ある平凡な冬の日、婚約者の浮気を知ってしまいました。しかも、それによって婚約破棄されてしまいました。(後編)
一人の青年が声をかけてきて。
「あ……はい、こんにちは」
私はただ戸惑うことしかできなかった。
だって知らない人から急に声をかけられたんだもの。そんな唐突で不思議な出来事に素早く対応できるわけもない。硬直せず言葉を返せただけまだまし、というくらいのものである。
「お一人ですか?」
「そうですね」
「今日はまた、いちだんと寒いですね」
そこからは自然な流れで。
その青年と意味もなく二人会話することとなった。
彼は別れしなクックトリフの名乗っていた。
◆
あの冬の出会いからちょうど一年半が経った今日、私はクックトリフと結婚する。
出会いはなんてことのない平凡なものだった。それはあまりにも派手さのないもので。平凡な冬の日に遭遇して何となく喋った、ただそれだけの始まり。
けれども私たちはそこから関係を深めていって、その先で、こうして結ばれるに至ったのである。
でも、彼を選んだことを、私は少しも後悔してはいない。
だって彼は楽しい人だ。
それに優しさだってある。
包み込むような優しさをまとっている彼と喋っているといつだってとても楽しい。
だからこそ、私は彼を生涯のパートナーに選んだのだ。
「今日は新しい始まりの日、だからね。とびきり素敵な花束を用意しておこうと思ったんだ」
「え」
「サプライズプレゼントっていうの? こういうの。経験があまりになくて……ちょっと困ってあれこれ考えつつだったんだけど、ね……ということで、これを贈るよ!」
結婚式終了後、彼は花束をくれた。
「え!? は、ははは、花束ッ!?」
「うん」
「え、あ、いや……ちょ、どうして!?」
「いやだから特別な日を祝って」
「私何も贈れるものがないです! えと、どうしましょう!?」
「いやいやいいよそんなのは。気持ちだけで嬉しいから。一緒に歩もうと思ってくれている?」
「もちろん!」
「ならそれでいいんだよ。これはただ自分が贈りたいと思ったから贈るだけで」
ちなみにクルテスとリリフィエラは既に死んだ。
クルテスは私との婚約破棄の件を皆に広められたくないがために私を殺そうとした。しかしそれには失敗。すると今度は私の親を殺そうとする。しかしその時たまたま近所の人に見られてしまい、通報されて、それによって彼は牢屋送りとなった。
その後、これまでに行った複数の殺人未遂がぼろぼろ出てきたために国から問題のある人物とされ、処刑された。
また、リリフィエラはというと、クルテスの死後第二王子に接近し彼に横領させようとしたことで逮捕される。
それから少しして、牢屋内にて、何者かに刃物で刺されて。
その一件によってリリフィエラはこの世を去ることとなってしまったようであった。
◆終わり◆




