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引きこもりテイマーが人間やめるまで。  作者: 猫村つばさ
序章
3/3

迷いの森

「迷いの森ぃい?」

 僕の隣で、グロリオが怪訝そうに言う。表情筋を駆使して顔面全体で「怪訝!」を表すが、対するアザミは表情を変えずに話を続ける。

「ああ、迷いの森。それが、この森の俗名だ。曰く、ここに迷い込んだ人間は二度と森の外へは出られないとか。」

「んで、あんたはなんでそんなとこに俺らを連れてきたわけ?」

 不機嫌そうにアザミを指さすグロリオ。アザミはグロリオを一瞥して、その辺に落ちていた木の枝を焚き火に放り込む。

「迷いの森、と呼ばれているが、実際には単に巨大なだけの森。肝試しに入って、そのまま何事もなく帰ってきた若者も多い。森の奥に迷い込んで帰れなくなった者が他の森より少し多かったから、そこから噂に尾ヒレがついて大袈裟に言われているだけだ。」

「へえええ。で、その『単に巨大なだけの森』で思いっきり道に迷ってちゃあ世話ねえよなあ、帝国騎士殿よお。」

 グロリオはジトッとアザミを見る。アザミは、考え込むように俯いてしまった。


 えっと、うん。迷子である

「前途多難やのう。」

 ウツギが、僕の膝の上で心底つまらなさそうに呟いて、くああ、と大きな欠伸をこぼす。


 ここまでのあらすじ。

 突然、お隣の帝国であるルフト・カイザラルックの騎士 (アザミ)に殺されかけた引きこもりテイマー(僕)は、引きこもりなのにどうして突然殺害命令が出たのかを知るため、親友の勇者 (グロリオ)と自称「大妖怪」の獣人少女 (ウツギ)と共に隣国へ乗り込むべく、とりあえず住んでた丘を下って麓の森に入ったわけなんだけど。

 自信満々に僕らを先導してた騎士さん、実はこの森に全く詳しくないことが判明。わたわたしてるうちにすっかり日も暮れてしまい、とりあえずちょっと開けた場所で一晩過ごすことにして、今、みんなでたき火を囲みながら作戦会議と洒落込もうとしているところである。


「で、どうすんだよこの状況。俺たち今めちゃくちゃに遭難してんぞ?」

「ああ、遭難しているな。」

「『それがなにか?』みたいな顔をするな。せめて悪びれろ。」

 ああもう、と、グロリオは頭をかきむしった。

「スキルとかでなんとかできねえのか?こう、『ルーラ』的なあれで」

「るーらが何かは分からんが、その点では私を頼るな。私はこの20年間、ひたすら鍛錬しか積んでこなかった。」

「お前まさかの脳筋かよ。」

「腕に自身はある。」

「今だけはいらねえよ。」


 二人の流れるような掛け合いを眺めながら、僕はウツギの毛繕いを手伝う。

 森に入ろうと茂みをかき分けようと沼を渡ろうと、頑なに白ワンピ一枚で切り抜けてきたこの獣人少女だったが、しかし流石に自慢のしっぽはボサボサになっていた。

「おかしい。一応の主人は僕なのに、なんでこいつの毛繕いを手伝わないといけないんだ。」

「うっさい。黙って手ぇ動かせご主人様♡」

「かわいらしくご主人様って言えばなんでも許されるわけじゃないからね?」

「こらそこぉ!じゃれてないで打開案を出せぇ!!」

 怒られてしまったので、僕も会議に参加する。

「グロリオ、テンション高いね今日。なんかいいことあった?」

「話が進まないから流すな。」

 流された。


「お前、テイマーだったよな?なんか、こういう状況を打破できそうな魔物とか使役してねえか?」

「残念ながら、今使役してんのはウツギだけだから、ウツギに聞いてくれ。」

「え、嘘だろお前。あの屋敷にいっぱいいたスライムとかフェアリーは?」

「あの子たちは近くに住んでた友達だよ。」

「…人間の友達が出来ないからって、お前……っ!」

 なんか、今すっごい哀れみの目を向けられた気がする。

 僕は、退屈そうに膝の上で足をばたつかせるウツギをみる。

「てか、ウツギのユニークスキルは僕も知らないんだ。頑なに自分のユニークスキルを教えてくれない。」

「は?あのでっかい茨がそうなんじゃねえのか?」

「ちゃうわ。あれはただの地面魔法と木魔法の掛け合いじゃ。うちの数百年の努力の結晶やぞ?」

 ウツギがやれやれと肩をすくめる。

「そない簡単に手の内を明かすかい。どっちにしろ、この状況では何の役にもたたんわ。」

「でも、僕たちは仲間じゃないか。」

「嘘は女を美しくすんねんで。」

「なんか聞いたことあんな、それ。」

 グロリオが苦笑いでそう言って、俺のギフトも何の役にもたたねぇしなあ、と困ったようにまた頭を掻く。


 黙って話を聞いていたアザミが、「あの、」と小さく挙手した。

「どうしてそんなにスキルにこだわるのか、きいてもいいか?」

「えーっとな、」

 グロリオは少し考えるようにしてから、はきはきと言葉を続ける。

「このまま、食料と水が少ない状態で魔物の出る森をあてもなく彷徨っていると、100%野垂れ死ぬ。だから、気休めでもいいから“指標”がほしい。地図とか、コンパス的ななにかとか。欲を言えばワープ系の何かを。まあ、別にスキルにこだわらなくともいいがな。」

「なるほど。ワープ系に限らないのならば、『マッピングスキル』というものがある。」

「それを早く言え。」

 グロリオと僕が身を乗り出す。イスにしていた僕に突然動かれて、ウツギは迷惑そうだった。

「なんで『私を頼るな』とか言ってたんですかアザミさん!」

「落ち着け。私だって、『マッピングスキル』の存在を忘れていたわけじゃない。むしろ、森に入った時点で発動させていたよ。ただな、……奇妙なんだ。」


 アザミは、羊皮紙を取り出して、僕たちの前に広げる。それには、まるで無数の渦巻きのような不思議な模様が描かれていた。

「これは…?」

「…『マッピングスキル』は、術者が通ったところの周辺を地図に起こしていくスキルだ。そしてこれは、今日『マッピングスキル』で作成した地図、のはずなんだが。」

「え?これがですか?」

 僕は、差し出された地図を凝視する。僕たちは、森に入ってからここまでひたすらまっすぐ歩いてきたはずなのに、地図が示す「今日僕たちが歩いた道筋」は、ぐるぐると円を描き、複雑に絡み合っていて、どう考えても僕たちが歩いた以上の距離を、不規則に示していた。なにより、

「これ、最終的に元の場所に戻ってませんか?」

「そうなんだ。ぐるぐると歩き回って、最終的に元の丘のふもとへ戻ったことになっている。」

「でも、ここはあの丘なんかじゃないぜ。どう考えても森のど真ん中だ。」

「その通りだ。」と、アザミはグロリオに頷いてみせる。グロリオの表情に絶望のような色が混じった。

「それはつまり、どういうことになるんだ?」

「……マッピングスキルが、乱れてる。おそらく、コンパスも役に立たないだろうし、ワープスキルも正常に作動するかも怪しい。……『迷いの森』は、ただの『巨大なだけの森』じゃない、と考えた方がいいだろう。」

 アザミが神妙に言う。ウツギの耳がぴく、と動いた。


「まて。迷いの森ゆうたか、今?」

「え、うん。何を今更?」

 よいしょ、というかけ声と共に、ウツギが立ち上がる。大きなしっぽが揺れて、ウツギの顔が僕から見えなくなる。

「ほな、昔の知り合いがおるわ。」

「昔の知り合い?その人に協力してもらえば、ここから出られるの?」

「おう。むしろ、そいつに協力してもらわんとここから出られんやろうな。そいつが、この森の “ヌシ”やけんな。」

「そうなの!?」

 グロリオが勢い余って立ち上がる。ウツギは気怠げにグロリオを見て、鬱陶しそうな顔をする。

「やかましいわ。焦んのは分かるが、あんませかせかしよったら幸せ逃すで。」

「な、なんでそれをすぐ言わなかったんだ?」

「普通に話し聞いとらんかったわ。」

「話ぐらい聞いとけよ。」

 ウツギは感情の籠もっていない声で「てへ」と言い、拳で自分の頭をこつんと叩いた。

「あいつは寂しがり屋やけん、定期的に森に人間を閉じこめるんや。今、うちらはあいつの結界の中におるわけや。」

「じゃあ、どうすれば…」

「別に、あいつも人間を殺したいワケやない。ただ遊んでほしいだけや。あいつを捕まえたら、無事に森から出してやるはずやで。」

 あいつは鬼ごっこが一等好きやけんな、と、ウツギは微笑んだ。


 ○●○●○●○●○●


 翌朝。

「いた。」

 まだ日の登り切っていない時間に、僕とウツギは、ちいさな洞窟の前で奇妙な見た目の小さなウサギを見つける。

 ツギハギのように黒と白が混ざり合った体色に、左右で色も大きさも違う目。右耳は地面につくほど長く、左耳はネズミほどに短く小さい。そのアンバランスな見た目は、薄暗い時間帯なのもあいまって不気味に映った。

「あれが『アシンメトリーラビット』?」

「ああ。やっぱ巣穴におったな。前に会うたんは、14…いや、15年前か?」

 ウツギは、何故か僕の方を見ながらしみじみと言う。たしかに僕は今年で15歳だけど、それとこれとは関係ないはずだが。


「本当に、昨日の作戦でいいの?」

「おう。まあ、なんもかんの作戦通りに行くとは限らんけど、その辺りは臨機応変にいこや。」

「そうじゃなくて、本当に昨日の作戦で大丈夫なのか聞いてるの。」

「その議論は昨日散々したやろが。」

 ウツギは、アシンメトリーラビット、いや、その奥の茂みに目をやる。僕もつられるようにそこを見てみるも、薄暗いからか茂みの奥になにがあるのかよく見えなかった。

「あいつも、多分もううちらの存在にきづいとうよ。今更後戻りやできんで。」

 ウツギの言葉に呼応するように、アシンメトリーラビットは色の違う両眼でこっちを見上げ、笑うように口元を歪ませた。

「行くで。」

 ウツギは、潜んでいた茂みから飛び出した。


 ○●○●○●○●○●


「はあ、はあ、はあ、はあっ!」

 ぜんっぜん、追い付けない!

 流石森のヌシだけあって、複雑な森の中を迷いなく軽やかに駆け回っている。時々振り返って挑発する余裕まであるようだ。「ピルピルピルピル!」という甲高い鳴き声が薄暗い森の中で反響している。

 捕まえられそうで捕まえられない、絶妙な距離を保ちながら、がむしゃらに追いかけてくる僕たちを嘲笑うように目を細めた。

 本当に、鬼ごっこを心から楽しんでいる。いや、鬼ごっこを、というより、追いかけてもあと一歩届かない“人間の必死に足掻く姿”を楽しんでいると言った方が正しい。

 もはや前なんて全く見ていない。油断丸出しの余裕綽々な態度だ。

 その油断こそ、僕たちがつけいれる絶好のチャンスになる。


『本当に、こんな安直な作戦が通るのか?』

『安直だからこそ、逆に『こんな作戦たててこんだろ』って言う盲点になる。そこを突くんや。ふふ。それこそ“油断”やね。』

『しかし、この戦略は、この状況ではあまり意味を為さないのでは…』

『だいじょーぶやって。うちを信頼しぃ。セオリーばっか気にしとったらあかん。たとえ安直に思えても、それが打開の一手になりうることもあんねんで。』


「ーーーっおらあ!」

 後ろの僕たちを挑発することに集中して、前方への注意が薄れたタイミング。前方の茂みから、アザミとグロリオが武器を携えて飛び出した。

 アシンメトリーラビットは驚いたように飛び上がり、二人の攻撃の手をかわす。そして、加速しようとした脚が、ぴたりと止まった。

 そこは、洞窟と呼ぶほどでもない小さなくぼみだった。雨宿りにちょうどよさそうなドーム状のくぼみ。壁は硬い岩で、くぐり抜けられそうな隙間もない。そして逃げ場は僕たちが塞いでいた。

「挟み撃ちーー。確かに安直だが、いざ決まると強いな。」

「せやろ?戦略としては優秀なんやで、挟み撃ち。」

「俺らの武器にビビって飛び上がっただろ今?まあ、アザミさんが剣構えてたら、マジで生命の危機感じるよなあ。」

「さあ、もう逃げ場はないよ、アシンメトリーラビット。」

 じりじりと距離を詰めてくる僕たちに、アシンメトリーラビットは観念したように頭を下げた。かに、見えた。

「ピル!」

「うわっ!?」

 突然、アシンメトリーラビットが僕に向かって突進してきた。よろめいた僕の足元をすり抜けて、あっという間に姿を消してしまった。


「ありゃあ。」

「ちょっとぉーー!やっぱダメじゃねえかよ!」

「やはり、森の中の鬼ごっこで挟み撃ちなど、通るはずがない。」

「手のひらドリルすんなくるっくるやんけ。」

 詰め寄るアザミとグロリオに、ウツギは苦笑いを返す。しかし、何故かその表情には余裕が残っているように見えた。

「と、とにかく、これからどうすんのさ。見失っちゃったよ?」

「まあまて。多分、そろそろ…」

 そのとき。少し離れた場所から、「ピギャ!」という甲高い声がした。ウツギが不敵に笑う。

「ビンゴ。」


 ○●○●○●○●○●


「挟み撃ちで追い込み漁とかいう安直な作戦にひっかかる馬鹿やおるわけないやろ」

 僕たちを散々翻弄したアシンメトリーラビットが、地面に開いた小さな穴の中で目を回していた。その脚には、見覚えのある茨が絡みついている。唖然としている僕たちに、ウツギは自慢げに説明を始める。

「そもそも、こいつは結界内のあらゆる生き物の位置を感知できる。挟み撃ちなんざ絶対に引っかからんわ。けど、地形までは感知できん。落とし穴ーー原始的やけど、効果は抜群やったみたいやな。」

「はああああ???」

 グロリオが疑問の声を上げる。いや、くそでかいため息だったかもしれない。

「住み慣れた森だからこそ、人間どもの苦肉の策を突破して油断したところの予期せぬ落とし穴にや対応仕切れんやろうな。さらにその上、こいつの性格上『次の鬼ごっこ』のために、場所の分かりやすい巣穴に戻るやろうと予測できたけん、通り道の推測もできる。」

 アザミはあまりの急展開にきょとんとしている。グロリオは頭を抱えて、ウツギを見る。

「じゃあ、なんで最初からその作戦を言わなかったんだ?」

「包囲網を突破されても。次の罠がある。そういう意識は、どうしても表情に出るもんだ。こいつはそういうの鋭いからな。あっさりバレて失敗する公算が高かった。敵を欺くならまずは味方から、ってやつや。」

「……」

「なんや、その不満そうな目は。ゆうとくけど、嘘はついてへんで。作戦を全部説明せんかっただけや。」

 ドヤ顔で胸を反らせるウツギ。グロリオが助けを求めるように僕を見る。僕は目を逸らした。

 ごめん。こいつはこういう奴なんだ。


「…ピル」

 落とし穴の中で、アシンメトリーラビットが目を覚ました。プルプル、と身震いをしてきょろきょろと周りを見渡していたが、やがて頭上の僕たちに気づく。

「よお、ラビット。15年ぶりやな。」

「……ウツギじゃないッピか。ひさしぶりピル。よくそんな細かい年数まで覚えてられるピルね。」

 アシンメトリーラビット、普通にしゃべり始めました。

「えげつない罠だなと思ったら、ウツギが関わってたピルか。やっぱり手強いピルねぇ。これで100勝201負けピル。」

「正しくはあんたの98勝211敗3引きや。ちょっと盛るな。」

「相変わらずニンゲンみたいに細かい奴ピル。」

 やれやれ、と肩を竦めたアシンメトリーラビットは、落とし穴の中からぴょんと飛び出してくる。脚に絡まってた茨は引きちぎったようだ。まだ脚に切れ端が巻き付いている。

「だいたい、あんたはすぐ油断しすぎやねん。えげつないもなにも、ただの落とし穴やし。」

「いやでも、ただの落とし穴を的確に使用してくるのがウツギの強みピル。ほんと、遊んでて飽きないピルよ。」

「おう、そうか。ところでこの人間があんたに言いたいことがあるらしいで。」

 ウツギは強引に話を切り上げて、僕の背中を叩きながら早口にまくしたてる。


「ま、待って。なんで僕が、」

「こいつ、このあと絶対『もう一回するッピ!』って言うで。結界に迷い込んだ哀れな人間として、今すぐ出してくれるようおねだりしぃ。」

「お、おねだり…。」

「ちなみに、ラビットの『もう一回!』の最長記録は120年や。」

「大ピンチじゃん!」

 あ。アシンメトリーラビットがきらきらした目でこちらを見上げてくる。さっきのウツギの発言は聞こえなかったのか、聞こえなかったことにしたのか。

 とにかく、これ以上この森に閉じこめられ続けるわけにいかない。

「ウツギ!ボクともう一回…」

「あ、あの!」

 突然話を遮られたアシンメトリーラビットが、不機嫌そうに僕を見る。

「ああ、まだニンゲンもいたッピか。ボクに何のようッピ?」

 まるで初めて僕の存在に気づいたかのように、大仰に驚いてみせる。一瞬心が折れそうになったが、ええいどうとでもなれ、とアシンメトリーラビットに食らいつく。

「ぼ、僕たち、この森から出たいんです!この結界を解いてもらえませんか?」

「ダメピル。」

 即答!?

「お前らウツギの仲間ピルね?ウツギのことだから、お前らを出すために結界を解いた一瞬で逃げ出すに決まってるピル。」

「ぎく」

 口に出してぎくって言うなお前!

「それに、お前らの囮作戦もなかなか面白かったピル。もっとボクを楽しませるッピ!」

「え、ええええ……こ、困りますよ…」

 ダメだ。どうすればいいのか分からない。生まれてこの方ずっと引きこもってたような人間に交渉(?)とか任せないで欲しい。


「お前、ほんま遊ぶん好きやなあ…」

 呆れたように言うウツギに、アシンメトリーラビットが頬を膨らます。

「だって、ずっと同じ森の中ピルもん。いい加減飽きたッピ。」

「…君は、森の外に出ないのか?」

 今までだんまりだったアザミが口を開いた。アシンメトリーラビットは馬鹿にするようにアザミを一瞥する。

「ボクは世界で唯一のユニークモンスターピルよ?のこのこと自分の領域である森から出たら、即座にニンゲンどもが群がってくるッピよ。まあ、ニンゲン如きに遅れをとるボクじゃないッピが。ほら、自分の近くで虫が

 群がってたらウザいピルよね?」

「なるほど。なら、デルフィにテイムされてみてはどうだろう。」

「はあ!?」

 叫んだのは僕か、アシンメトリーラビットか。とにかく、平然と出された想定外な提案に、僕はしばし呆然となる。

「どういうことだ?いや、言わんとすることは分かるんだが、なんでこの話の流れでそうなる?」

 グロリオが訝しげにアザミを見る。アザミはアシンメトリーラビットを見下ろして、淡々と言葉を続ける。

「要するに、君は刺激が無くて退屈しているのだろう?なら、テイマーであるデルフィにテイムされて、森の外の世界へ出ればいい。外の世界は、きっと君の知らない事がいっぱいで、刺激的だと思うぞ。その上我がルフト・カイザラルックでは、他人がテイムしたモンスターに手を出すことを禁止している。」

 安全だ。と、アザミは自慢げに胸を張った。アシンメトリーラビットは考え込むように俯いて、しきりに「そうか、そうか、」と繰り返している。


「よし、分かったピル。ニンゲン。ボクをテイムさせてやってもいいピルよ!」

「え、あ、ほんとにいいの?」

 偉そうにふんぞり返ったアシンメトリーラビットは、満足げに笑う。

「ふん、ヒトにテイムされてしまえば、もうニンゲンから群がられることは無いッピ。そしたら外の世界を存分に堪能出来るッピよ!」

 先ほどアザミが言ったことを自慢げに繰り返して、アシンメトリーラビットは色の違う両の目で僕を見る。

「せいぜい楽しませるッピよ、ニンゲン。」

「うん。出来る限り、頑張るよ。…その前に、僕はニンゲンって名前じゃないよ。僕はデルフィ。デルフィ・フラワーガードだ。」

「ふーん。デルフィ。これからよろしくッピ!」

「うん、よろしく、アシンメトリーラビット!」


『テイム!』

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