト・ゴーントなどの飛行モンスターは、総じてHP(生命力)が低い。すぐに倒されてしまうだろう。

 そうなったら次に狙われるのは、次点でHP(生命力)が低いゲルトード。


竜巻防御(ゲイル・ガード)を……マナがまだ足りねえ!)


 バシュウ、と頭上から消滅音。

 ナイト・ゴーントが倒され、魔紋へと還ってしまった。

 コボルド二体は、予想通りゲルトードを狙って矢を構える。


「なら!」


 マナヤは、蹴機POLE-8(ポールエイト)と戦っているゲルトードのすぐ横へと移動。

 そのまま斜面上の敵コボルドたちを睨み上げる。

 ゲルトードを庇う形だ。


「ぐッ」


 マナヤの肩口に、二本の矢が突き立つ。


「マナヤさん、なにを!? 召喚獣を庇うなんて!」


 その様子を目の当たりにした黒魔導師の少女が、うろたえていた。

 しかしマナヤは歯を食いしばりながら叫ぶ。


「庇ってるんじゃねえ! 召喚獣を()()()()()んだ!」

「え……」

「ゲルトードは打撃にゃ強いが、斬撃や矢を受けたらすぐやられちまう! ここで俺のゲルトードが死んだら、POLE-8(ポールエイト)が野放しになって総崩れだぞ!」

「で、でも!」

「それに召喚師は頑丈だ! 攻撃を受けりゃ、マナも溜まる!」


 今は堪え時だ。

 ゲルトードが生き延びさえすれば、巻き返せる。


「ッ」


 さらに二本、マナヤに突き立つ矢。

 激痛をこらえ、ぐっと足に力を入れる。

 この攻撃で『ドMP』が発動し、マナがどんどん溜まっていく。


(よし、じゅうぶん溜まった。猫バリアを……いやダメだ、崖の上にいたモンスターどもまでこっちに招き寄せちまう)


 背後には、足を折ってしまい動けない少女がいる。周りから敵モンスターを呼び寄せてしまう『猫機FEL-9(フェルナイン)』を召喚するのはまずい。

 その時、背後でミノタウロスが倒れる音が聴こえた。ヘルハウンドが撃破したのだろう。


「よし、ならこいつだ! ヘルハウンド【戻れ】、【魔獣治癒(ビーストヒール)】」


 ピンポイントに命令を下し、治癒魔法を。

 斧につけられたヘルハウンドの傷が治っていく。

 ヘルハウンドがマナヤのそばへたどり着いたところで……


「【電撃獣与(ブリッツ・ブースト)】【跳躍爆風(バーストホッパー)】! 【行け】!」


 スパークと、破裂音。

 爪に電撃を纏ったヘルハウンドが、大ジャンプした。

 宙を翔けたそのヘルハウンドは、みごとコボルド達が立っている足場へと着地。そのまま、電撃を帯びた鉤爪でコボルド達を斬り裂く。


「ッ、よっしゃ!」


 肩口からなおも走る痛みに顔をしかめつつ、マナヤはガッツポーズを。

 コボルドは下級モンスター、しかも射撃型。高所さえ取られなければ、攻撃力は低い。ヘルハウンドをコボルドに隣接させてやれば、攻撃力とHP(生命力)で勝るヘルハウンドが負ける道理はない。


「マ、マナヤさん! 新手が!」

「なに!?」


 が、少女の警告にすぐ視線を戻す。

 蹴機POLE-8(ポールエイト)の後ろから、のっそりと巨大なカニが姿を現した。冒涜系の中級モンスター『ナイト・クラブ』。

 ゲルトードは、まだ蹴機POLE-8(ポールエイト)と戦っている。そしてナイト・クラブの攻撃は、鋭く巨大なハサミを振りぬいて斬り裂く『斬撃』。柔らかいゲルトードなどひとたまりもない。


「ったく、次から次へと!」


 マナヤはそのすぐ目と鼻の先へ飛び込んだ。

 すぐさま、ハサミを斜め上から振り抜こうとするナイト・クラブ。


「おっと」


 直後、マナヤはバックステップした。

 目の前を、ブンと巨大なハサミが通り過ぎる。


 ハサミが振り切られた後、マナヤはまたすぐナイト・クラブの懐に舞い戻った。

 大蟹はまたハサミを振りかざす。

 その瞬間、バックステップ。

 ハサミが空振った後、また近寄る。この繰り返しだ。


(よし、やっぱこの回避テクもいけるな!)


 ゲームでもこの時間稼ぎはよくやっていた。

 モンスターは基本的に、()()()()()()()()()()()()()ことしかできない。まさに『駒』のようなもので、生き物らしい意思を持たされていないのだ。

 特にナイト・クラブは攻撃が遅く、一体だけであれば見てから避けることはたやすい。


(だが問題は、どう反撃するか)


 ヘルハウンドはもうじき、コボルド達を始末してこちらに戻るだろう。しかしヘルハウンドは鉤爪で攻撃するモンスター。斬撃耐性が高いナイト・クラブには太刀打ちできない。

 そして、対抗策となる中級モンスターを出すには、まだマナが足りない。


(俺自身でわざと食らって、マナを溜める手もあるが……!)


 スタンピードの日を思い出す。

 あの時は攻撃を自分の体で受けすぎて血を流し、意識を失ってしまった。今度こそ失神するわけにはいかない。


 何かないかと周囲を見回した、その時。

 震えながらこちらを見つめる、ウィルの姉が目に入った。


「そうだ、あんた黒魔導師なんだよな!?」

「えっ!? あ、はい!」

「マナ切れになったらしいが、ちったあ回復したか!?」

「ご、ごめんなさい、まだ最下級の魔法を一発撃てる程度しか……」


 ニッと笑うマナヤ。


「充分だ! 一番弱いのでいい、コイツに精神攻撃魔法を撃て!」


 ハサミ攻撃を回避し続けながら、親指で目の前の大蟹を指す。


「せ、精神攻撃魔法!? どうしてですか!?」

「あ!?」

「それってマナを削る魔法ですよ! マナを持ってる人間相手にしか意味がない魔法じゃないですか!」

「いいから、俺が合図したら撃て! 俺を信じろ!」

「……わ、わかりました!」


 ナイト・クラブへ手のひらを向け、構える少女。

 マナヤはちらりと斜面を確認した。予想通り、まだ前足に雷を纏ったヘルハウンドがこちらへ駆け降りてくる。コボルドは無事撃破したようだ。

 そのヘルハウンドへ手をかざす。


「【精神獣与(ブルータル・ブースト)】」


 ヘルハウンドの前足にまとわりついている稲妻、それが真っ黒に変色。

 その状態で、ナイト・クラブへ突撃した。


 鉤爪が、大蟹の甲羅にぶつかる。

 途端、バシュッとナイト・クラブから黒いモヤのようなものが飛び散った。

 ナイト・クラブは怯まず、ハサミを振りかざす。

 狙いは当然、マナヤのヘルハウンド。


「今だ!」

「【クルーエルスカージ】!」


 マナヤの合図に合わせ、少女が呪文を。

 発されたのは、様々な色が入り混じってできたような黒い塊。

 その塊は、ナイト・クラブに直撃した。


 ――バシュウ


「え?」


 モンスターの消滅音。

 少女が唖然とする。


「よーし、上出来だ」


 ほくそ笑むマナヤ。

 ナイト・クラブは、少女の魔法を受けてあっさりと倒れてしまったのだ。


 残ったヘルハウンドは、まだゲルトードと戦っている蹴機POLE-8(ポールエイト)に側面から襲い掛かっていた。それでもなお、蹴機POLE-8は執拗にゲルトードへと攻撃を続けている。

 バシュウ、という音と共に蹴機POLE-8もとうとう倒れた。


「あ、あの」

「おう、ありがとよ。いい助太刀だったぜ」


 振り向けば、困惑顔で見上げてくる少女。息が少し荒いのは、またマナが枯渇したからだろう。


「え、えっと。どうして、あの頑丈なナイト・クラブがあっさり倒れたんですか? それも、精神攻撃魔法なんかで」


 不思議そうに問いかけてくる。



「なに、なんてこたねえ。モンスターと人間の、ちょっとした()()()を利用したんだ」



 マナヤが揚々と笑った。

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[気になる点] 待って、待って待って! 消えた第二波とか、南の村が残っているとか、色々前回と違う面白そうな要素が追加されているのはいいんですが、それ以上に…… 「キャラ小説でやっちゃいけない描写」が…
2024/05/04 17:03 退会済み
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