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召還された召喚師  作者: 星々導々
第三章 流血の純潔と女剣士の願い
114/275

114話 開拓村とアシュリーの覚悟

 召喚師用の集会所。


「……と、いうのが俺がさっきやった戦い方だ。何か質問はあるか?」


 掲示板のようなものに図解を貼り付け、マナヤは召喚師候補生らを見回す。この開拓村にいる召喚師らも生徒たちに混じって解説に耳を傾けていた。


「はい」

「おう、何だコリィ」


 すぐさま挙手したのは銀髪の少年。最初から勉強熱心だったコリィだ。


「マナヤ教官は、最初のクリスタ・ジェルを引きつけるために、ゲンブに電撃防御(ガルバナイズ・ガード)をかけて対処したって言ってましたよね」

「ああ」

「どうしてゲンブの代わりに、もともと電撃耐性があるナイト・クラブを使わなかったんですか? こっちなら電撃防御(ガルバナイズ・ガード)は必要なかったのでは?」


 中々に核心を突く質問。マナヤも唇に弧を描く。


「なるほど。お前らは、わざわざ防御魔法にマナを割くくらいなら、最初から素で耐性のあるモンスターをぶつけた方が絶対に良いと思ってるな?」

「は、はい」


 この世界で一般的に浸透している考え方だ。実際、ゲーム『サモナーズ・コロセウム』でも初心者はそう考えている者達が多い。


「正直で結構。……これはまだ説明して無かったが、モンスターは『自分の攻撃が相手に通じてない』場合、数回攻撃したところで攻撃対象を変更しようとする習性がある」

「攻撃対象を、変更?」


 首を傾げるコリィに他の生徒達も追随。そんな彼らを見渡し、マナヤは説明を続ける。


「ああ。何度か攻撃して、『自分の攻撃が、こいつにゃ効いてない』と判断した場合、モンスターはそいつを攻撃するのを諦めて、無視しちまうのさ」


 自動人形のように、全く同じ攻撃しか繰り返せないモンスター達。そんなモンスター達に与えられている唯一にしてささやかな『知能』ということだ。


「俺があの時、敵クリスタ・ジェルにナイト・クラブを差し向けていたとしよう。クリスタ・ジェルは何度か攻撃を繰り返した後に、諦めて別の攻撃対象を探しに行っちまうんだ。どこに向かうと思う?」

「……舟の方、ですか?」


 少し自信がなさそうに答えるコリィ。マナヤは微笑み、大きく頷く。


「正解だ。水中にいる敵にしか攻撃できねぇクリスタ・ジェルが、攻撃対象を変えるとしたらそっちだわな。つまり、あそこで俺がナイト・クラブを差し向けてたら、すぐに舟が危険な状態になっちまったろうぜ」


 この世界の人間が、最上級モンスターらに対処しにくかった理由がここにある。

 たとえば灼熱のブレスを吐く最上級モンスター『フレアドラゴン』に、火炎耐性のある召喚獣を差し向けて対処しようとしたとする。しかし何度目かのブレス攻撃の後、フレアドラゴンは自身の炎ブレスが召喚獣に『効いていない』と判断してしまう。つまり、フレアドラゴンの攻撃を受け止める『囮』として機能しなくなるのだ。


 しかし、コリィが首を傾げた。


「……あれ? でも、ゲンブにも電撃防御(ガルバナイズ・ガード)がかかってたんですから、同じじゃないですか? ゲンブへの攻撃を辞めちゃうんじゃ?」

「ほう」


 感心の声を上げつつマナヤは答える。


「鋭いな。ここが面白い所でな、モンスターは防御魔法によって『後付け』で耐性が追加された場合、それを認識できないんだ」

「認識、できない?」

「ああ。攻撃を辞めるのは、あくまで『素』の耐性で攻撃が通じてない場合だけだ。防御魔法で防いだ場合、モンスターは自分の攻撃が防がれてることを認識できない。効かない攻撃を延々繰り返し続けるのさ」


 敵フレアドラゴンを相手にする場合、あえて炎には耐性が無い召喚獣を出し、それに火炎防御(グレネイド・ガード)をかけるのが正解なのだ。

 その場合フレアドラゴンは攻撃対象を変えようとせず、延々と火炎防御(グレネイド・ガード)付きの召喚獣にブレスを吐き続ける。ちゃんと召喚獣が『囮』として機能し続け、召喚師や仲間の安全が確保されるのだ。ゲーム『サモナーズ・コロセウム』でも、その要素が駆け引きの中心になることもあった。


 マナヤは、書類の束から〝ステータス表〟を取り出す。


「モンスターが何回攻撃すれば、無駄な相手への攻撃を辞めるようになるか。これもモンスターごとによって判断速度が違う」

「そういえば、以前教官に見せてもらった〝ステータス表〟にも『判断速度』って項目があったような?」


 と、別の女子生徒がそう言いだした。皆も気付いたようで、思い出すように視線を上に向けている。

 マナヤは満足げに頷いた。


「そういうこった。だから、そういう場合はなるべく判断速度の速い……つまり『攻撃対象を変更する速度が早い』モンスターの方が便利に使えるな」

「じゃあ、判断速度が遅いモンスターは使わない方がいいんですか?」

「そうでもねぇよ。判断速度が遅いモンスターは、そのぶん基礎性能が高いからな。ほら、ステータス表を見てみろ」


 同じ女生徒の質問に答えつつ、改めてステータス表を広げる。おしくらまんじゅうでもするかのように、二十人の生徒が一斉にそれを覗き込んだ。


「要するに、適材適所だよ。判断が早いモンスターで、ダメージが通る敵をピンポイントに攻撃するか。あるいは判断は遅いがスペックの高いモンスターを補助魔法で援護して敵をすり潰すか。そういうのを瞬時に判断するのも、召喚師に必要な要素だぜ」


 生徒達が感心して息を吐く音。

 直後、コリィが「あの」と声を上げる。


「えっと、もう一ついいですか?」

「おう、熱心だなコリィ。なんだ?」


 生徒の側から質問が出てくるのはいいことだ。


「マナヤ教官はゲンブで敵クリスタ・ジェルを引き付けた後、ナイト・クラブに強制誘引(コンペルド・ベイト)をかけて舟へ向かわせたんですよね?」

「そうだ。敵ボムロータスにナイト・クラブを狙わせて、舟を守るためにな」

「でも強制誘引(コンペルド・ベイト)って、敵モンスターに狙われやすくなるんですよね? ゲンブと戦ってた敵のクリスタ・ジェルも、ナイト・クラブの方に行っちゃいそうな気がするんですけど」


 本当に良いところに気付く子だ。鋭い指摘に、マナヤは改めて舌を巻く。


「またしても良い質問だ。確かに強制誘引(コンペルド・ベイト)や猫機FEL-9(フェルナイン)は敵モンスターを引き付けやすい。だが、これは実は『距離関係』が重要なんだ」

「距離関係?」

「ああ。モンスターがどの敵を狙うか……これを俺は『ヘイト』って呼んでるんだがな」


 正確には、『サモナーズ・コロセウム』プレイヤー達が使っていた言葉だ。


「モンスターのヘイトの法則は、実にシンプルだ。近くの敵にほど、ヘイトが高くなる。一番近くにいる奴を攻撃しに行くわけだ」

「それは、僕達もモール教官から習った覚えがあります」


 うんうんと生徒一同が頷く。


「だろうな。さて、ここからが肝心だ。強制誘引(コンペルド・ベイト)や猫機FEL-9(フェルナイン)の能力は、敵からのヘイトを『半分の距離にいる』ものとして誤認させるんだ」

「半分の、距離?」

「ああ。ちょっと図解にしてみるか」


 ハテナマークが頭に浮かんでいる生徒達を見て苦笑したマナヤ。早速紙にさっと図を描き、背後の掲示板のようなものに貼り付けた。


「ここに敵モンスターが居るとしよう。で、お前の召喚獣Aと召喚獣Bが、敵モンスターからみてそれぞれ距離8、距離5にいる」


 A―――(┏距離8┓)――(┏距離5┓)


「さて。この場合、敵はAとB、どっちを狙ってくると思う?」


 コリィがおずおずと答えた。


「それはもちろん、近くにいる方……距離5の召喚獣B、です」

「正解だ。んじゃ、こっからが本題だぞ。ここで距離8の召喚獣Aに強制誘引(コンペルド・ベイト)をかけたとしたら、どうなると思う?」


 マナヤは筆を取る。『敵』と書いた丸と『A』と書いた丸の間に引かれた線、その中央にひとつ黒丸を描き加えた。


 A―●―(┏距離8┓)――(┏距離5┓)


「そうなると、敵は召喚獣Aとの距離を8の半分であるココ……距離4と誤認するわけだ」

「あっ!」

「わかったか? こうなると、召喚獣Aは距離4、召喚獣Bは距離5、と敵モンスターは認識することになる。つまり……」

「遠くにいるはずの、召喚獣Aを狙う……」


 コリィの呟きに、生徒達が驚きの表情で顔を見合わせた。ニヤリとマナヤが笑う。


「そういうこった。だがこの時、もし召喚獣Bが距離5じゃなくてもっと近く、距離3にいたとしたら?」


 A―●―(┏距離8┓)-()


 コリィが「そうか」顔を輝かせ、すぐ答えに辿り着いた。


強制誘引(コンペルド・ベイト)のかかってるAでも、距離4。だから結局、より近くにいる距離3の召喚獣Bを狙ってくるんですね! そうか、だからクリスタ・ジェルも……」


 あの時マナヤがナイト・クラブに強制誘引(コンペルド・ベイト)をかけた際、敵クリスタ・ジェルはマナヤのゲンブと()()していた。クリスタ・ジェルから見れば、ゲンブと比べナイト・クラブは距離が倍以上開いていた。だから、隣接していたゲンブを狙い続けたのだ。


「呑み込みが早いぞ。つまり、だ。モンスターAを囮化してモンスターBを守りたい場合、敵との距離関係が重要だ。囮モンスターを距離8に置いた場合、敵から距離4の円を頭の中に描け。その距離4の円より外側に、モンスターBを配置するようにするんだ」


 コリィ含め、全員が一斉に紙にメモを取る。

 語り甲斐のある生徒達に満足し、マナヤは笑顔で解説を続けた。



 ◆◆◆



 しばらく、先の戦いを詳細に解説した後。日も落ちた所で、召喚師候補生達は解散となった。


「マナヤ教官! 教官はまた今日もうちに来ますよね?」

「おう、もちろんそのつもりだぞコリィ。また世話になっていいならな」

「もちろん、大歓迎ですよ!」


 コリィの家に世話になっているマナヤは、彼と一緒に帰宅することになる。

 だが二人して集会所を出たところで、三人の人影と鉢合わせた。


「マナヤか。ちょうど良かった、君を呼びに来た」

「ディロンさん? それに……」


 ディロン、テナイア、そしてアロマ村長代理だ。


「……(わり)ぃな、コリィ。俺はちょっとディロンさん達と話をしてから帰るよ」

「あ、はい。わかりました! じゃ、また家で!」


 と、手を振りながらパタパタと帰宅していくコリィ。その後ろ姿をしばし見送ってから、再びディロンへと向き直る。


「せっかく集会所も空いたことですし、中で話をしましょうか」


 マナヤはディロン達三人を集会所の中へと招き入れた。




「――建築士の水上戦術を、確立してほしい?」


 話を聞いたマナヤが、首を傾げる。

 村長代理を務めている騎士アロマが頷いた。


「その通りです。先ほどの戦闘、感服いたしました。召喚獣を実にうまく利用し被害を抑えたのもさることながら、貴方は剣士と見事に連携しておられた」


 そう語る騎士アロマは、やや興奮気味だ。長机に向かって腰かけたまま、上体を乗り出す。


「今までの経験上ですが、海上で戦えるのは現状ほぼ弓術士しかいないのです。黒魔導師は水中にまともに攻撃できるのは闇撃魔法のみ。剣士も、足場が悪い舟の上では戦いにくい」

「剣士も? そうなんスか?」


 マナヤはディロンを見つめる。ディロンは無表情のまま頷いた。


「近接武器を振るう以上、足場の確保というのは重要だそうだ。舟の上で剣士が武器を振り下ろした場合、反動で舟が大きく揺れる、あるいは転覆することもあると聞く」

「その通りです。そもそもリーチが限られる関係上、舟の上から水中のモンスターを近接武器で攻撃するのは困難を極める。舟をモンスターに近づけなければなりませんからね」


 騎士アロマがディロンの方へ向き、補足するように引き継ぐ。

 マナヤは顎に手をあて考え込んだ。


(なるほど。それでこの開拓村、唯一まともに水上戦ができる『弓術士』が力を持ってるってワケか)


 村長代理を務めているこの騎士アロマも、弓術士。そしてその補佐をしているカランという女性も同じく弓術士だ。


「ですが」


 騎士アロマが、強調するように語気を強める。


「貴方と、アシュリーさんでしたか。お二人は、召喚獣を駆使して見事に水中で剣士と連携攻撃をしておられた」

「そりゃまあ、そうッスけど。でもリーチの問題なら、『人魚の宝冠』を使えばいいだけじゃ?」


 眉をひそめながらそう訊ねるマナヤ。

 先のアシュリーとの連携とて、彼女が『人魚の宝冠』を装着し自ら泳いで攻撃していたから成り立っていたのだ。もちろん、水中に電撃の渦を発生させるクリスタ・ジェルがいなかったからこそできたことではあるが。

 しかし騎士アロマはかぶりを振った。


「この村には、錬金術師が一人しかいないのです」

「あー……『人魚の宝冠』のマナ充填が問題ッスか」


 忘れていた。『人魚の宝冠』をはじめとする錬金装飾(れんきんそうしょく)は、錬金術師がマナを補充しなければならないのだ。

 剣士が全員『人魚の宝冠』を使って間引きをしていたら、マナ充填が間に合わない。


「シャラさんがこの村に永住して頂けるというのでしたら、話は別ですが」


 騎士アロマがダメ元といった様子でそう提案してくるも、マナヤはさすがに頷けなかった。


「さ、さすがにアイツ自身がそれを望まないんじゃないッスかね」

「そうでしょうね。我々も無理強いするつもりはありません。だからこそ、マナヤさんの戦術が必要なのではないかと考えたのです」


 改めて、切実な様子でマナヤを見つめてくるアロマ。


「召喚獣に騎乗し、召喚獣を武器として振るう。そうすることで、剣士が十分に海上戦に参加できる可能性があるということですよね」

「ええ、まあ。俺たちもそういう戦い方を伝えるつもりで準備してきましたから」


 他の村人がどうかはわからないが、少なくともこの騎士アロマはマナヤの教えに乗り気になったようだ。

 しかしそこで、騎士アロマの表情が曇る。


「そこで、建築士です」

「……あ、そういやそういう話だったッスね」

「はい。現状、建築士が海上で戦う(すべ)がないのです」


 そう語る騎士アロマは、大きくため息をついていた。


「建築士が戦うには、当然ながら岩……地面が必要です」

「ええ。でも、海上には」

「はい。水の上では、建築士も岩を操りようがありません」


 憂うようにちらりと後方へ目をやる騎士アロマ。

 同時に、そこに立っている騎士の一人も顔を伏せる。茶色い騎士服を着ているということは、建築士のようだ。召喚師には及ぶべくもないが、彼もずっと肩身が狭い思いをしているであろうことは想像に難くない。


(まあ、家屋や防壁の建築・修繕。召喚師と違って、仕事はちゃんとあるんだろうが)


 そっと集会所の中を見回した。石壁は滑らかで、手入れも丁寧すぎるほど行き届いているようだ。

 思い返せば防壁はもちろん、浜辺に建っていた石塔もしっかりとした造りになっていたように思える。


「ですので」


 再度こちらへ向き直った騎士アロマが、願うような表情でマナヤを見つめてくる。


「マナヤ殿。貴方であれば、召喚師と協力することで建築士も海上で活躍できる戦術を披露できるのではありませんか」

「あー……」

「召喚師を改革するために訪れておられることは、百も承知しております。だからこそ、海上で間引きを行うにあたって建築士らにも希望を与えてもらいたい。そうすることで、召喚師への印象改善もできるのではありませんか」

「そりゃまあ、そうなんスけどね」


 マナヤは、その意見自体に異論を唱えるつもりはない。他『クラス』を助けることで召喚師の印象が良くなるのであれば願ってもないことだ。

 しかし、問題は……


「すんません、正直に言わせてもらうと」

「はい。なんでしょう」


 気が引けてため息が漏れてしまうマナヤ。

 しかし意を決し、重い口を開いた。


「俺自身、建築士が海上で戦う方法は思いついてないんスよ」


 とたんに、騎士アロマは見るからに肩を落としてしまった。


 もともと召喚師のみの戦術に詳しいマナヤは、他クラスとの連携戦術の考案にはそれほど関わっていない。

 大半は、セメイト村の召喚師らが自ら考案したものだ。マナヤがまともに使える連携戦術も、モンスターを武器と見立てて使うというアシュリーが発案の戦術のみである。


(オルランさんも、地上ならともかく水上戦での建築士との連携は思いついてなかったんだよな)


 セメイト村にいた、一人の男性召喚師を思い出す。

 彼は自ら建築士の女性を娶っただけあって、建築士と召喚師の連携戦術を担当していた。そんな彼らでも水上戦に関してはこれといって閃かなかったため、宿題となっていたのである。


「悲観することはありません」


 そこへ口を挟んだのは、テナイア。


「この開拓村で間引きの実演を行ううちに、何か妙案を閃く可能性はあります。マナヤさんがここに滞在している間、実戦をしながらゆっくり考えればよいのでは?」

「そうッスね」


 マナヤも頷く。

 とにかく、動いてみればいい。ただ頭の中だけでイメトレするよりも、実際に水上で戦っていれば新しいことに気付くことはあるだろう。

 騎士アロマもにわかに姿勢を正した。


「わかりました。となると、やはり明日にでも『海上の間引き』をこの村に伝えていただく必要がありそうですね」


 こちらが望んでいた展開が現実的になってきたようだ。

 しかしマナヤはふと気になり、訊ねてみる。


「その件なんスけど、村の連中がまともに取り合いますかね? 召喚師と一緒に海上へ『間引き』に行くなんて」

「それは、私がなんとかしましょう」


 肩をすくめながら、騎士アロマが応じた。


「村長代理でもある、私が率先して規範を示さます。そうすれば、村人達も多少は納得していただけるでしょう」


 心中を察しつつも、マナヤはアロマを見つめた。


「ええ、お願いします。じゃ、予定通り『海上の間引き』を俺たち主導で教えるってことでいいッスよね?」


 全員が頷く。

 両手を机についたディロンが、代表するようにまとめる。


「では、明日は早朝から『間引き』のデモンストレーションを始める。漁の護衛を兼ねて行う予定だ」

「了解ッス」

「ただマナヤ。君の構想、我々には今ここで詳細に聞かせて頂きたいのだが――」


 と、ディロンがこちらへ目を向けた時。


「――見て見て、マナヤ!」


 場違いな明るい声。

 同時に、勢いよく集会所の扉が開いた。マナヤがそちらを振り向くと……


「ア、アシュリー!? おまッ……!」



 ◆◆◆



 時は過ぎて、夕食後のコリィ宅にて。


「……そっか、それでアシュリーさんもマナヤと海上『間引き』に行くことになったんですね」


 借りた一室にて、()()はシャラやアシュリーと共に話をまとめていた。

 マナヤは夕食後に早々に引っ込んでしまったのだ。


「ええ。あたしとしても望むところだったからね」


 丸テーブルに向かって座っているアシュリーが、頬杖をつきながら笑った。

 この家は結構広く、部屋も二つ余っていたらしい。コリィの祖父が大家族だったのだそうだ。その二部屋をわざわざ片付けてもらい、テオら三人が使っている。


「私も参加できれば良かったんですけど……」


 丸テーブルの上に広げた素材に手をかざしているシャラが、残念そうにそう呟いていた。テオが気遣いながら彼女に声をかける。


「しょうがないよ。シャラには『妖精の羽衣』とか『人魚の宝冠』を作れるだけ作ってもらわないといけないからね」


 海上でモンスターが出ることが多いこの村では、海でも自由に動くことができる錬金装飾(れんきんそうしょく)はある程度欲しい。すぐに量産できるものではないので、こうやってシャラは製作にかかりっきりになってしまっているのだった。

 と、そこへテオはまじまじとシャラを見つめる。


「それにしても、シャラ。その服、すごく似合ってるね」

「えっ? あ、えっと、えへへ……ありがとうテオ。テオも、似合ってるよ」


 突然話を振られたシャラの顔は、赤い。もじもじしながらはにかみ、上目遣いでテオを見上げてくる。


 シャラは、この村で着られている青白を基調とした服に着替えていた。もちろんテオも、そしてアシュリーもだ。

 胴体の中央を一本の白いストライプで左右に分断している、青い服。一応白い長袖もついているが、肩口は露出している。そして女性用の服であるシャラとアシュリーのものは胸元も開き、胸の谷間が覗いていた。肩紐も非常に細くて、鎖骨から上は何も着ていないようにすら見える。正直、テオには少し目の毒だ。


 けれども、爽やかなその色合いがシャラにとても似合っていた。清楚な雰囲気でありながらどこか艶めかしい。肩の露出はもちろん、生地が薄手で胸の膨らみがよくわかってしまうことが原因だろうか。下に穿いている青いボトムスもぴっちりしているので、全体的に体のラインが強調される服装だ。

 何よりも、この開拓村にある白い砂浜と青い海にとても良く合う。


「あらテオ、あたしにはお褒めの言葉はないのかしら?」

「も、もちろんアシュリーさんも似合ってますよ」


 アシュリーは、シャラとは別の方向性で似合っていた。青と白の服に、赤髪のコントラストがよく映える。清楚というより凛々しさを感じる色合いだ。


「ふふ、ありがとうテオ。マナヤもさっきね、この服着てるあたしを見て顔を赤くしちゃってたのよ」


 と、両手を頭の後ろで組み、()()を作ってみせるアシュリー。その拍子にぽよん、と胸が揺れる。


「で、でも良かった。アシュリーさんとマナヤが、仲直りできたみたいで」


 と、慌てて目を逸らしながら安堵するテオ。先ほどシャラから、マナヤとアシュリーの仲が改善したと聞いた。

 しかしアシュリーは腕を降ろし、ふっと不安げに瞳を揺らす。


「……アシュリーさん?」

「ごめん、テオ、シャラ。まだ……あいつが残るって決断してくれたわけじゃないの」


 申し訳なさそうに俯くアシュリー。

 思わず目を剥くテオに、今度はアシュリーが目を逸らしながら続ける。


「あたしは『消えるまでの間だけでもいつも通りにして』って頼んだだけだったから」

「ど、どうして、アシュリーさん。あなただって、マナヤさんには残って欲しかったんじゃ」


 訴えかけるような目でアシュリーを見つめるシャラ。そんな彼女の視線を感じてか、アシュリーはそっと目を瞑るのみ。

 だが彼女のその表情を見て、テオはすぐにピンときた。


「……アシュリーさんが、折れたんですね?」

「テオ?」


 不思議そうにこちらを見つめてくるシャラ。テオはちらりとアシュリーに視線を送りつつ、なおも押し黙っている彼女を代弁するように話し始める。


「ほらシャラ、アシュリーさんはいつも、嫌な雰囲気になりかけたら空気を変えようとしてくれてたでしょ? マナヤと顔を合わせる度にぎこちなくなるのが耐えられなくて、アシュリーさんの方から折れたんだと思う。……違いますか?」

「……良く見てるわね」

「ご、ごめんなさい」


 思わず謝るテオ。以前、アシュリーの心中を勝手に推し量ってしまい怒られたことがある。

 しかしアシュリーは手を振った。


「ごめんごめん、責めてるんじゃないの。ただ純粋に、なんでそんなすぐわかっちゃったのかなって」

「ああ、ええと。それが僕の得意技だから、ですかね?」


 しどろもどろに答えるテオ。

 大きくため息を吐き、観念したようにアシュリーがこちらを見返してきた。その眼差しは、深い憂いをあらわにしている。


「その通りよ。こんな状態がずっと続くことに、あたしの方が耐えられなかったの」

「アシュリーさん……」


 シャラも目を伏せてしまう。アシュリーが自嘲するように笑った。


「それに、ずっとギスギスしてたら、逆にマナヤが消えるのが早まっちゃいそうな気がしたのよ。……だったらせめて、残った時間くらいは楽しく過ごしたかった」


 そう続いたアシュリーの言葉に、シャラがはっと息を呑む。テオも、その可能性には思い至っていた。


「それで、良かったのかもしれませんね」

「……あんたもそう思うの? テオ」

「はい。マナヤを繋ぎとめられるのは、きっとアシュリーさんしかいません」

「……」

「アシュリーさんがマナヤと楽しくやってくれたら。そうすればマナヤも、残ることを決めてくれるかもしれない」


 と、そこでアシュリーが再び瞳を揺らし、おずおずと訊ねてきた。


「あんたは、それでいいの? テオ」

「え?」

「だって……あたしがマナヤと、その……」


 と、少し顔を赤らめて俯く。そんなアシュリーのいじらしさに、思わずテオの顔がほころんでしまった。


「僕は構いません。アシュリーさんと……シャラが、それでいいなら」

「……うん。私もそれでいいよ」


 シャラが儚げにほほ笑む。


(本当は、少し怖い。けど)


 テオは不安を表に出さぬよう、無理やり笑顔を張り付かせた。

 マナヤが表に出ている間、ひとりになってしまうシャラのことを思うと心が痛む。しかし、ほかならぬシャラ自身が同意しているのだ。彼女の覚悟を否定したくはない。


「……テオ。シャラ」


 揃って微笑みながら頷いてくる二人に、アシュリーの表情も少し和らいだ。



「ありがとね、二人とも。……うん、あたし、頑張ってみるわ」



 気合を入れるように顔を上げたアシュリー。いつものような自信たっぷりの不敵な笑顔が戻っている。

 テオがほっとしたのも束の間。


(……シャラ)


 ちらりと、作業を再開しているシャラを見やる。

 金髪を揺らしながら手元に集中しているシャラの表情は、どこか陰っているように見えた。


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