ある平凡な冬の日、婚約者の浮気を知ってしまいました。しかも、それによって婚約破棄されてしまいました。(前編)
「お前なんてなぁ! リリフィエラの足もとにも及ばねぇ低級女なんだよ!」
その日私は婚約者クルテスの浮気を知ってしまった。
たまたま彼の家を訪ねたところ彼が自宅のそれも自分の部屋に女性を連れ込んでいるところを目撃してしまったのである。
寒い寒い、雪の降り出しそうな冬の日のことであった。
「その程度のくせに浮気だ何だと言うなど……馬鹿だろ!」
クルテスは自分が悪いことをしていたにもかかわらず私が悪いかのような言い方をする。
明らかに、非があるのは、婚約者がいる身でありながら他の女を抱き締めていた彼なのに。
「待ってください、私は」
「それになぁ! こそこそ嗅ぎまわりやがんのも気に入らねぇ!」
「そういう話ではなくて、ですね。私はただ、この前のお返しを持ってきただけなのです。嗅ぎまわっていたなんて、そんなわけでは――」
何とか理解してもらおうとする。
けれど私の言葉は彼には届かない。
「あーあーあー! もういい! お前なんかとの婚約は、破棄だッ!!」
こうして私は切り捨てられたのだった。
しかも。
「んもぉ、クルテスったら、婚約者さんが可哀想よぉ? んふふ」
「いいんだよ、リリフィエラ」
「そうなのぉ?」
「あんなやつどうでもいい」
「それはぁ……んふ、可哀想にねぇ。くすくす」
クルテスとリリフィエラ、仲睦まじく四肢を絡め合う二人から、馬鹿にしたような笑いを投げつけられてしまって。
何とも言えない気分だった。
自分が惨めに思えて。
納得できないけれど何か言い返すこともできない、そんな状態で、私はただそこから立ち去ることしかできなかった。
無難に生きてきたはずなのに。
迷惑なんてかけていないはずなのに。
なのにどうしてこんなことになってしまったのだろう。
帰り道は憂鬱だった。そして涙もこぼれた。あまりにも惨め、そして、生きてきた道を後悔する感情すらも生まれてしまいそう。でも彼らの策にまんまとはまって落ち込んでいる自分への苛立ちもあり。
ごちゃまぜになった感情たちに行き場はなかった。
◆
帰宅後、両親に事情を話すと、二人は激怒してくれた。
父も母も私の味方だった。
それだけで少しは救われた気がして。
嬉しさはあった。
けれどもそれですべてが終わるわけでもなくて、胸の内に渦巻く悲しみが消えるわけでもなかった。
――そんなある冬の日。
その日私は一人出掛けていた。といっても深い意味はない。目的があってのお出掛けでもない。ただ一人になってぼんやりとしたかった、それだけであった。
そうしてベンチに座って空を見上げていたら。
「こんにちは」




