さらりと婚約破棄されました。意味不明です。……が、まぁ、幸せを手に入れられたので穏やかに生きていきます。
「君とはもうやっていけない。いや、やっていかないことにしたんだ」
その瞬間は突然やって来た。
「……と、言いますと?」
婚約者同士である私たちは順調に関係を進めてゆけていると思っていた、のに。
「つまり君との婚約は破棄するということだよ」
彼は私と同じようには思っていなかったようで。
「ええええええ!!」
今まさに婚約破棄しようとしている婚約者オールトレッツ、彼は理解不能とでも言いたげに首を傾げる。
「何を驚いているんだ?」
そんなことを言いながら。
私がなぜ驚いているか、それすら分からないというのか?
……おかしな話だ。
呆れるほどに。
そして、どこまでも。
オールトレッツはもっと聡明な人だと思っていた。でもどうやらそれは私が勝手に思っていただけだったみたい。思い込み、勘違い、そういった類のものだったようである。
「君と僕、二人はつり合っていない。それは前々からいろんな人に言われていたことだ。もしかして君は、本気で、つり合っているとでも思っていたのかい?」
「……ええと、あの、普通に順調だと思って」
「ぎゃははははは!!」
「え? え?」
「本気か! 本気でそんなことを思っていたとは、な! あーっはっはっはははは! おもしれぇ! 面白すぎだな!」
オールトレッツは腹を抱えて笑った。
こちらは真剣な面持ちでいるというのにお構いなし。
「あーうけたうけた」
「どうしてそんな風に笑うのですか?」
「何言っているんだい? 僕は面白い時に笑うってだけさ」
「ええ……」
「それだけのことだよ。単にね。それ以下でもそれ以上でもない」
「そう、ですか」
こうして私たちの関係は終わりを迎えたのだった。
◆
婚約破棄から二週間ほどが経ったある日、新聞に、オールトレッツが女に殺されたという記事が載っていた。
オールトレッツには私との婚約期間中から付き合っていた女がいたようで、彼は私を捨てその女性の方へ行こうとしたようなのだが、その際その女に婚約者がいたとばれてしまい――それによって激怒され、喧嘩になり、その果てに殺められてしまったそうだ。
ただ、半分事故のような状況であったようだけれど。
だが何にしても彼がこの世を去ったことは事実である。
◆
オールトレッツとの婚約が破棄となった日から一年間ほど、私は、少し暇だったこともあって伯母が営む茶葉店で手伝いをしていた。
忙しい日々。
慣れないことに追われる毎日。
それでも私は楽しく働けていた。
そして、そんな中で迎えた春の日に、常連客の一人である青年から「実はずっと好きでした」と思いを告げられて。そこから彼との関係は始まった。徐々に特別な二人へと変わってゆくこととなった。
そして結ばれる。
彼が裕福の家の出であったこともあって穏やかな暮らしを手に入れることができた。
私はこれからも彼と共に生きてゆこうと思う。
愛と勇気で、前へ。
どこまでも突き進むつもりだ。
◆終わり◆




