晩餐会の最中に婚約破棄を告げてくるとは失礼な男ですね。~彼は呪いの餌食となったようです~
「リーア、君は僕に相応しい女性ではない! よって、婚約は破棄とする!」
婚約者ミドルがそんなことを告げてきたのはある晩餐会の最中だった。
「こ、婚約破棄……ですか?」
「ああそうだ」
あまりにも唐突で戸惑いしかなかった。
すぐには何を言われているのかすら理解できない。
「僕はずっと君が僕に相応しい女性になるため努力するだろうと思っていた。だからこそ僕は、リーア、君を婚約者にしたんだ。まぁ顔だけは好みだったしな」
今日のミドルは不自然なほどに上から目線だ。
「え……」
思わず漏れてしまう困惑の声。
「けど、君は努力しなかった。僕に相応しい女性になろうとしなかった。だからもうやっていくのは無理なんだ」
「急に何を」
「分かったか?」
「あまりにも急で……正直、まだ、あまりよく分かっていません」
正直なところを口にすれば。
「ああやはり馬鹿なのだな」
彼はそんな言葉を返してくる。
失礼過ぎる……。
あまりにも無礼だ……。
「つまり、君との関係は今日で終わりということだ。現時点をもって、僕たちは他人となる」
こうして私はミドルに切り捨てられてしまったのだった。
◆
「何だあいつ! ミドル! あいつ裏切り者だ!」
一連の話を聞いた父は激怒した。
そして感情のままに「あんなやつ、消えてしまえ!」などと吐き捨てた。
「怒らせてごめんなさい、父さん」
「いやお前は悪くないだろう?」
「……でも、申し訳ないわ。私のせいで」
「いやいや何を言い出すんだ。お前には非は一切ないのだから、お前が自分が悪いと思う必要なんて少しもない」
――それから数日、ミドルの死を知った。
その日彼は夜中に目覚めたそう。すると周囲に、ベッドを取り囲むように、謎の黒く長い毛が垂れ下がっていたそうで。思わず絶叫してしまったそう。するとその毛は意思を持っているかのように動き出し、彼の首へと絡みつく。彼はそのまま毛に首を絞められ、朝には亡くなっていたのだそうだ。
「信じられない……」
そんな話を聞いた直後に。
「何が起きたのか、父が教えてあげようか?」
父は意味深な発言。
「え? え、ええ。でもどうして。父さんは何が起きたか知っているの?」
「呪いをかけたんだ」
「え……」
「そう、呪いだよ」
「の、のろ……って、え、呪い? 術みたいな、アレ?」
「そうだ」
「えええー……」
まさかの情報であった。
呪い、という言葉は聞いたことはある。でも信じてはいなかった。あくまでも想像上の術みたいなものだと思っていて。実際に存在するのだと、そして、実際に効果があるのだと、そんな風には捉えていなかった。
でもミドルが亡くなったということは……。
「じゃあミドルはそれで?」
「ああそうだ」
ミドルが死んだこと以上に信じられなかった。
「そうだったの……」
◆
婚約破棄とミドルの死から三年が過ぎた。
私は今日結婚式を挙げる。
相手は代々国を護る儀式を執り行ってきた家の出である、清らかで誠実な青年だ。
「リーアさん、幸せになりましょうね」
「ええもちろんです」
私たちは今日新たなる一歩を踏み出す。
◆終わり◆




